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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第1章 そうだ 王都へ行こう
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悪運も運のうち 2

本日2話目です。

ちょっと戦闘シーンっぽいのがあります。

微妙ですが、苦手な方はご注意ください。

 カラン、と暗闇に食器が転がる音がした。

 わたしは浅い眠りを払って寝袋を内側から引っぺがす。緊急事態にいつでも取り払えるよう、寝袋は内側から簡単に開くようになっているのだ。


 まだ夜明け前らしく、わたしの身体は女の子になっている。暗いから、まいっか。


 食器は艶を消した黒っぽいもので、暗闇ではほとんど見えない。入口に置いて寝たので、誰かが侵入しなければ鳴らない音だった。

 誰かが驚いて小さく声を上げるのを聞いた。わたしは、声を立てずに起き上がって、その声のした方に突進する。身を低くして相手の右わき腹へ肘をねじ込めば、男性ほど体重が無くてもそれなりの衝撃になる。名付けて、「必殺、肝臓破壊」。


 一人はうずくまったようだが、横からすかさずわたしの腕を掴む人間がいる。声を上げないところをみると、他の人間に起きて欲しくないのだろう。

 わたしは目を背けて、掌を相手に翳し、得意の光魔法でピカッとやってやった。

 暗闇に慣れた目にそれは拷問に等しいだろう。抑えてはいるが、悶絶するような呻き声に、自分で誤ってちょっとやってしまった時の苦しさを思い出す。


 だが、相手に同情はしない。何故なら、その相手の手には剣が握られていたから。わたしは隠し持っていた剣でその頭をしたたかに殴った。もちろん鞘を付けたままですよ。


 昏倒した人間を見ると、それはわたしたちの護衛の冒険者たちのうちの二人だった。外れて欲しい予想は外れないものだと痛感する。


 怪しいよね、あれだけわたしたちを観察していれば。きっと荷物や所持金や戦える力があるのかとかなんかを観察していたんだろうな、と。

 一応、寝る前に見張り以外の男達が、就寝を装って軽鎧を脱いでいるのを確認していた。もちろん、軽鎧を付けている方が来ないとも限らないが、皮鎧でも意外と身動きすると音が出るので、わたしたちを起こさないために軽鎧は脱ぐと踏んでいた。でないと、わたしの肘がそれは痛いことになるところだったが、幸いにも予想は当たって、綺麗に急所に入って大きな怪我もしなかった。うん、観察って大切だね。


 恐らく、行商人のおじさんが言っていた行方不明の旅人の件に絡んでるんだろう。四人のうち一人は、達成証明を書く依頼人の役とかで本当に旅の募集に応募して、集合後はしれっと護衛役として参加すれば違和感は無いし、本当の依頼人だから証明を書くのも不審ではない。複数の依頼人がいる時は、全員の署名があればギルドへ届け出るのは代表者のみでもいいのだ。偽造でも何でも簡単だろう。


 冒険者登録しているのは、実際は三人なんだろう。だって、パーティ名が「三叉の鉾」なのに、何で四人?って最初から疑問でした。多分、達成証明を提出しにギルドに行く際、一人は依頼者でパーティは三人だと印象付けたいからこその名前なんだろうな、と思う。

 あと、旅が始まってからも依頼人のままだと、冒険者と変に意思の疎通をしていたら怪しく思われるから、「三叉の鉾」なのに四人にならざるを得ない、というとこかな。


 わたしは、四人の目が届かないうちに、行商人のおじさんたちには隙を見て話しておいた。おじさん達はそういう危険があることを承知しているのか、青ざめながらもわたしの言うことに耳を傾けてくれた。恐慌状態になると可哀想なので、年少組には内緒です。


 というわけで、先ほどの突然の攻撃と相成るのだが、わたしの所に半数を割いたのは、わたしがさも冒険者として活動していたのを隠すような言い方をしたのを警戒してのことだろう。嘘は言ってませんよ。「冒険者に交じって旅してた」というのは本当ですから。ただ、わたしが非戦闘員で冒険者本人じゃないというだけで。


 なので、わたしを重点的に抑えようとしたのだろう。わたしの捕獲または無力化の後に他の人達を拘束するつもりだったとみえる。わたしは、足音を殺しながら他の房を見てみた。中央に共有空間があり、そこに残りの二人が仲間の合図を待ち構えているのが見える。下手に皆を呼べば、怪我をさせたり最悪命を取られたりしてしまうかもしれない。他の人達はジッとしていてもらった方がいいだろう。

 さて、どうしよう。


 取りあえず、荷物から縄を取り出して二人を括る。あと、声が出せないように、口に何か詰めておいた方がいいのだけど、何かないかな。

 手近なものがなかったので、仕方なくわたしは皮手袋をはめて男たちの靴を脱がせ、その靴下を丸めて口に突っ込んだ。それぞれ自分の靴下にしてやったのは、わたしなりの情けだ。感謝してほしい。でも、くっさい。


 ハッキリ言って、二人の冒険者を制圧できたのはまぐれだ。わたしは生活能力には自信があるが、戦闘力はほぼ無いと言っていい。普通の女の子よりは鍛えたけど、本職の戦士に真正面から挑んで勝てるなんて思っていない。それに、今わたしは女の子の身体に戻っている。まさに窮地です。


 考え出すと震えが止まらなくなるので、強制的にでも思考を切り替えよう。

 こちらが何も知らないと思って、相手が完全に油断している今しか勝機は無いだろう。

 んん、何とか一人だけでもおびき出せないか。わたしが使えるのは、しょぼい……ささやかな治癒魔法と光魔法だけ。考えろ。そしてすぐに天啓がひらいめいた。


 ああ、夜って碌なこと浮かばないって本当なんだなぁ。思いついたのが、「おばけかな? おばけじゃないよ、魔法だよ」作戦だ。


 光魔法で作った光体を、極力光度を下げて朧気にする。そして、何となく顔と肩に見えるような形にする。前に、人間の頭から肩の形は自然の中ではあまりない造形なので、結構目立って人間と認識されやすい形だと聞いたことがある。やってみると結構うまくできたが、作った本人が言うのも何だが、ちょっと怖い……。十分ゴースト系アンデッドに見える。


 ああ、あのおじさんが言っていた噂とか思い出しちゃった。いや、気を取り直して!


 時機を見計らって、その光体を男たちの目を掠めるように、ほよよ~と弱く放った。


「おい。何か通らなかったか?」

「あいつらじゃないのか」

「いや、あいつらはあの冒険者のガキが本当に男か確認に行ったからな。もし女だったら高く売れるぜ」

「ああ? なら、ネズミでもいたか?」

「いや、もっとでけえ何かだったと思うけど」


 やっぱりこいつら人攫いだったんだ。部屋に来た男たちの目的を聞いて全身に鳥肌が立つ。でも、ここはグッと我慢だ。残った男たちは、わたしの狙い通りの反応をしている。わたしは自分の房に続く廊下の低い位置に縄を張ると、先ほどの光体を罠の方へ動かした。


「やっぱり何かいるぞ。行商の親父が言っていた魔物でも紛れ込まれたら、俺らの商品がダメになっちまうかもしれねえ。他の奴らが起きる前に確認してこい」

「……俺、が行くのかよ」

「何だ、幽霊でも出るとか信じてるのか?怖えのかあ?」

「んなわけねぇだろ!チッ、しゃーねーな」


 一人が部屋を離れた。心なしか、その動きは恐る恐るといった感じだ。その動きに合わせて光体を動かす。

「くそ、何なんだよ!」

 悪態をつきながらチラチラ見える光を追って廊下に踏み入って来る。わたし一人だけど景気づけに、せーの、と心で掛け声をかけて、床に張った縄を引っ張った。


「うわっ」

 変な声を上げて男がすっ転ぶ。そこにすかさず剣を振り下ろした。もちろん鞘に入ったままですよ。ギャッと、悲鳴を上げて昏倒した。これで三人。


「何だ!」

 最後に残った男が、異変を感じ取ってやってきた。まだわたしと男の間に距離はあったが、そこで最後に例の「ピカッ!」をお見舞いしてやる。それと同時にわたしは大声を上げた。


「皆さん、起きてください!今です!」

 男が眩しさに呻いたところに、一番近くの部屋にいた行商人の叔父さんが飛び出してきて、手に持っていた何かを投げつけた。ボワッと広がったのは灰だ。暖炉の灰を投げつけたようだ。男は灰が目と鼻に入ったらしく、軽く悶絶している。そこに、わたしはもう一撃ポカッとやった。

 ふふ、盗賊、恐るるに足りず。


「ありがとうございます」

「いや、ほとんどあんたに任せっきりだからな。最後ぐらいいい恰好しないとな」

 照れるおじさんに笑いかけると、遅れて出てきたもう一人のおじさんにも、伸びている二人を縛り上げるのを手伝ってもらった。


「って、あれ?兄さん、少し縮んだか?」

 忘れてました。今は女の子に戻っているんでした。

「や、やだなぁ。背が低いんで、いつもは厚底の靴を履いているんですよ~」

「そうか。男ってのは、見栄を張りたいもんだよな」

「ははははは」

 声は低く出していたし、幸いなことに暗くてあまりちゃんと見えないようなので、何とか誤魔化せたか。時間的にはもう夜明けだ。あとちょっとだけ誤魔化せればいい。


「僕、救援の合図を上げてきます」

「悪いな。頼むよ」

 おじさんの元から離れ、宿砦に配備されている信号弾の筒を取ってくる。信号弾は、魔力か火を付けると打ちあがる狼煙のようなものだ。わたしは、女の子に戻っているのを誰にも気づかれませんようにと祈りながら外に出る。外といっても宿砦の壁の中で、前庭のようになっている場所だ。寒っむ!


 星も無い曇った夜空だが、東の方がうっすらと明るい。わたしは安堵の息をついて、空へ向かって光魔法で信号弾を打ち上げた。これで、付近のいずれかの兵団の見張りが気付いてくれるだろう。早ければ一時間もすれば駆けつけてくれるはずだ。


 大きく息を吐けば、夜明け前の最も冷え込んだ大気に白い吐息が散る。

 とりあえず、命の危機は去っただろう。身を守るために仕方のないこととはいえ、今更ながらに寒さとは違った震えが身体に走る。だって、女の子だもん。


 夜空を見上げていると、手足の感覚がふっと鈍る。女の子から体が変わる時間だ。骨格が変わるのに痛みや辛さは無いのだが、見る間に変わる姿に未だに慣れない。


 二度目の息をついて、わたしは砦の中に戻った。

次回はもうちょっとわちゃわちゃします。


閲覧ありがとうございました。

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