取り扱い要注意人物たち 1
魔術師団のトップの人が出てきます。
ちょっと短めの投稿です。
休憩時間を終えて、アレクさんを起こすと、軽く挨拶をして仕事に戻った。
やっぱり、イヴリンさんが困ったように言うように、別にアレクさんは寝起きが悪い訳ではなかった。むしろ、わたしが起こそうとすると、その気配を察してサッと目を覚ましたくらいだ。
眠ってよほどスッキリとしたのか、アレクさんの雰囲気がいつもより柔らかかった。それに、何だか眠る前よりも親し気な気がする。お礼と共に、また頭を撫でられるかと思ったが、少し上げた手を急に止めて、アレクさんは困ったような笑みを浮かべてその手を下ろした。
前に頭を撫でるのはどうなのか、と苦言を呈したことがあったので、ようやくそれを認識してくれたということかな。でも、何となくちょっと物足りない気がする、かも。
そんな我儘な感想を抱きつつ、日々の仕事を粛々と進めていく。
それから、わたしの財産……もとい、グリフォンについて何の音沙汰も無く、二日が過ぎた。
そんな昼過ぎ、食堂でおばちゃんたちと駄弁りながらお昼ご飯を食べていると、けたたましい足音を立ててエリオットが走り込んできた。
「ノア、いた!」
「ん? エリオット、どうしたの?」
「ごめん、今すぐ俺と一緒に来て!」
「どこに?」
「途中で説明するから、とりあえず来て」
「う、うん」
わたしの手を引っ張るようにするエリオットだったが、ちょうどお昼は食べ終わったので、食器を片付けなくてはと躊躇していた。そんなわたしをおばちゃんたちが「あらあら若いわねぇ。後はやっておくから行っておいで」と言ってくれたので、わたしはエリオットに引きずられるように食堂を出た。
「ちょっと、そんな引っ張らなくても大丈夫だから」
「あ、ごめん」
少し急ぎ過ぎたかとエリオットが申し訳なさそうに手を離す。それでも早歩きを止めないので、わたしは少し小走り気味についていく。なんだかんだでエリオットは背も高いしその分わたしより足が長いので、わたしは急ぎ足にならなくてはならない。わたしの足が短い訳では、決してない。流石騎士と言うべきか、早歩きなのにエリオットの姿勢は綺麗なままだ。
「で、何でそんなに急いでるの?」
「うん。実は、調査隊の出発が決まったんだけど、その前にオルグレン団長が君に会っておきたいって呼び出されたんだ」
オルグレン団長とは、セドリックさんの上司に当たる魔術師団長だ。いよいよわたしの財産を取り戻す時が来た!
「それで、明後日出発することになったんだけど、急ぎ確認したいことがあるって言われて、俺がお使いに出されたんだ」
お使いって……可愛いかよ。まあ、いいけど。でも、確認したいことって何だろう。怖いことだったらヤダな。
「ねえ、オルグレン団長ってどんな人?」
為人、これ大切。わたしが恐る恐る聞くと、エリオットは少し考えていた風だったが、あまり悪い雰囲気ではないようだった。
「うーん、俺もそんなに話したことはないけど、グレンフィル副団長と比較して、寡黙だけど穏やかそうな感じがするよ」
今、セドリックさんのどこと比較したのか分からないが、とりあえず常識人の範囲のようだ。少なくとも出会い頭に魔術を使って拷問したりはしないだろう。
そんな話をしているうちに、魔術師団の庁舎が見えた。例の植物園の一番近い場所にある庁舎だ。
その庁舎の二階の角で、日当たりのいい場所が団長室だ。他の扉よりもいい造りになっている。その扉をエリオットがノックすると、中から穏やかな声で許可が出た。
「失礼します」
わたしとエリオットはほとんど同時に言って中に入る。
今まで入った執務室の中で、一番落ち着いた雰囲気の部屋だ。部屋は持ち主の個性が出るが、アレクさんはあまり物を置かない人だし、セドリックさんはお洒落で凝った部屋だし、補佐官さんはものはあっても無駄のない整然とした部屋だった。この部屋の持ち主は、エリオットの前情報と相違ない穏やかな人に違いない。
補佐官さんはともかく、なんでみんなの部屋を知っているかって?
それは、セドリックさんがある日、「一人で寝酒は寂しい」という謎の口実で、わたしを連れて、アレクさん、補佐官さんの部屋を漁り、二人が隠し持ってたいいお酒を拝借し、セドリックさんの部屋で酒盛りをしたからだ。
もっとも、わたしはおつまみ作り要員で、果実水を飲むだけで、22:00前には抜け出した。
「オルグレン団長、ノアを連れてまいりました」
エリオットが報告をするこの部屋の主は、目の前の重厚な造りの机にいた。
初めてお会いしたオルグレン団長は、年の頃は父よりも少し若いようだったが、とても落ち着いて見える。アレクさんと同じ黒髪だが、癖のないサラッとした髪で、瞳は綺麗な琥珀色だ。老いとは無関係でありながら渋みもあり、何よりも大人の魅力に溢れる人だった。
それだけなら良かったのだけど、その隣を見ると、キラキラしたプラチナブロンドで紫色の目をした人が楽し気にこちらを見ていた。ああ、やっぱりいたのね。
「ギリングス、わざわざ悪かったな」
「はい。では、自分はこれで失礼いたします」
「ああ、ご苦労だった」
わたしがセドリックさんを見つけてがっかりしている傍で、オルグレン団長とエリオットは、普通に会話をしていた。え、エリオット帰っちゃうの?
「じゃあノア、頑張ってね」
小さくわたしにエールを送ってくれたが、いったい何を頑張るの?
「ノア、と言ったか?」
「は、はい! ノアです。お忙しい中、私事でお手を煩わせて申し訳ありません」
エリオットを恨めしく目で追っていたが、名前を呼ばれて背筋を伸ばして向き直った。
「もっと近くに」
そう呼ばれて近くに行くと、急に眼を眇めるようにしてわたしを見た。
「ザラにそっくりだな」
「……母をご存じですか?」
急に出てきた名前に驚くばかりだった。素性はセドリックさんから聞いていたかもしれないけど、それでなくてもオルグレン団長にはわたしの出自は隠せなかったようだ。
「王立魔術院で一年だけ一緒だった。それに、君が生まれて間もない頃、ユージーンから自慢されたので、双子が生まれた事は知っていた。もっとも『見たら減るから嫌だ』と言って会わせてもらえなかったがな」
父よ。わたしは今とても恥ずかしいです。
でも今、団長さん、父の物まねしませんでした?声音が滅茶苦茶似てたんですけど。
真面目な顔して突然やり出すものだから、ちょっと反応し損ねたよ。
「あの、父もご存知で?」
「まあ、魔術師団で一年ほど一緒だった。君の父上は『金色の悪魔』と呼ばれて、知らぬものはいない程有名だった」
懐かし気に団長さんは思い出していますが、それっていい思い出なのでしょうか? わたしにはとてもその名前を誇る気が起きません。
引きつるわたしの顔を見て、セドリックさんが微妙な顔をしたよ。
ん? 六年制の魔術院で母と一年だけ一緒っていうことは、オルグレン団長は母より五歳下っていうことでしょ? そうしたら、三十五歳? でも、父さんはわたしが生まれた年に退団したって言ってたから、一年一緒ってことは、十八で入団できるから三十七歳? え? え?
「考えてることが全部顔に出てるよ。ね、面白いでしょう?団長」
「ん」
ちょっと笑いを堪えながらセドリックさんが割り込んできた。
「団長はね、魔術院を二年飛び級で卒業したんだよ」
なんと! 十六歳で卒業して、そのまま魔術師団に入ったのか。
っていうことは、うちのノエルよりも優秀ということだ。
うちの子凄いと思っていたけど、上には上がいるものだ。
ノアは、顔だけで身バレするという、何とも虚しいことになっています。
ザラもノエルも、魔術師界隈では相当な有名人ですが、ノアは何となく知ってはいても、ここまで簡単にバレてしまうとは思ってもいませんでした。
もっとも、独身寮にいるような年代の人間は、伝説は知っていても直接面識がある人間はいなかったのでバレるようなことは無いのですが。
ちなみに、オルグレン団長はこの中で最も良識的な大人です。
このお話の大人は、ほぼダメ……はっちゃけてますので、とても貴重な人材です。
ハッ!性格に難の無い人って、これまでこの人とサイラスしかいない……。
短めの投稿なので、あと1話投稿します。




