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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第2章 騎士団寮
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うららかな午後の庭に 2

アレクとの距離が少し変わる、かも?

 午後の仕事もひと段落し、図鑑を持って外へ出ようとすると、第二分隊の隊員の人が辺りをキョロキョロしていた。


「おう、ノアか。本なんか持ってどうしたんだ?」

「ああ、これから休憩に入るんですが、今日は天気がいいので、外で読もうかと思って」

「そうか、勉強熱心だな。頑張りな……って、そういえばうちの隊長みかけなかったか?」

 どうりでキョロキョロしていると思った。隊長さん、アレクさんを探しているようだ。


「いえ、見かけませんでしたが。お急ぎの用ですか?」

「いや、まだ休憩時間だけど、終わり次第すぐ会議を始めたいんだよ」

「そうですか。でしたら、お会いしたら伝言しましょうか?」

「助かる。多分どっかで寝てるんだと思うんだけど、あの人、全然見つからないんだよ」


 アレクさんの行方不明はたまにあるらしいが、大概こういうときはどこかで眠りこけているらしい。ここ最近は管理人室で寝ていたので探すのが楽だったようだ。確かに、このところずっと管理人室にいたっけ。

 不思議なことに、あのでかい身体なのに見つけるのは至難の業らしい。


「見つけたら分隊の会議室で、と伝えてくれ。あと、本当に迷子発見器鳴らしちゃうぞ、ってね」

「分かりました」

 アレクさんの精悍な容姿に、首からぶら下がった迷子発見器を想像して、思わず笑ってしまった。愚痴る隊員さんに苦笑しながら頷くと、頼んだぞ、と真剣に頼まれてしまった。いつもどれだけ見つからないんだろう。


 隊員さんと別れて、ついでにアレクさん探しも兼ねて、わたしは午前中から気になっていた場所に行ってみることにした。

 おばちゃんたちにおつかいを頼まれ、食材の発注書を兵団の庁舎へ持っていった時に、おばちゃんたち秘密(あまり人が通らないという意味だと思うけど)の道を教えてもらった。


 宿舎脇にある庭に、数代前の兵団の偉い人が趣味が高じて私費で作った植物園があり、そこを抜けると庁舎へと続いていて、結構な近道になるそうだ。

 だけど、その植物園は現在、魔術師団の研究員が乗っ取って、怪しげな実験場になっているため、みんな避けて通っているようだ。


 おばちゃんたちは、「怪しいって言っても、植物だから」と剛毅である。


 わたしも調合を齧った手前、植物には興味があるので、そこを通ってみたが、意外と整備された庭園であった。危ない区域には柵があるというので、様子見だけでもしたいと思ったのだ。


 宿舎の敷地を出ると、すぐに生け垣が出てくる。それに沿ってウキウキと歩いていくと、緩やかな弧を描く道になり、それを抜けると目の前に蔓バラのアーチが出てきた。ここまでは午前中に来たのだが、前はここを直線に抜けて行った。でも、左側に小径があるのを発見したので、今度はそこを通ってみることにした。


 小径の左右には雑多な種類が植えてある場所や、同じ種類の植物が植えてある場所といろいろあり、植生によって植え分けられているのが良く分かる。これだけでも随分と勉強になる。この辺には鑑賞用の花木が植えられていた。


 少し先に進むと、低木の生け垣の先に楡の木が見えた。今は葉を落としているが、春には立派な葉をつけるのが分かる大木だ。枝の張り具合から、きっと樹下は開けていそうな感じなので、わたしは生け垣がまばらな場所から木の方へ分け入っていった。


 案の定、周囲に花木は無かったが、日当たりが良いせいか、冬枯れをあまりしていない芝が地面を覆っていた。これは絶好のピクニック場所だ!


 入って来た側は木の陰になるので、反対側に回ろうと進むと、視線の先に何やら黒い物体が転がっていた。近付くと、それは人の形をしている。

「え、死体!?」


 大変なものを発見してしまったと慌てて駆け寄ると、何だか見覚えのある形をしていた。

 軽鎧を付けていないが、それは騎士団の制服で、やたらとでかくて均整がとれた体格をしている。片足を軽く立てて仰向けで転がっているが、顔には何だかわからないが布が掛かっている。その布が、時折そよーっと動くので、とりあえず死体でないことに安堵すると同時に、その布からはみ出た真っ黒な髪を見て、わたしはある確信を持った。


 これって、絶対アレクさんだよね。


 そっと近寄って、アレクさんのすぐ横に膝を突く。そして布を取り払ってみると、やっぱりアレクさんだった。改めて見ると、寝ているアレクさんは、鋭い眼光が無いせいで随分と取っ付きやすい雰囲気だ。寝ているので取っ付きも何もあったものではないんだけど。


 気持ちよさそうに寝ているけど、一度起こさないとな。会議あるって言ってたし。……でも。


 わたしは、日頃の疲れを知っているだけに、起こすことに罪悪感を抱いて、うーんと考えていたが、急にアレクさんの目が開いて、その青い瞳と視線があった。

 その次の瞬間、アレクさんを見降ろしていたはずのわたしの目には、アレクさんの青い瞳と青空が映っていた。背中に軽い衝撃があって、わたしは仰向けに倒れたことを何となく感じた。


 頭が混乱して、咄嗟に動くことが出来なかったが、アレクさんの目が驚きで大きく見開かれたのは分かった。


「ノア……か?」

「はい」

 とりあえず返事をしてみた。それから徐々に現状を把握できるくらいに頭が回復してきた。


 アレクさんがわたしの手首を地面に縫い留めるように押さえつけ、覆いかぶさるように身体に圧し掛かっていた。何というか、今の態勢は、アレクさんに組み伏せられている?

 さすが王都屈指の騎士団の隊長さんというか、まったく反応ができなかったよ。

 乙女的には「キャー」という状況だが、わたしは辛うじて悲鳴を飲み込んだ。


「すまない。寝ぼけていたようだ」

「いえ、どうぞおかまいなく」

 え、寝ぼけてこの態勢になるって、どんな夢見なんですか?

 っていうか、わたしの返しもどうなの?


 身体をどけてくれたアレクさんが、隣に座って大きく息を吐いた。わたしもだけど、何故かアレクさんも混乱しているようだった。これまで管理人室で寝ていても、これだけ盛大に寝ぼけたことはなかった。


 だからだろうか、何となく気まずいような感じがしたが、わたしは起き上がるとアレクさんの隣にちょこんと座った。

 アレクさんは、立てた膝に乗せた腕に顔を伏せていた。大きなはずのアレクさんの身体が、気のせいか少し小さくなったような気がする。


「俺は、お前に、何かしたか?」

「いえ、引き倒されただけです。きっと寝ているところに不用意に近づいたので驚かれたんだと思います」

「……そうか」

 そう言ったきり、少し間が空いた。安堵したような響きが声にあった気がした。


「あの、いつもよりお疲れなんですか?」

 何とはなしにそんな気がして声を掛けると、ゆっくりとアレクさんが顔を上げる。

「いや。眠いだけだ。疲れては、いない」

 そう言うアレクさんの顔色はいつもより悪いということはないし、体調不良でもなさそうだ。でも、何となく力が無いように見えて、少し心配になる。


「そうだ。隊員さんがアレクさんのこと探してましたよ。休憩後、会議があるって」

「ああ。時間が少し早まったのか」

「分隊の会議室でって言ってました」

「ありがとう。助かった」

 ホント、起きてる時の顔は恐いのに、とても素直な方です。


 ふと、アレクさんがわたしを見た。

「そういえば、ノアはこんな所で何をしている?」

 わたしも同じことが言いたい気もしたが、説明しようとして持っていた本が無い事に気付いた。キョロキョロすると、すぐ側に転がっているのを発見。倒された時に手から飛んでしまったらしい。

 その本を拾って戻ると、アレクさんに見せる。


「グリフォンについて何も知らなかったので、少しでも調べておこうかと思って借りてきたんですが、天気がいいので外で読もうと思って」

「そうか。いい心がけだ」

 ほ、褒められてしまった。しかも微笑まれて。やっぱり眩しいです、その笑顔。

 おかしいなぁ。同じ微笑みでも、セドリックさんのは胡散臭く感じるのに。


 昨日の微笑みを思い出し、何となく照れてしまったが、アレクさんは少し神妙な面持ちになって、わたしに尋ねた。

「ここで読むつもりだったのか?」

「はい。散策していたらちょうどいい場所だと思って」

「まだ、時間はあるか?」

「そうですね。一時間休憩をもらっているので、まだ時間があります」

「それなら、少しここにいてくれないか?」


 何を言われるかと思ったら、そんなのいつもと同じお願いだった。起こしてほしいってことでしょ?

 イヴリンさんはアレクさんって寝起きが悪すぎるって言ってたけど、わたしが知っている限り、別にそんなことは無かったんだけど。


「ええ、いいですよ。でも、こんな所で寝ていたら、風邪をひきませんか?」

 わたしは心配して言ったのだが、アレクさんは一瞬キョトンとした後、のたまった。

「俺は風邪をひいたことがないから大丈夫だ」

「……そうですか」

 出ました、騎士にありがちな健康優良児発言! わたしだって健康だけど、さすがに風邪くらいひいたことあるよ。


 それはさておき、アレクさんはさっさと横になってしまった。しかも、わたしのすぐ隣の、触れるか触れないかの距離で。


「……アレクさん」

「なんだ?」

「その、顔に布掛けるの、やめた方がいいですよ」

 また、顔に布を掛けようとしているので、わたしはそっと言った。

 東方の地域では、死者にこうして顔に布を掛ける儀式があるらしいから、ちょっとご遠慮願いたかった。


「眩しい」

 どうやら、明るいのは嫌だとのこと。そういえば、管理人室で寝ている時も、窓から顔を背けていたかも。眩しいなら自分の腕で覆えばいいと言うと、「面倒だ」と言い返される。変なところで我儘なアレクさんだ。


「手をお貸ししましょうか?」

 わたしは手で目に蓋をする仕草をしてみせると、青い目がきょとんとわたしを見上げてきた。何かその顔が幼く感じて、少し微笑ましい。


 「失礼します」と言ってから、目の上にそっと手を置く。昔は兄のノエルが眠る時、よくこうしてあげていたことを思い出したからだ。

 ノエルは今でこそあんな風だが、幼い頃は暗闇が嫌いで、こうしてあげると落ち着いて良く眠ったんだった。


 すると、ほんの僅かであるが、わたしの掌から、何かがアレクさんに流れ込むような感覚がした。治癒魔法を使う時の感覚に似ているが、治癒魔法はこちらが相手方に魔力を渡す感覚だが、これは何かが吸い取られるような感じがする。


 何故かアレクさんから深い吐息が漏れた。

 どうやらアレクさんの方でも、この感覚が分かるようだ。

 そしてそれと同時に、ほとんど掠れて聞こえないくらいの声が零れた。

「温かいな」


 その後すぐにアレクさんの呼吸が寝息となったので、スコンと眠ったらしい。素晴らしい特技だ。

 そっと手を離してみるが、もう平気なようで起きる様子はない。


 今、隣にいるのは幼いノエルではないけれど、何となく寝顔が可愛く思えたので、少し目にかかりそうな髪を避けてあげながら、小さく笑った。


 わたしは本を手に取ってページをめくり始める。


 小春日和のうららかな午後だった。

アレクの特技:どこでも寝られる

お気に入りの場所:ノアの隣


閲覧ありがとうございました。

また明日投稿します。

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