事件です 2
本日2話目です。
ちょっと事態が動き出します。
夕食時間を過ぎて、そろそろわたしの勤務時間も終わろうかという時間に、補佐官さんとアレクさん、あとセドリックさんまで一緒に帰って来た。
何故かアレクさんをまともに見れなくて、「おおおお帰りなさい」と変な声が出た。
それを訝し気にセドリックさんが見ていたが、補佐官さんが咳払いをして話を進めた。
「ノア。まだ夕食を取っていないだろう」
「……はい」
「夕食の後、話がある」
「え、なんですか?」
「昼間の緊急招集の件だが、お前にも関係があってな。だが、まずは食事にしよう」
「……はい」
結構慣れてきたけど、なんでわたしのような下っ端が、こんな偉い人達とご飯を食べることになっているのだろう。そういった緊張もあるけど、今日はアレクさんの微笑み爆弾が尾を引いていて辛い。
セドリックさんが「顔変だよ」と言ってきたが、わたしとしたことが足を踏むだけで許してしまった。それだけ動揺している。
何か定位置になった、わたしの隣がセドリックさん、向かいが補佐官さんでその隣がアレクさんという席が、今日はなんだかホッとした。夕食も何かを食べた覚えがあるが、ひたすら食べることに集中しすぎて、何を食べたかを覚えてないほどだった。
やっと完食した後に、緊張から解放されたからか、急いで回れ右して部屋に帰ろうとしてしまった。
「では、そういうことで、また明日」
「ちょっと待て!」
逃げるように部屋に帰ろうとしたわたしを、補佐官さんが襟首を捕まえて引き留めた。乙女にあるまじき「ぐえ」という声を発し、わたしは首を締め上げられて皆の方を振り向かされた。
「何をなさるんですか。死ぬかと思いました」
「お前がそんなヤワな訳あるか。夕食の後、話があると言っただろう」
そういえば、そんなことを言っていたようないないような。
「もう忘れているのか。お前は鳥頭か。ついさっきのことだぞ」
随分な言いようです。それに扱いも雑になってきてます。
「あはは、鳥頭だって」
楽し気に笑うセドリックさんを横目で見て、補佐官さんに向き直った。セドリックさんへの苛立ちで、少し調子が戻って来た気がする。
「まあ、お前が動揺するのも分かるが……」
同情するような目でわたしを見てくる。傍目から見ても動揺してるの分かりますよね。補佐官さんの同情で、わたしも冷静さを取り戻した。
「そういえば、僕に関係あるとか」
「そうだ。お前が無一文になった時、グリフォンに荷物を持ち去られたと言っていたな」
「はい。雪みたいに白い身体に少し黒っぽい模様が入った、仔犬くらいの子供です」
補佐官さんがアレクさんを見ると、アレクさんも重く頷いた。
「昨日の午後から今朝にかけて、あの街道で、中背で細身の青年が財布を奪われる事件が数件あった」
ちょうどお前くらいの身長だそうだ、と補佐官さんがわたしの背丈くらいに掌を上げた。
「全員が亜麻色もしくは薄茶色の髪をしていたそうだ」
「はあ」
「何でも、仔犬に羽の生えたような魔物が体当たりしてきて、落ちた荷物を奪われたり、親グリフォンが現れたりしたようだ。幸いにして怪我を負ったものはいなかったが、グリフォンは旅人を威嚇で硬直させた後、その該当する人間の臭いを嗅いでいたらしい」
「……へえ」
胡乱気な目を補佐官さんとセドリックさんが向けてくる。
「気付かないか?」
「はい?」
「特徴がお前とぴったり当てはまると言っているんだ」
「……僕!?」
びっくりして思わずアレクさんの顔を見ちゃいました。あ、もう平気だ。
アレクさんは眉間にしわを寄せて、頷いた。
「今のところ怪我人はいないが、相手が第一級の幻獣となると、やはりこのまま放置しておく訳にもいかない。そこで、今度特別調査隊を編成することにしたんだが……」
「君がグリフォンに出会う以前にそんな事件は起きてなかったから、グリフォンが何らかの意図を持って君を探していると思ったんだよ。だから、悪いけど、その特別調査班に入ってもらうことになるよ」
「え、僕が行っても囮くらいにしかならないですよ」
「だから、その餌役になってっていうの」
「ええ!?」
更に驚くわたしに、アレクさんが宣われた。
「大丈夫だ。お前は俺達が守る」
何この人。わたしをキュンとさせるためにいるの?
女子が言われたい言葉で有名なヤツですね。いやいやいやいや、今わたしは少年少年少年少年。ああ、いくら言い聞かせても、あの笑顔を思い出して、またもまともにアレクさんを見れません。
さっきの緊張がぶり返してきた! わたしを殺す気満々だな、この人!
「そうそう、俺達、が、守ってやるから」
急にセドリックさんがアレクさんを押しのけるように肩を組んできた。
「え、セドリックさんも行くんですか?」
「……ねえ、今なんかがっかりしたよね。何そのアレクとの差」
煩わしいセドリックさんの手を払うと、補佐官さんがオホンと咳払いをした。
「相手が相手だからな、今出来る布陣で可能な限り高火力の人選をした。指揮は、魔術師団のオルグレン団長が執るが、セドリックとアレクが補佐に就く。これなら竜でも討伐できるだろうから、お前は安心して付いていけ」
どうやらわたしに拒否権は無いようだ。
「それと、グリフォンが臭いを嗅いでいたことから、他の人間では反応しない可能性もある」
「……僕って、そんな臭いますか?」
臭いで認識とか、ちょっと傷付きます、乙女としては。
念のため、腕を持ち上げてクンクンしてみるが、自分ではさっぱり分からない。あまりにクンクンしていたので、憐れに思ったのか、補佐官さんがお美しい顔を少し近づけてきた。
二、三回鼻をふんふん鳴らして臭いを嗅がれた。えっと、ちょっとというか、かなり恥ずかしいんですが。
「大丈夫だ、臭わないぞ。むしろ……」
補佐官さんは、何かを言いかけてハッとした。いや、臭わないって、嬉しくないよ。結構へこむ扱いをされています。
そんなわたしの様子に気付かないのか、一つ咳払いすると、少々早口で説明してくれた。
「お前はお茶に香草や薬草を扱うから、そういう類の香りかもしれんしな」
なるほど。グリフォン好みの草があったのかも。もしかすると携帯食とか?
そう言ってみると、補佐官さんも頷いて補足してくれた。
「お前の持っていたものに反応した可能性もある。お前があの時持っていたものを用意してほしい。……あの、携帯食とか、弁当とかだな。材料費はこちらで出すので、必要なものは私を通せば用意しよう」
そうか。そうなると、柑橘の蜜漬けも作って、と。
「もしグリフォンの巣が分かれば、お前の所持金も戻るかもしれないしな」
何ですと!? それは、なんという素晴らしい響き!
「ぜひ!ぜひお願いします!」
「あ、ああ」
また前のめりになわたしに仰け反る補佐官さん。
こうなってはじっとしていられません!
「こら、どこへ行く?」
「はい。これから携帯食とかを作ろうと思いまして!」
張り切るわたしに、補佐官さんが冷たい言葉を浴びせる。
「馬鹿か。調査隊は早くても数日後の出発だ。事前準備もなしにグリフォンと対峙できるわけないだろう」
「そうだよ。出発の日時が決まったら教えるから。それまで大人しく待ってな」
補佐官さんとセドリックさんの二人掛かりで宥められる。
うう。すぐにでも行きたいくらいだけど、さすがに単独では無理だもんね。
少ししょんぼりしていると、アレクさんが頭をポンと叩いた。
「期待している」
「はい!」
元気出ました!
「……なんかさ、アレクっておいしいところ持っていくよね」
「……うむ」
セドリックさんと補佐官さんがブツブツ言っているけど、これって人徳ですよね。
乙女の理性は破壊しまくりですけど。
ノアの財産は果たして戻ってくるのでしょうか。
まあ、出発までまだ時間があるようです。
閲覧ありがとうございました。




