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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第2章 騎士団寮
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個人の尊厳と公共施設について 3

いよいよお茶会始まりました。

お茶会という名の人体実験です。

 その夜、昨日の約束通り、わたしのお茶がどのような効能を発揮するかの実験をすることになった。


 意気揚々としたセドリックさんと神妙な面持ちの補佐官さん、あと出動帰りなのに「何かの為に」という漠然とした理由で連れてこられたアレクさんだ。

 だから断っていいんだよ、アレクさん。


「アレクさん。お疲れのところ実験に付き合っていただいて申し訳ありません」

 わたしは早々にアレクさんに謝罪する。すると、アレクさんは何でもないことのように首を振って言った。

「いや。俺も効能には興味があったから。それに、ノアと会うのも久しぶりだしな」

 やだ、ちょっとキュンとしてしまった。

 お互いに小さく笑っていると、セドリックさんがわざとらしい咳払いをして注目を集めた。


「では、お集まりの皆さん、検証開始といきましょうか」

 ニコニコ顔のセドリックさんが口火を切って、わたしはお茶を淹れることになった。夜遅くなるとまずいので、さっさと淹れて切り上げさせるようにしよう。


 わたしが作ったいくつかのお茶を、セドリックさんが見繕ってきた、それは高級そうなカップに一種類ずつ注ぐ。

 疲労回復、鎮静効果、目や肌にいいものなどを淹れてみた。


 全種類を一人一杯ずつでは飲み切れないので、一つのカップを回し飲みする。それぞれ一人一種類ずつを取って口に含み、どう変化があるか見ようと言うのだ。


 魔力の無いアレクさんは、魔力の回復効果を測定できないので、誰が淹れても効果があるものかという、お茶自体の効果であるかを試す要員として、このあとお茶を淹れてもらう予定だ。あと、目の疲れとか、お肌の調子なら分かるので、その意見も言ってもらおう。


 結果、やはり茶葉の効能ではなく、わたしが淹れることによって効果が出るようだった。残念だが、非常に残念だが、茶葉の調合の特許料を収入源にすることはできない。


「私の不労所得〜(泣)」

「「守銭奴」」

 嘆くわたしに、セドリックさんと補佐官さんがツッコむ。お金が嫌いな人間なんていますか!? いや、いない!!

 こうしてわたしの収入計画は脆くも崩れ去った。


 そして、結果だけ言ったが、過程は拷問に近いものがあった。

 聞いてはいたが、アレクさんの食品類に関する能力は壊滅的で、同じように淹れたはずのお茶が殺人的な不味さになっていた。どうにか飲み終えたが、効果はなかったのだ。むしろ、精神をやられた気がする。

 毒ではないがマイナスステータスを引き起こすなんて、一種の才能なんじゃないかと思う。


 わたしはどうにか吐き気と眩暈を堪えながらお茶を淹れなおし、事前に作っておいた焼き菓子を出した。食堂のおばちゃんたちにも盛大におすそ分けしたから喜んでいたヤツだよ。


「……美味いな。これが人間の口にするものだ」

「生き返ったね」

 クッキーを頬張りながら、補佐官さんとセドリックさんが呟いた。アレクさんは、仕方ないなというように肩をすくめただけで、二人の暴言を気にした様子も無い。

 いや、前も思ったけど、もっと怒っていいと思うよ?

 そりゃあ、味はアレだったけれども。


 義憤に燃えるわたしだったが、当のアレクさんが苦笑するようにわたしを見たので、少しその怒りを抑える。そして、もう一杯とお茶を要求されたので、労いを込めて淹れた。


 お茶を一口含むと、目元が細くなって優しくなった。

「本当に美味い。それにとても落ち着ける」

 アレクさんがお礼を言ってくれた。なんか、いろいろなことが報われる気がする。


 サロンのような雰囲気にされて憤っていたことを、アレクさんのこの一言で少し前向きに考えた。補佐官さんの目の下の隈がかなり良くなっているので、入寮者の健康管理に役立つと思えば有意義だ。

 セドリックさんへの恨みは忘れてないけど。


「それで結論だが、ノアの治癒能力が何らかの形で口にする物に影響を与えている可能性が一番高い。あまり前例で聞いたことが無いが、文献を当たれば分かることもあるかもしれないな」

「うん、そうだね。一応うちの上司に相談しようと思ってたんだ。その件は任せてくれないかな?」

「オルグレン団長か?」

「そう。あの人の知識量は凄いし、あの人自身が魔力検知器みたいなものだから」

「それならはっきりしたことが分かるまで、このことは我々の中で留めておこう」

 補佐官さんの提案に、他の二人が頷いた。


 何でも、その効果がわたし特有の能力なのか、汎用的になる能力なのか判別がつかないので、あまり大げさな話にしない方がいいということらしい。わたしとしても、何だか分からない実験をされたり、話を聞きつけた疲れた人でここが溢れかえったりするのも嫌なので、とてもありがたい話だった。


「すみません。僕のことで皆さんを煩わせるようで」

「煩わせてはいない。我々が気になって頼んだことだからな。極力お前に迷惑を掛けない方法で、どういう原理なのか調べてみるつもりだ」

「ありがとうございます」

 わたしは礼を述べるが、珍しくセドリックさんは何も言わないで頷いている。いつもこうならばいい人だと思うんだけど。


 何となく、その雰囲気で解散の流れとなった。

 ふと、補佐官さんがわたしを見て、少しバツが悪そうに切り出した。


「それで、その、すまないが……」

「はい」

「焼き菓子を少しもらっていってもいいだろうか……」

 何のことは無いお願いだった。補佐官さんが、あの携帯食以外に興味を持ってくれたのはとても良いことだと思ったし、何よりわたしが嬉しかった。最近はちゃんと食事を取っているようなので、回復が目覚ましい。


「はい。まだ、たくさんありますから」

 わたしが笑うと、なんと、補佐官さんが僅かだがはにかんだように笑った。て、照れてる。


「それなら俺も」

 ちょっと補佐官さんと和んだ雰囲気になったところ、アレクさんも声を上げた。

 アレクさんを見ると、何だかバツが悪そうな顔をしている。補佐官さんが全部持って行っちゃうと思ったのかな?

 わたしが「たくさんあるので、大丈夫ですよ」というと、少し嬉しそうな顔になった。気に入ってくれたのなら嬉しいが、そんなに好きだったのか、甘い物。


「え、アレクも?じゃあ、俺も!」

 ちょっとびっくりしたような顔でアレクさんを見ていたセドリックさんも名乗りを上げる。まあ、セドリックさんはそうなるだろうとは思っていたけど。


「はいはい。じゃあ、皆さんの分、用意しますね」

 そう言うと、アレクさんがぎこちなく頷いた。甘い物が好きなのを皆に知られるのが嫌だったのかな? でも少しその様子が可愛いと思ってしまった。失礼だろうか。


 その後は、みんなに焼き菓子を配って解散となったが、わたし用に取っておいた焼き菓子は、どこからかその存在を聞きつけた寮の人たちにせがまれ、次の日にはきれいさっぱり無くなりましたとさ。


 ……わたしのお菓子。

補佐官さんの角が取れてきました。

ノアの焼き菓子はクッキーですが、補佐官さんの顔色がピカピカになったのは、ノアの作るものが美味しいからだと噂になり、寮の人間もですが、イヴリンさんにも所望されて、空き時間にクッキーを作り続ける羽目になったとか。

アレクはそれほど甘い物好きという訳ではないのですが……。


ブクマ、評価ありがとうございます。

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