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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第2章 騎士団寮
31/109

素敵な住環境のために 3

Athlete's foot最終回です。

今回は直接的表現でお送りしております。

必要がない回?

いえ、そんなことはありません。

なぜなら、作者が楽しいからです。

 水虫講習……もとい、正しいスライム液の使い方と宿舎の美化についての講習は、夜にも関わらず、参加可能な人たちは全員出てくれたようだった。


「では、まずスライム液の効能と注意点について」

 わたしは、その昔シェリルから受けた講義と苦い思い出を掘り起こしながら、適切な扱いについて説明していく。


「このように、防水性が上がる一方、内側からの透湿も望めないため、こまめな手入れが必要になります。スライム液は、四十度程度のお湯に浸けると剥がれます。これは、原料が水棲スライムを使用しているためで、皆さんもご存じかと思いますが、熱に弱いという特性があるためです。しかし、使用回数を重ねると、繊維に入り込んだ細かな残留物に耐性が付く場合があり、これを防ぐには、五回またはひと月に一度は専用洗剤で洗う必要があります」


 これが魔物を素材にすることの怖い点で、その生命力の強さから、特にスライムのように原生生物に近い生き物は、加工した後でも環境に適応しようとして耐性を身に付ける場合があるのだ。

 それが防御系の耐性ならば防具の強化として重宝もするが、防水についてはただただ本体が濡れないというだけの洗濯もできない物体に成り下がる。


「また、これが付いたまま歩き回ると、床に付着してそこに定着する場合もあります。今、この宿舎がまさにその状況であり、スライム液が付着した場所には、有害な雑菌が繁殖し、様々な症状を引き起こす原因となる場合があります。くれぐれも室内に入る際は、スライム液の取り残しのないよう注意してください」


 わたしが説明していると、疑問に思ったことをちょくちょく質問してくる。

「例えば、どんな症状が出るんだ?」

 これは第二分隊の人だ。他の騎士の人よりもわたしに対する態度が優しい。


「主に、カビを原因としたアレルギー反応です。くしゃみや鼻水、皮膚のかゆみを発症する場合があります。稀にですが、呼吸困難などの重篤な症状を引き起こすこともあります。特に過去にそういう症状が無くても、突然発症する場合もあります」

 ちょっとザワザワしている。やっぱり少し心当たりのある人がちらほらいるようだ。


「これは、発症してしまうと、その原因物質を取り除かないとなりません。発症後は、清潔にしていることが一番です。もちろんそれは発症自体を防ぐ一番の方法でもあります」

 清潔なのが一番。潔癖すぎるのはどうかと思うけど、綺麗にしていてダメなことは絶対にない。

 なにより気持ちいいじゃないか。


「じゃあ、その、なんだ。み、水虫もそうすれば発症しないのか?」

 勇気を出して発言してくれたのは、補佐官さんのご友人のヘイデンさんです。


「ええ。基本は清潔にしていることが一番ですが、水虫に関しては他にもいくつか注意点があります」

 一斉に皆が息を飲んだ。

「まず、水虫というのは、白癬菌というのが原因でして、これは薬でないと殲滅が難しいです。また、かゆみや水疱、皮がむけるなどの症状が収まった後も、かなりの長期間潜伏しています。治ったと思ってからひと月は薬を塗り続ける必要があります。また、タオルや手巾の共有も感染拡大の要因です」

 ザワザワが一層大きくなった。


「必ず靴下は清潔なものを身に付け、お風呂上りには水気をよくふき取り、足元の環境をジメジメさせないことが大切です。また、周りに感染させないことも、自分が再感染するのを防ぐ一歩となります」

 うんうんと頷きながら傾聴してくれている。


「まだなったことが無いと思っている人にも注意する点があります。かゆみやじゅくじゅくした状態でなくても、薄っすら皮がむけている場合や、爪が白くなるだけの場合もあります。特に爪が異様に分厚くなっているとほぼ感染していると思われます」

 これには、今まで涼しい顔で聞いていた人たちも、顔を強張らせる人が何人かいた。


「医局にならある程度の薬が置いてあると思うので、気になる方は聞いてみてください。もし医局に無い場合でも、原料があれば僕が調合できますので、急ぎの時は言ってください。あと、僕は少しだけ治癒魔法を使えますので、どうしてもかゆみや痛みがひどい時は相談してください。ただ、本業の医師ではないので、必ず兵団か王宮の医師に診てもらってくださいね」

 少しでも軽減できることを伝えれば、皆が明るい方向に表情が変わっていった。


「僕も出来るだけのお手伝いをさせてもらいますが、やはり皆さんの協力が無いと難しいことです。ここは、皆さんの力を合わせて、不快な症状からこの宿舎を守りましょう!」

「「「おお!」」」

 何故か一斉にご唱和いただいた。満足です。


「なんで、ノアはここの男達を掌握してんの?」

「言うな。私も考えるのをやめた」

 セドリックさんと補佐官さんが二人でコソコソと言っているが、結局は反対意見も出ずにわたしの大満足に講習は終わった。


 が、ほとんどの人が捌けて行ったあと、セドリックさんがやたらニヤニヤしながらわたしに近付いてきた。わたしの中の警報が鳴り響いています。


「お疲れ様、ノア」

「遅くまでありがとうございました。では、おやすみなさい」

「ちょっと待った! ねえ、何であんなにスライム液と水虫に詳しいの?そこのところお兄さんに教えて欲しいな」

 やっぱりそうきたか。セドリックさんはわたしのことを水虫の感染経験を疑っているようだ。


「いいですよ。ご存知かと思いますが、スライム液はシェリル・ブラウニングの開発です。当然の如く、商品化に当たっては安全性の実験をします」

 シェリルの名前を聞いて、セドリックさんがピクッとなった。


「僕は、その開発の詳細を聞きつけて、自衛の為に事前に起こりうる危険について調べました。先ほどの講義は、その努力の結晶です」

 努力はわたしを裏切らなかった。


「それは素晴らしい努力だが、何故お前がシェリル・ブラウニングの開発に対策が必要なんだ?」

 補佐官さん。聞いてしまいましたね、シェリルのことを。セドリックさんとアレクさんには既に既知であることを話していたので、補佐官さんにも話しましょう。シェリルの所業と、わたしの涙無くしては語れない過去を。


「……という訳で、シェリルは知識がないまま使用するとどのような弊害が起きるのかを、僕やその周辺で何も告げずに実験するという狂気(マッド)の科学者(サイエンティスト)なのです。このスライム液の実験では、僕の父と僕の旅の師匠である冒険者のオッチャンが犠牲になりました」

 わたしは遠い目をして、遥か空の下にいる二人を思った。

 尊い犠牲に感謝します。


「まあ、その、なんだ。……お前も苦労したんだな」

 決まりが悪そうに、補佐官さんがそう言った。分かればいいんです。わたしのあの犠牲となった苦労の日々を。


 愚痴も盛大に零したし、講習も成功したし、ごはんも美味しいし、今日はいい日だったな。


 わたしは一人ご満悦だったけど、何故か皆さんのわたしを見る目が少し遠いものだったのは、気付かないふりをした。

補足ですが、リリエンソールでは治癒魔法に資格はいりませんが、調剤には国家資格がいります。

ノアは調剤の資格を持っていますが、家出の際に国家資格の身分証は置いて出てきています。本人はそれをすっかり忘れています。

身分証は無くても調剤は可能ですが、提示を求められた時に無いとマズいですね。

が、ぶっちゃけそんな感じの調剤エピソードは起きません。

じゃあ、何の補足かというと、誰でもホイホイ医療に従事できる世界観ではないという説明です。ちなみにハーブティーの調合は資格いりません。

補足の補足ですが、治癒魔法は医療の知識とは別で、知識が無くても悪い所がふわっと治る不思議枠です。風火地水などの物理魔法と違って、治癒や浄化の聖魔法はちょっと特殊で、呪文とかもあるけど個人の感覚によるものが大半を占める精神論的な魔法です。なので、適正があることが分かれば、後は理論ではなく実地で学ぶことが大切です。ウェーンクライスでは、その適性を学校で見つけて訓練場所を斡旋してくれるため、他の領より断トツで適性保持者の数が多いという訳です。

まあ、要は不思議枠です。(大事なことなので二回言った)

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