一人で生きていきます 3
本日最後の投稿です。
兄と母視点のお話です。
全員暴走しております。
僕は、ノエル・アシュベリー。自他ともに認めるエリートだよ。
顔良し、頭良し、家柄良し。ついでに魔術の才能、財産、将来性まである。
そんな僕でも、一つだけ不安材料がある。それは、僕の妹だ。
妹が嫌いとかそういうんじゃない。むしろ溺愛していると言っていい。
だが、今のこの状況がどうしようもなく悔しい。
妹のノアは、僕と間違われて呪いを受けた。それも性別を失くすなんていうふざけたヤツだ。ノアに掛かると、常識の方が裸足で逃げていく。
僕にしつこく付きまとっていた高位の貴族の令嬢(名前忘れた)が、僕を逆恨みしての犯行だ。僕はあまり覚えていないが、結婚を前提に付き合ってほしいと言われたようだが、僕はそういう話は全て断っている。
僕は誰のものでもないし、結婚して相手の家に縛られるのは御免だ。僕の周りにいる女の子たちは、そういった僕の気持ちを尊重してくれているが、たまに自分の理屈だけを押し付けてくる子がいるんだよね。
そういう困った子に、たまたま偶発的に起きた衛兵の巡回や護衛の穴を狙われた。
昔からノアは、間が悪い。本人せいではないのに、どうしようもなく悪い。
嘆くノアの姿に、僕は胸が痛む。ノアは決して僕を責めない。泣いても声一つ上げない。それどころか、呪いを受けたのが僕じゃなくて良かったと言うんだ。呪いを掛けた令嬢にすら恨み言を言わない。ただ、自分が呪いを受けたことによって、僕たち家族に火の粉が掛かるのではと心配するばかりだ。それが僕には歯痒い。
先日届いたアシュベリー本家からの破談の手紙で、ノアが更に気落ちしている。
サイラスという男とは、昔から同年代の一族の中では唯一交流をしているので為人を知っているから、恐らくあの破談は彼の両親が勝手に進めたものだろう。彼は、一族ではかなりの地位にいるし、穏やかで誠実という点では悪くないヤツだが、ノアには僕クラスの人間でないと釣り合わない。だから、むしろ破談は良かったことと思っているけど、ノアは破談されたことが後々僕の将来に関わると危惧して落ち込んでいるんだ。
ノアは、僕の妹なだけあって、少年寄りの姿になっても超絶可愛い。僕と双子で可愛くないはずがない。まあ、かなりひいき目も入っているかもしれないけど、控えめに言ってもクソ可愛い。
……失礼、ちょっと暴走したな。
だが、本人は自分が不美人だと思い込んでいて、かなり自己評価が低い。どん底と言ってもいい。
原因は知っている。幼い頃から僕と比較されて、自分を並以下だと思っているんだ。
そんなことをノアに植え付けたクソ親族や、僕の取り巻きを気取っているメス豚どもには、それとなく制裁を下している。あ、言葉が悪かったかな。まあ真実だしいいか。
とにかくだ。僕は持てる才能を駆使し、妹を元の天使に戻すべく手を打つもりだよ。
すでに令嬢と関係者を締め上げ……事情を聴き、術式からノアの身に起きている不具合を調べている。そして、誤作動を起こした術の不具合を修正するための魔道具を揃えれば、ゴールは目前だ。だが、高位の貴族なだけあって、呪いに使った魔道具がそれは珍しい物だったんだ。無駄に高度な呪いだから、できれば同じものを使いたいので、それを手に入れるまでは少し時間が掛かりそうだった。
令嬢の領地まで足を運んだので、少し時間が掛かってしまったのは痛い。あまりのんびりしていると、無駄に行動力のある妹が、何かしでかすかもしれないから、早く家に帰らなくては。
って、急いで帰って来たのに、何だか家が騒がしい。嫌な予感しかしない。
「大変です、ノエル様!お嬢様が……!」
いつも冷静な執事が慌ててやってくる。
ほうらね。嫌な予感って当たるんだ。で、何をやらかしたんだか。仕方ない、ちょっと叱って許してやるか。
「家出なさいましたー!」
「何やってんの⁉ バカノアーーーー‼」
~ * ~ * ~ * ~
という訳で家族会議です。
こんにちは、母のザラ・アシュベリーです。
この度、娘が家出しました。
原因は、分かっています。ちょっとだけ、女の子をお休みしてしまったことと、理由の大半はそれのせいで縁談が破棄されてしまったことでしょう。我が兄ながら何て見る目の無い人たちなのでしょう。うちのノアちゃんみたいないい子、この世界を見渡しても他にいるはずもないのに。
というか、そもそも我が家は、お見合いなんて受けるつもりもなかったし、今回だってまだ正式な返事すらしていなかったんですもの。我が家には何の痛手も無いどころか、ノアちゃん自身にだって何も瑕にならないのですが、何やらうちの子はいろいろ考えてしまったようです。
私のダーリンでノアとノエルの父のユージーンは、領地全部に結界を張って、猫の子一匹通さないようにするとか言ってますし、息子のノエルは探しやすいように街を焼き払うとか寝言を言っています。ダーリンの金色の頭には藁が詰まっているし、息子の脳みそはノアちゃん以外のことがお留守になりがちです。我が家の男どもはオロオロとして喚いてうるさいので、一喝すると静かになりましたけど。
男物の服を数着と、多少の現金と貴金属、あと数年前に使った簡易食器や寝袋などの冒険者セットが無くなっていました。自分のお小遣いの範囲で持ち出して、お家のお金に手を付けないのがノアちゃんらしいというか。
おまけに、男の子として生きていこうとしているのか、ばっさりと髪が切られてました。綺麗な艶のある亜麻色の髪なのに。
ほんと、思い切りのよい娘にも困ってしまいます。
「とりあえず、捜索隊を結成しなくちゃ!」
「では、私は懸賞金を掛ける準備を……!」
男二人がまた取り乱し始めたので、机をバンと叩くと静かになりました。
「落ち着きなさいませ」
「「……はい」」
二人がソファに掛けたので、執事のデレクに紅茶を用意させました。これで一息ついて落ち着くでしょう。
「さて、ノアちゃんの行き先ですけど、持ち出したお金から行ける範囲は限られます。足取りを辿りづらくするように、足のつきやすい馬車はある程度抑えるでしょうから、徒歩で一週間程度で行ける円上の範囲でしょうね。そこから考えると、やっぱり働き口のたくさんある王都が怪しいわね。いかがかしら?」
ノアちゃんのことですから、きっと一人で生きていこうとしているのだと思います。持ち出したお金でもしばらくは生活できるでしょうけど、ノアちゃんは真面目で遊んで暮らすということが思い浮かばない子です。だとすると、働き口を探すのは必須ですね。なんて健気な子なのかしら。
親の私が言うのもなんですが、本当にいい子に育ちました。時々あさっての方向に暴走しますが、優しい子なんですのよ。
でも今は、こんなに家族に心配をかけるなんて、悪い子ね。
「国一番の魔女の腕が鳴りますわ。私の目を逃れようなんて無駄ですのに。うふふふふ」
あら、男性陣の顔が青ざめてますわね。
お仕置きなんてしませんよ。だって、本当はノアちゃんが働きたがっていたのを知っているんです。
自分の能力とか私たちの家族ということで、小さい頃からいろいろと我慢をしてきた子だから、少し羽を伸ばさせてあげるつもりです。
でも、ほんのちょっと、叱っちゃいます。
だって、少しでも相談をしてくれれば、家を離れることだって反対はしなかったのだもの。
ノアちゃんがやりたいことをさせてあげるのが親なんですから。
それを黙って出て行って心配を掛けるんですもの。ちょっとは、怒っているんですよ。
という訳で、ノアちゃんを見つけたら、……うふふふふ。
ちょっと特殊なご家庭です。
ちなみに母の「国一番の魔女」というのは、昔、魔物の討伐で半径数百メートルを焼け野原にしたという所業から、「国一番の(危険な)魔女」と呼ばれているとかなんとか……。
閲覧ありがとうございました。