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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第2章 騎士団寮
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余計な仕事でしょうか? 2

補佐官さんとのキャットファイト……はしませんが、静かな(?)攻防戦の回です。

 急いで食堂で準備をしたあと、出来たものを、食材を出して空いたバスケットに入れ、おばちゃんたちにお礼を言ってから自分の部屋に戻る。


 荷物をガサガサと漁ると、旅の間に飲んでいた茶葉やらなんやらを取り出す。それを引っ掴むとバタバタと四階へ向かった。

 四階は身分の高い人がいる階だ。湯沸室が各階にあるが、四階には茶器も備えているのは確認済みである。


 わたしは下準備を終えると決戦に臨んだ。

 一つの扉の前に辿り着くと、コンコンとノックをする。ややあって低く応答があった。

「誰だ?」

「ノアです」

「……帰れ」

「嫌です。失礼します」

 わたしは管理者権限で鍵を開けて堂々と入っていった。

「……お前、本当に失礼だな! ほとんど犯罪だぞ!」

 慌てた様子で急に立ち上がった補佐官さんは、本当に憎々しそうにわたしを睨んだ。


 性格なのかきちんと整理された部屋で、イカガワシイ物など置いてなさそうなのに、そんなに慌てなくてもね。それを丁重に無視して、運び込んだワゴンの上で準備を始める。


「……おい、何を始める気だ?」

 補佐官さんがいる目の前の机には書類が積まれている。機密情報は自室へは持ち帰れないので、簡単な経理の書類だ。

「朝食の準備です。補佐官さんはお食事を取りながら仕事をなさると伺ったので、簡単に食べられるものをご用意しました」


 朝食用のベーコンと卵を挟んだサンドイッチだ。残念だがスープは片手間では食べられないのでお休みだ。

 わたしは皿にサンドイッチを盛り、強引に机の上の書類をよけると、補佐官さんの目の前に食事をドンと置いた。ついでに、食事として取ろうとしていたと思しき携帯食も取り上げてしまう。

 これ、不味いらしいんだよね。どれだけ不味いかちょっと興味湧くよね。ちょっとだけ拝借してしまいましょう。


「食事など悠長に取っている暇はない」

「補佐官さんはもしかして、食事をする時間を取れないように仕事を持ちこんでいるんじゃないんですか?」

 補佐官さんはムッと唸って押し黙った。やっぱりね。


 わたしは、食事を目の前に押し出した。

「お前、いい加減に……」

「お仕事しながらでもいいんで、食べてください」

「お前に指図される筋合いは……」

「食べてください」

 重ねていうと、怒りのぶつけ先を見つけられない補佐官さんは、口を何度か開け閉めしたあと、憤慨したように舌打ちをして座った。わたしを追い出したり、怒鳴り散らしたりしないのは、やっぱり補佐官さんが優しいからだと思う。

 わたしはよけた書類をまとめると、サッとその書類に目を落とす。凄い量を持ちこんでいる。


「食べている間に、少し僕がお手伝いをしてもいいですか?補佐官さんが食事する間だけですから」

「は? 何を言っている」

「これは検算した後、予算書と突合して適正か確認すればいいですか?」

 見積書を突合し、予算計上されているか、金額に不備はないか、余計な科目はないかと確認していく。請求書は、先に出ている見積書と突合して、正しいものか確認する、とこんな感じか。

 そう声を掛けると、補佐官さんは渋々と頷く。


「ご心配でしたら、あとから確認してください。単純な計算だけなら、昨日試験していただいたのでご迷惑をお掛けすることはないと思いますが。補佐官さんが食事をする時間分、決して穴は空けません」

 とどめに、「時間が足りないようなら、その書類の仕分けをしてくだされば」と言うと、不快気な表情は崩さないものの、また頷いてくれた。食べながらでもできる作業だ。


「では、お食事の間、お手伝いしますので、どうぞ召し上がってください」

 用意して来たお茶を注いだカップを渡す。これはわたしお手製の疲れに効果があるお茶だ。


 促すと、本当に嫌々ながらカップに手を付けた。少し香りを嗅いだあと、慎重に口に運ぶ。一口飲んだ後、何かに気付いたかのようにサンドイッチに手を伸ばした。そしてパクリと一口含むと、少し驚いたような表情になる。


 何だか分からないが、急に食べる気が起きたようだ。それから二口三口と口に運ぶのを見届けてから、しめしめとほくそ笑む。

 サンドイッチはたくさん作ってきた。ようやくわたしは憂いなく、奪い取った書類の処理に取り掛かった。

 見れば、これは補佐官さんくらいの地位の人がするべき仕事ではない。恐らく、仕事に打ち込みたくていろいろと仕事を作って持ち込んでいるのだろう。

 ヘイデンさんが言うのには、足が動かない鬱屈を仕事で忘れようとしているようだというのだ。


 そうこうしているうちに、わたしの仕事も無くなりそうになったが、同じ頃合いで補佐官さんもサンドイッチを平らげたようだった。決して食事が嫌なわけではないと分かってホッとする。気鬱がある場合は食事も喉を通らないことがあるからだ。


 わたしは別のお茶を淹れてまた補佐官さんに差し出す。それを無言で受け取って、今度は香りを嗅いだ後にそっと話しかけてくれた。

「……違う茶か」

「はい。先ほどのはカモミールを中心に調整したもので、これはバラの実と少し生姜を加えたものです」

 沈静作用と疲労回復が見込まれるお茶だ。補佐官さんは、それをじっと見ていたが、クッと一口飲むと大きな息を吐いた。食べる前と違って、僅かに顔色が回復したように見える。


 コクコクとお茶を全て飲み干すと、上品に手巾で口元を拭ってまた息を吐いた。

「……美味かった」

 ポツリと呟くようでいて、奥底からにじみ出るような声だった。


「それは良かったです。もう一杯いかがですか?」

 わたしが言うと、ゆっくりと頷いた。そして、バラの実の方に少し蜜を入れて欲しいという要望まで言ってくれた。冬に生姜とハチミツは合うよね。


 そうして要望通りのお茶を淹れると、それを口にしながらわたしをジッと見た。

「お前は、私から仕事を取り上げようとしに来たのではないのか?」


 唐突な言葉だった。どうやらわたしが強制的に仕事を止めさせて休ませようと言う魂胆だと思ったようだ。以前にも幾人かからそのようなことがあったらしい。


「わたしにはそんな権限はありません。ここは兵団内にあっても私的な空間です。そこで何をなさろうが、健やかにお過ごしであれば、わたしはそれを取り上げることは出来ません。補佐官さんもおっしゃったことです」

 嫌々やらされているようなことなら何とかしたいと思うが、これは補佐官さんが自ら持ち込んだものだ。せめて食事の間だけはと思うが、そもそもそれを止めさせようとは思わない。


 でもそれは「健やか」であれば、だ。


「ただ、仕事が多くて忙しいというより、補佐官さんは、忙しくするために仕事をしているような気がして。正しい気持ちを持って仕事に打ち込んでほしいとは思っています」


 仕事をすることが、足が不自由になったことを忘れるために何かに没頭する手段ならば、わたしには何もしてあげられることはない。何をしたとしても、補佐官さんの気持ちを変えるのは容易ではないからだ。せめて食事を気遣って、僅かでも安らげる場所と時間を提供して、少しでも健康でいてもらうことくらいしかわたしには出来ない。


「だから、そう出来るように、僕がいるのだと思います」

 人の心と体が健康だと、わたしにはその人が綺麗な色に包まれているように見える。その逆は、濁った色がその人を包んでしまい、何となく嫌なのだ。だから、わたしに出来ることは何でもしたい。


 補佐官さんは、しばらく黙って何かを考え込んでいるようだったが、わたしはふと思いついて声を掛けた。もっと、栄養を付けてもらいたい。そうしたら、もっと仕事にだって打ち込めるからだ。


「そうだ。もし甘い物がお嫌いでなければ、昨日作った携帯食はいかがですか?」

 甘い物に少し反応したので、わたしは昨日第二分隊に作った携帯食の残りを出した。棒状のものを一口大に分けたものをサンドイッチと別の皿に移す。それを補佐官さんは一つ取って口に入れた。

 少し目を大きくして、その後はゆっくりと味わっていたが、雰囲気が少し柔らかくなったような気がしたので、どうやら気に入ってくれたようだった。


「昼食には早い時間に召しあがっていただいたので、よろしければその携帯食を小腹が空いた時にでも摘まんでください」


 それでは、と言って、書類を返すと、空になった皿とカップを片付けて、ワゴンに乗せると部屋を辞した。補佐官さんはその間何を言うでもなかったが、それまでの非礼を咎められることはなかった。


 とりあえず、補佐官さんの疲れが少し取れたようだったので、わたしは午後からの本格的な管理人業務をこなすため、広い廊下を歩いて行った。


 そして、補佐官さんからくすねてきた携帯食を一つ摘んでみた。


「まっずーーー!! 誰!? こんな拷問食作ったの!!!」


 好奇心に負けた自分を、ちょっと殴りたいと思った。

ノアはコミュ力高めですが、コミュ力が高すぎて、たまに一周回ってコミュ障のようになります。

私室に勝手に入ってましたからね。あれは完全にあかんやつですね。

おいおい、開けるのかよ、と自分で書いていて突っ込みました。

ノアは、作者の意図とは全然違う方向に勝手に動くので、作者はたまに悶えまくっています。

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