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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第2章 騎士団寮
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余計な仕事でしょうか? 1

お仕事初日です。

 少し埃っぽいベッドで、しかも腹を立てていたので眠れないと思っていたが、思っていたよりわたしは図太かったのか、横になった途端夢の中にいた。

 いや、久しぶりのベッドだったし、疲れてたんだ、きっと。


 取りあえず夜が明ける前に目が覚めて、自分の身支度を整える。風呂が部屋にあるのは本当にありがたかった。


 朝日が上がってくると、女神の月も隠れて、わたしの身体も男の子のようになる。それを見届けてから服を着た。

 今日は仕事を一通り補佐官さんから教わる予定だ。昨日はわたしと一戦交えたが、きっと本人が来るという確信がある。気まずいし忙しいだろうに、その辺りを他の人に任せないと確信しているのは、補佐官さんの生真面目さが分かるからだろう。


 わたし? わたしは補佐官さんと会うのは全然気まずくない。昨日敵前逃亡したのは補佐官さんの方だったからだ。


 支度が早く終わったので、約束の時間までに食堂のおばちゃんたちに会いに行こうと思った。聞けばおばちゃんたちは、朝五時には支度を始めると言う。

 四人で切り盛りしていて、一日の分を朝のうちに大量に作り、あとは各時間帯に焼き物などを仕上げるだけのようだ。

 通いと言っても、王宮の方からの派遣に近いので、城下からではなく敷地内から通っているとのことだ。なので、必要のない時間帯は王宮の方へ引き上げているらしい。


 朝の食堂からは、既にいい香りが漂っていた。


「おはようございます」

 わたしが声を掛けると、ギョッとしたようにおばちゃんたちが一斉にこちらを向いた。

「おや、あんた誰だい?」

「見かけない顔だね」

 おばちゃんたちは、興味津々といった感じで尋ねてくる。ここにいるということは、宿舎のカギを持っている人間なので、不審がられることはなかった。


「今日からここの管理をすることになりました、ノアです。よろしくお願いします」

 頭を下げると、「あらあら、まあまあ」と楽しそうにする。


「良くあの補佐官さんが女の子を入れるの許したね」

「あら、違うわよ。男の子よ」

「まあ、ごめんなさいね。気を悪くしないでね」

「でも、可愛い子じゃない。こんな男くさい所に可哀想にね」

「ここの人たちは、騎士だけあっていじめられることは無いだろうけど、みんながさつだからねぇ」

「何かあったら、あたしたちに言いな。叱ってあげるから」

「そうそう。おばちゃんたちを怒らせると怖いんだから」

「は、……はあ」


 四つ子か、と思うほど息の合ったおばちゃんたちの途切れることのない話に、わたしは相槌を打つことしかできなかった。みんな肝っ玉母さんのような人たちで、朗らかにしゃべりながらも手は休むことなくかなりの速さで作業をしている。さすがだ。


「お願いがあるんですが……」

 おしゃべりが少し途切れそうになったのを見計らって、思い切って声を掛けてみた。

「まあ、なあに。言ってごらん」

「何かしら」

「女の子を紹介してほしい?」

「だったら、王宮女官の……」

「あ、いえ、時々この厨房を使わせてもらえないかと思って……」

 横道に逸れようとした話をどうにか遮り、わたしは一息に伝えた。


「皆さんが預かる厨房を勝手に使う訳にはいかないかなと」

 一般家庭では、台所を預かる女性は自分の領域を侵されると感じて、台所を他人が使うのを嫌がると聞いたことがあった。だからわたしはおばちゃんたちに確認したかった。


「いやだわ、そんなこと気にしていたの?」

「もちろん、使う食材を言っておいて、使った後にきちんと片づけをして衛生面に気を使ってくれれば気にすることないのよ」

「そうそう。朝はちょっと忙しいから、午後の夕食までの間なら全然いいわよ」

「それにあなた、料理出来るのね」

「はい。趣味程度ですが、一通りは習いました。お仕事にされてる方にお出しするのは恥ずかしいんですが、何かお作りできたら、と思って。多分、仕事に慣れてきた後になると思いますが……」

 料理の玄人であるおばちゃんたちに言うのは恥ずかしいが、料理はいい気分転換になる。快く借りられそうなのでホッとした。


「あらあら、嬉しいわねぇ。今まで来た子たちは、そんなこと言ってくれるどころか、ここに挨拶しにきたことすら無かったものね」

「ええ、本当に。おばちゃんたち、年甲斐もなくときめいちゃうわ」

「楽しみにしているわよ」

「分からないことがあったら何でも相談してちょうだい」

 必ず四人が一言ずつ言わないと気が済まないらしい。

 わたしは頷きながら挨拶すると、おばちゃんたちは手を振って見送ってくれた。ちょっと圧倒されるけど、基本的に明るいいい人たちだ。今度お茶菓子を作って振舞おうと思う。


 それにしても、今までの子たちと言っていたが、あの補佐官さんが追い出した女の子たちは、おばちゃんたちに挨拶すらしていなかったようだ。補佐官さんはやりすぎかと思っていたが、やっぱり解雇されるだけの理由があるんだな、と思った。


 部屋に戻ってみると、ちょうど補佐官さんが廊下からやって来るのが見えた。

「おはようございます」

「……ああ」

 不機嫌そうだが、やはり自分で来てくれたようだった。挨拶も気まずげながらも返してくれる。やはり常識人のようだった。


 それにしても、相変わらずの顔色だ。きっとあの後も戻って仕事をしたのに違いない。


「何故、食堂の方から来た?」

 やや唐突ではあったが、話しかけてきてくれた。どうやら仕事以外でも会話はしてくれるようだ。


「これからお世話になるのに、まだ食堂の方たちにご挨拶していなかったので。お忙しい時間とは思ったんですが、お邪魔させてもらいました」

 随分とお元気な方たちでした。と報告すると、眉を顰めてわたしを見た。

「どうしました?」

「いや。挨拶は最低限の礼儀だ。言われる前に実行できたのなら言うことはない」

 とりあえず、補佐官さんの及第点だったようだ。かなり低くなっている及第点だけど。


 いくぞ、と言うように目で管理人室を指すので、わたしは鍵を開けて中に招き入れた。殺風景な中に簡素な机と椅子が一揃えだけの部屋だ。その机に持っていた書類をドサッと置く。いくつか種類ごとに束になっていて、色違いの箱に入っている。


「順に説明していく」

 そう言って、まずは書類の説明から入った。あの武装本を見ながら、どの書類がどのような時に必要か、その書き方や注意点を説明してくれる。丁寧で分かりやすい説明で、ほとんどメモを取らなくてもいいくらいにまとまった本のお陰もあり、思いのほか円滑に進んだ。それに補佐官さんは、わたしが質問しても投げずに答えてくれる。


 しばらくしてその説明が終わると、今度は実際の流れについて実地で教えてくれるようだった。


 まず、倉庫の管理の仕方。食材の発注の仕方とその予算。洗濯物の取り扱い。各場所の点検・修繕など、一つ一つ丁寧に教えられていく。きっとこれまで、忙しい本業の合間を縫って、こういったことは補佐官さんが引き受けていたのだろう。それは疲れもするし、ここが魔窟になるのも仕方ないことだ。


 時々、起きてきた人や帰って来た人と会って挨拶をすると、わたしと補佐官さんが一緒にいるのを目にして驚いたようにしていた。そして、昨日食堂にいた人たちは、何故かわたしに向かって親指をグッと立ててみせるのだ。


 午前中半ばまで使い、一通りの説明が完了する。

 まだ昼には相当早い時間だけど、わたしのお腹が食べ物を要求しはじめた。


「本来のお仕事のお忙しい中、ありがとうございました。これから執務に戻られるのですか?」

 わたしが尋ねると、思わずポロリと言った感じで漏らした。

「今日は非番だから礼を言われるほどのものでもない」

 非番! これはいい機会なのではないか。


「じゃあ、これからご飯、ご一緒しませんか? もうお腹がペコペコで」

「いらん。部屋で少し仕事をするから、一人で勝手に食べろ」

「つれない。補佐官さんは食事どうするんですか?」

「適当に食べるから、不快な世話を焼くな」

 またこれだ。

 どうやら補佐官さんは、片手間にあの不味いと評判の携帯の固形食を齧りながら仕事をしているらしい。そんなんじゃ疲れも取れないし、消化にも悪い。

 何より不味いではないか。


 わたしの忍耐は結構すぐに切れるんです。

 わたしが「分かりました」と大人しく引き下がると、補佐官さんは気味悪そうにわたしを見た。


「では、ありがとうございました」

 それからわき目も振らずに食堂に行くと、昼食の準備まで終えたのか、おばちゃんたちは少しゆっくりと休んでいたようだ。


「あら、ノア。朝ごはん食べに来たの?」

「だったら、今温めるわね」

「そんな、自分でやりますよ」

「いいのよ。ひと段落して、ちょうど休憩していたところだから」

 そう言って朝食の残りを温めてくれた。

 野菜たっぷりの肉団子スープと厚切りのベーコンステーキに炒り卵とパン。

 朝からこのベーコンは重くないか、と思ったが、ここで食事を摂る人たちは皆体力勝負の人たちなのだから、これくらいで丁度いいのかもしれない。


 わたしは味を堪能しながらも急いで食べ終わし、おばちゃんたちにお願いをした。


「すみません。先ほど言ったの、今からお願いします」


 きょとんとした八個の瞳がわたしを見た。

おばちゃんズが良いです。書いてて楽しい。

おばちゃんズは昔、お城付きの使用人で、旦那さんたちも同じ使用人でした。

ノアよりも年上の子供がいて、引退を考えようとしたところ、料理の腕を買われてこの食堂にやってきたという、四人とも同じような経歴を持っています。まさに魂の四つ子。

王宮から派遣されているので、午後に少しのんびりしてから王宮に帰って、次の日のメニューを決めたり、今日作ったものを報告書にまとめたり、後進の指導をしたりします。なので、王宮の女官さんとかメイドさんとかに詳しいのです。大体四時くらいに帰宅です。

おばちゃんズのプチ情報でした♪


次回も補佐官さんとのお話です。

また明日更新します。

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