バレた! 2
何やら不穏な空気。
グレンフィル副団長とノアの攻防戦です。
ちょっと怖いやり取りをしていますが、グレンフィル副団長のポッケには、賄賂のあの魔道具が入っています。相当気に入っているようですね。
「君さ、何を企んでいるの?」
近付いてくる副団長さんが問いかけた言葉に、わたしは思考が停止した。
「こんなに魔術の臭いを纏わせておいて、こんな所まで入り込むなんてね」
そう言って、副団長さんがわたしの髪を一房、その長い指で掬った。一瞬、恋人にするような甘い仕草に見えたが、わたしには喉元に刃を当てられているような恐ろしい行為に見えた。
「姿くらましの類の術を使っているね?」
それは、今の姿が本当の姿ではないことを知っているということ。まさか呪いの残り香を嗅ぎ当てられてしまうなんて思いも寄らなかった。
当たらずも遠からずだが、呪いの存在を言い当てたのは副団長さんが初めてだ。さすが王都の魔術師団の副団長というだけあるということか。いやいや、感心してる場合じゃない。
最初からわたしに対する態度がおかしいと思っていたけど、わたしに掛かった呪いに対する反応だったんだ。それをこの内部に入り込むための偽装だと疑っている。
事情聴取の時は、兵団にまで入り込むとは思わなかったので、怪しんではいても敵意の無い態度だったんだ。
わたしは無意識に首を横に振っていた。
「ちが、……誤解です」
怖さのあまり、細い声しか出なかった。副団長さんは、髪を絡めていた指を外すと、その指を喉元に滑らせる。そして、わたしの首をそっと掴んだ。
「女の子をいたぶる趣味はないんだけど、素直に言わないと、苦しい思いをするよ?」
性別までバレてる!
艶やかな笑顔で恐ろしい脅迫をする。いたぶる気満々です。それも本気で。
軽く首が圧迫されて、わたしは息を飲んだ。
「話したら……信じてくれますか?」
勇気を振り絞って抵抗するが、それすら鼻で笑われた。
「さあねぇ。死に物狂いで俺を説得してみなよ。場合によっては信じるかもね」
そんな、相当分の悪い賭けじゃないか!
それでもこのままではこの人に確実に捕らえられてしまう。
「どうせ信じてくれないんでしょ?」
「そりゃあ、ね。この寮の中の誰が狙いか知らないけど、一晩遊びたいだけだったら、俺が相手してあげるから、さっさと帰りな」
そう言って、副団長さんが掌に魔力を込めるのを感じた。遊んでって、あなたが一方的にこちらをいたぶるってことですか!?
「いたっ……!」
バチッという音と共に全身に痛みが起きる。痛みのあまり目から涙が零れた。副団長さんが何か魔法を使ったようだ。何て理不尽なことをするんだ!
よろめきながらも副団長さんを睨む。理不尽なことをされても黙っているのは性に合わない。
だけど、その当の副団長さんが変な顔でわたしを見ていた。
「目くらまし、じゃない?」
どうやら副団長さんは、解呪の魔法を使ったようだった。ただの拷問かと思った。
そんなのはもうとっくの昔に試してダメだったんだよ。痛い思いしただけ損だ。
副団長さんは、結構本気で魔術を使ったようだったが、それでも解けないわたしの姿に驚いているようだった。
「説得どころか話もさせてもらえてないじゃないですか! これは、姿を変えている術じゃないんです!」
抗議して詰め寄ろうとするが、先ほどの痛みでわたしの足から力が抜けた。床に座り込みそうになるのを、副団長さんが腕を取って支えてくれた。咄嗟の行動だったようで、副団長さんもバツが悪そうにしてるが、手を離さなかったのはさすが騎士の端くれ……魔術師って騎士だっけ?
いや、なんか違う? でも、魔術師だからって騎士道精神持ってほしい! そもそも問答無用で攻撃しないで!
そのままわたしを引っ張り上げて、副団長さんは綺麗なお顔を顰めてわたしを見る。
「聞くだけ聞いてあげるよ。どういうことか説明してもらおうかな」
本当はすごく腹立たしいけど、魔術に長けた人から見たらわたしは怪しいなんてもんじゃないという自覚があるので、渋々ながら説明することにした。
「その前に、一つだけお願いが」
「お願い出来る立場だと思っているの?」
「ダメで元々ですけど、出来ればわたしの出自を大っぴらにしてほしくなくて」
「訳アリ? まあ、訳アリじゃないってほうが説得力ないけど」
「もちろん、あなたがわたしを危険だと思ったら仕方ないですけど、そうじゃないのならお願いします。一人で生きていくなら、この姿の方がいいんです」
わたしが「一人で」と言ったのがよほど印象的だったのか、副団長さんは少し話を聞いてくれる態勢になった。
「ふうん。じゃあ、話してみなよ」
少し前向きになった副団長さんだったが、わたしはすぐに話す気になれなかった。だって、今の態勢どう考えてもおかしいでしょ。
左手を取られて腰を支えられているんですけど。
「ちょ、ちょっとその前に、落ち着いて話ができる態勢になりませんか?」
「君がちゃんと立てないと思っての親切だよ」
「大丈夫です。もう立てますから」
「ええ?『僕』はこのままでも構わないけど?」
わざとらしく一人称を強調する。どうせ、わたしの一人称が戻って、偽装が解けてることを揶揄してるんでしょうけど、無駄な労力は使わないんです。
「わたしが構います」
わたしが一刀両断すると、副団長さんはわたしからスッと手を離した。
副団長さん、今舌打ちしませんでしたか?
わたしがさっさと副団長さんから逃げると、副団長さんは部屋に一つしかない椅子をわたしに差し出した。これは罪悪感とか親切ではなく、副団長さんが女性慣れしているからだろう。さすがにさっきの余韻で立ちっぱなしは少し辛いので、厚意(?)に甘えることにする。
副団長さんはすぐ近くの壁に寄りかかり、軽く腕を組んでこちらを見やる。まったく、何をしても優美に見えるからけしからんですね。
部屋の扉がきちんと閉まっていることを確認して、ようやくわたしは一息ついた。
「じゃあ、尋問の第二弾、始めようか?」
白金の絹糸のような艶やかな髪をかき上げながら、副団長さんが微笑んだ。
冬の最中、暖房を入れているわけでもない室内で、わたしは汗が背中を流れるのを感じて、無理やり笑顔を浮かべた。
グレンフィル副団長の解呪は、わざと痛くしています。
冬のドアノブが繰り出す静電気の特大のやつと思ってください。
「疑わしきは即罰せよ」が信条の人なので、最初から女の子だろうと容赦しませんが、ノアの外見が目眩ましでない事に気付いて、ちょっとだけ反省をしています。
魔道具(賄賂)ももらったしね。




