バレた! 1
やっと職場にたどり着きました。
いや、戦場らしいです。
アレクさんは管理人室へ案内してくれて、鍵の保管場所を教えてくれた。
さすがに隊長さんなのでそろそろ戻らないとならないということなので、わたしは複雑な心境でお礼を言って別れた。
確かに職にありつけたのは嬉しいが、これは職場というより戦場だ。初見の人が入ったら、まず山賊の襲撃を疑いたくなる様相だったからだ。
恩人であるアレクさんを疑いたくはないが、ちょっと悪意があるのでは、と思ってしまう。
とりあえず、管理人室はしばらく使っていなかったためか、それほど荒れた様子はない。前の管理人さんが二か月前に出て(追い出されて)、それ以降使われていないようだが、多少埃っぽいだけですぐに使えそうだった。
家族で管理していたこともあるということなので、前室には仕事に使うだろう部屋があり、その奥に居住空間がある。リビングに寝室らしき部屋が二つと、簡単な調理ができる台所、トイレに風呂場まであった。
正直言って、個別の風呂やトイレはありがたく、こんなに広い場所を一人で占領していいものか悩むくらいだ。
水道は、温冷ともに調整が効く最新式だ。実はこの設備もシェリルが開発したものである。
特許だけで一生遊んで暮らせるだけの収入があるが、彼女は飽くなき探求心で、日々奇怪なものを生み出しつつ、人々の生活を潤す魔道具を開発しているのだ。何故あれがこんな便利なものになるのか、とても不思議だ。天才とアレは紙一重なのだ。
奥の部屋には寝台が一つあったが、シーツ類はなかった。 困ったわたしは、早速あの鉄の本を開くことにした。備品管理なんかもわたしの仕事らしいから、リネンなどの保管場所もきっとここに書いてあるだろうという予想だ。
仕事部屋らしい前室には、簡素な書類机があったので、埃を払ってから椅子に座って本を取り出した。
預かった鍵を使うと「ガチョン!」という本にあるまじき変な音がして鍵が開いた。幸い中は普通の紙だったのでパラパラとめくることができるようだ。ページまで鉄だったらどうしようかと思ったよ。
目次を見てこの建物の見取り図を探して、とりあえずの必要物資を確保すべく頭に叩き込んだ。
物資関係は全て一階の管理人室にほど近い倉庫に保管されているようだ。リネン室、雑貨、修繕物品などの倉庫がそれぞれあり、食糧庫は食堂の棟に設置されているようだ。
居住部分は全部で三十部屋。最上階が五部屋、三階が十部屋、二階が一五部屋だ。上階に行くほど階級の高い人の部屋で一人部屋のうえ広いが、下っ端になると二人部屋の所もあった。部屋代は階下になるほど安く、わたしと同じく給料からの天引きらしい。トイレは各階に共同のものがあり、風呂は大浴場が一つあるのみだ。一階部分は管理人室を除いて全て共用で、サロンのような場所、遊戯盤やシガールームのようなものも備えてある。贅沢だ。
各部屋の管理は各自でやるが、共用部分については全てわたしの仕事のようだ。
とりあえず、わたしは倉庫を開けてみることにした。
最初にリネンを確認する。ここは、洗濯専門の部署が出入りしているからか、きちんと整っていた。
大きな部屋の奥の壁は一面棚になっており、部屋の番号の書かれた扉が付いていて、各人の出した洗濯物がそこに仕舞われているようだ。出すときは部屋番号の入った麻袋に洗濯物を詰めて、手前の大きな籠に入れておけば、洗い終わった後にその棚に入れておいてくれるという仕組みらしい。
洗濯物が無いだけで随分助かる。
ちなみに部屋番号は重要機密事項だ。入寮者は知っているが、それ以外の人間は知ることが出来ない情報らしい。階級からあたりを付けることはできるが、これも個人の部屋を特定させない処置だとか。どれだけ外部のお嬢さんに侵入されてるんだ。
シーツは個人の指定はないらしく、ここから適当に持って行っていいようだ。その際は、部屋番号と何を持っていったのか記帳するらしく、小さな記載台が置かれている。わたしはシーツと枕のカバー、毛布類を確保して、早速前の例を見てそのノートに記帳した。ちなみに管理人室はゼロが三つだ。
何とか今夜寝ることが出来るまでには整えた部屋だが、何か忘れているような気がした。そういえば入り口で預けた荷物を取りに行かないといけなかったんだ。
鉄の本には敷地の地図もあったので、何とか入り口の詰め所まで行くことができた。さすが機密情報満載の武装する業務教本。
詰め所に行くと、先ほど相手をしてくれた門衛さんがまた出てきてくれた。
「おう。無事に雇われたな」
「はい。これからお世話になります」
「いやホント、できるだけ長く勤めてくれよ」
門衛さんは外に家があるらしいが、結構あの宿舎のことは気になっていたらしい。激励の意味も込めたようで、わたしの肩を思いきり叩いてくれた。いや、かなり痛いんですけど。
まだ日が高いうちだからか、宿舎に戻っても兵士さんたちには会わなかった。内勤は五時までということだから、その時間後に一気に帰ってくるのだろう。もちろん遠征や夜勤の人もいるからそうとも限らないが、時間が不規則なので各自鍵を持っているから、わたしは定時で切り上げても問題ないようだ。ありがたい話である。
管理人には、お仕着せではないが、作業服のようなものが支給されるらしい。何にしても明日からの仕事となるので、明日以降に他の施設の管理人さんが一度必要なものを持ってきてくれるようだ。
給料が出るまではいろいろ買いそろえることが出来ないと思っていたが、とりあえず生活するうえで不便はないように支給されるようで一安心だった。
自分の荷物をほどき、替えの服をクローゼットに納めていると、入り口の方から物音がした。
「誰かいるのか?」
どこかで聞いた覚えのある声がする。
何だろうと顔を覗かせると、先ほど会った副団長さんの紫の瞳と目が合った。
「お前……」
「あ、副団長さん。先ほどはお世話になりました」
「何でこんなところにいるんだ」
無難に挨拶をしたつもりだったが、予想以上に冷たい目線を向けられた。顔は笑っているのに目が笑っていない。それに心なしか言葉遣いも変わってる。
本当にこの人、怖いです。
わたしはめげずに言い返す。
「副団長さんこそ、ここで何をしているんですか?」
「うん? 通りかかったら、怪しい物音がするんで見てみたら不審人物がいて、おしおきが必要かな? って」
もしかして、それってわたしのことでしょうか。
副団長さんの目を見たら察しました。部外者が何でこんな所にいるのかと。確かに、副団長さんにはここで雇われる予定ということは言っていなかったかも。
「あ、あの。幻獣に全財産を盗られて路頭に迷いそうだったのを、エインズワース隊長に助けていただいて、今日からここにお世話になることになりました」
「何それ、俺聞いてないんだけど?」
口調が少し柔らかい前のものに戻っていた。でも、こっちの方が何故か余計怖い。裏表が激しすぎる。
確かに、賊の捕縛までは説明をしたけど、その後の経緯は補佐官にはしたが、この副団長さんにはしていないことに思い当たった。
「聴取の時の書記官の人には伝えたんですが。それに、バロウズ補佐官が今夜紹介してくれるっていうことで、今は待機しています」
そう言うと、何故かチッと舌打ちされた。だって、言う前に副団長さんはシェリルの魔道具持って出て行っちゃったじゃない。
「イライアスも何で許しちゃうかな」
副団長さんのイライラが補佐官さんにまで飛び火した。それにしても、聴取の時の態度と全然違うんですけど。なんかわたしへの当たりがやたら強いような気がする。
「で、それもだけど、幻獣とか何それ」
「いえ、僕もそのあたりは詳しくは分からないんですが、エインズワース隊長やイヴリンさんが言うのには、グリフォンの子供らしいです。盗賊の捕縛の後に王都への道すがら突然現れたそのグリフォンの子供に財布を奪われました」
「……全然意味分からないんだけど」
「僕もです」
既視感が半端ないです。補佐官さんにもすぐには信じてもらえなかったし。正直に言ったのに、副団長さんは胡散臭そうな顔でこちらを見る。物凄く疑われているのが分かる。
気持ちは痛いほど分かりますけどね。
「ふうん、まあ、それはいいけどね」
何か急に意地悪な笑みを浮かべた。そして、わたしの方へズイッと近寄って来た。
ああ、綺麗なお顔ですが、素直に鑑賞できないのが残念です。
「君さ、何を企んでいるの?」
「……え?」
魔術師団副団長による、恐怖の尋問が始まった。
何かの汚れに武装する本。
ラスボスはグレンフィル副団長。
様々なものと死闘を繰り広げます。
ブクマ、閲覧ありがとうございます。




