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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第1章 そうだ 王都へ行こう
18/109

前途は洋々? 多難? 1

ヌルッと王都入りしてしまいました。

書き忘れていましたが、王都はウルヴァートンと言います。

でも通常は「王都」と書きます。長いから。

 隊長さんに連れられて、わたしは王都の中心部にやってきた。


 北側に王城があり、兵団の兵舎や宿舎はそれより東側周辺にあるという。直接職場である宿舎ではなく、一度兵団の手前にある外庁に寄って契約を結ぶとのこと。そのついでに、いくつかある辻馬車の路線を説明するためにわざわざ中心部へ来てくれたようなのだ。


 王都は広く、徒歩での移動では一日あっても用が足りないらしい。遠くの丘から見ても、王都の城壁はすべて見渡すことは不可能だったので、いくら健脚でも買い物やお使いで出かける時は徒歩は無理そうだった。


 乗車賃も一路線最大三十クランで、食事パン三個分くらいで行ける。定期券のようなものもあり、兵団は自由に乗り降りできる証書のようなものを持っているらしい。

 隊長さんは、わたしの分もそれで乗せてくれた。正式に宿舎の管理人になれれば、兵団からわたしにも同じようなものが支給されると聞いて、ちょっとわくわくする。


 辻馬車は路線ごとに循環しているらしく、いくつかの駅があって、十分くらいごとに乗れるようだ。時間に正確な馬車は、非常に使い勝手がいいらしい。


 田舎の方ではまだあまり普及していないが、王都では時計が普及している。

 この時計、実はシェリルが三年前に開発したものだった。


 一日を正確に二十四等分し、それを時間、分、秒と区切ることは天文台や数学者の間では理論上出来るとされていたが、実際にそれを正確に測る術がなかったが、シェリルが開発した標準時計というものがその理論を実用化に成功したのだ。


 大きな都市では、この標準時計で各公設の時計を管理する時報局というものがあり、毎日各時計に誤差がないか管理している。


 詳しい構造とか理論とかは分からないが、これによってそれまで日時計や水時計などに頼っていた時間が細かく明示されることにより、人々の働き方や生活が大きく便利になった。日雇いは労使ともに時間の誤魔化しがなくなり、衛兵も勤務に季節による偏りがなくなった。

 特に馬車はその恩恵に預かっており、運行管理が正確に出来ることから、繁忙な時間帯と暇な時間帯の運行本数を調整し、辻馬車同士の事故も激減し、採算性も大幅に上がったという。


 開発者本人は全くの狂気の申し子であるが、世の中にもたらした恩恵は計り知れない。その陰で犠牲になっているわたしも少し褒めてもらいたいと、ちょっと真剣に思う。


 まあ、そんなわけで、隊長さんは宿舎や主要な官庁、市場などを回る路線を教えてくれた。寡黙ではあるが、必要なことは逃さず教えてくれて、いつの間にか喋らない時間も気詰まりではなくなっていた。


 騎士や衛士などの兵団専用馬車があるが、雇用前のわたしはそれらが使えないので、わざわざ一般用の馬車に一緒に乗ってくれたのだ。

 冬なので、外套を着こめばそれほど目立たないと思ったが、隊長さんはどうしても衆目を集めてしまう。立派な体格や騎士の外套もそうだが、なんというか雰囲気が堅気……いや一般人とは違うからだろう。本当にいい人なんだけどね。

 ちょっと遠巻きにされてわたしたちの周りに空席が出来ているけど、混んでいる時間帯じゃないから許してもらおう。


 辻馬車は大きな拠点が五つあり、城壁に沿った外周の路線、中央を南北に抜ける路線、東西を結ぶ路線、各大路を結ぶ外周より内側の二路線の拠点がそれだ。

 今来た場所は、中央にある拠点で、ここは王都で一番の繁華街となっている。四方にそれぞれ常設の大きな市や商会の建物が立ち並び、ここから半径二キロ程度の範囲が全て商業区域となっている。少し離れると住宅街や工房街があるが、ほとんどの市民がここを回るだけで生活ができるほどだ。


 ウェーンクライスも栄えた領ではあるが、王都の混雑は尋常じゃない。慣れないうちは人に酔いそうだ。

 見ればいろんな種族が溢れていて、独特な雰囲気が流れている。冒険者や傭兵風の人も、褐色や黄みのある肌の外国人や楽団、役者などの田舎では滅多に見られない職業の人もここそこに共存しているように見えた。目が回りそうだ。


 そんなもので、中央に行くにつれて馬車も混み始め、それでも依然としてできる隊長さんの周りの空白地帯に、ちょっと心苦しくも感謝したくなった。

 ただ、必要物資を買う時は、ここに来なければならないだろう。


 そっとため息をつくと、隊長さんがこちらに気付いて視線を向けた。

「疲れたか?」

「はい、ちょっと。でも、ここで生活するために頑張って慣れます」


 人いきれで寒くないのはいいけど、夏は大変だなぁと思っていると、どうやら乗り換え場所に着いたらしい。場所を良く覚えておかなくちゃ。


「今日は冬市の初日だから人出が多いが、いつもはもっと少ない」

 そっか、良かった。いつでもこんな状態じゃ、まともに独り歩きできないものね。


 一度降りるために立ち上がると、自然と隊長さんが前を歩いてくれた。綺麗に人波が分かれるので、非常に歩きやすかった。もしかして、人波から守ってくれてるの?


「迷子になるなよ」

「……子供じゃありませんから」

 せっかくちょっとキュンとしたのに、すぐに台無しだ。ブチブチと口の中で文句を言う。人より頭一つ分背が高いし、ただでさえ目立つ隊長さんを見失うことはないじゃないか。


 それから馬車を一度乗り換えて東方面へしばらく進むと、ようやく堅牢な建物が立ち並ぶ区域に辿り着く。中央に比べると人通りはあまりなく、閑静な佇まいに感じた。


 辻馬車を降りると、格子のかかった塀沿いに歩き、門のところまでやってくる。門衛に隊長さんが一言二言声を掛けると、大きな荷物はここで預けるよう言われた。取りに来るまで預かっていてくれるらしいが、一応初見の人間は危ない物を持ち込まないように預ける規則らしい。それ以外は、ここはすんなりと通してくれた。


 途中、門衛さんに頭を下げて挨拶をして通ると、少し強面だが笑って通してくれた。通る時に声を掛けられる。

「頑張れよ!」

 何が?怪訝そうな顔をしていたと思うが、門衛さんはニコニコ笑うだけで答えない。隊長さんが先にすたすたと行ってしまったので、仕方なく後を追いかけた。


「一度兵団の庁舎へ行く」

「雇用の契約ですか?」

「そうだ。右側が事務方のいる本庁舎で、左側が兵団の詰め所。奥が修練所で、更にその奥が宿舎だ」

 背伸びして見てみると、修練所の方には森が広がっている。王都の中に森があるのか。


 見れば結構広大な敷地だった。

 何でも、狩りや園遊会を催す王家所有の森と隣接しているらしいが、兵団が訓練に使う森は石壁で厳密に仕切られているので、迷い込む心配は無いとのこと。野営の訓練や、足場の悪い場所での戦闘の訓練などで使うようだが、王族の狩場もあるため結構野生に近い動物もいるらしい。もちろん肉食の危険な動物はいないが、シカやリス、キツネなどは普通に生息しているとのこと。ワクワクだ!


 てくてく歩いているうちに、右側の本庁舎の立派な門の前に着いた。

 中に入ると、隊長さんが外套を脱いだので、わたしも倣って脱ぐ。兵舎の中は温かかったのでホッとする。そこでハタと気付いたが、不潔にはしていないけれど、旅でくたびれた格好である自覚があるので、わたしは今更だが外套や中のシャツなどの皺を伸ばしてみたりした。


 途中会う人会う人に隊長さんが手を挙げて挨拶していたので、わたしもぺこぺこと頭を下げていたら結構疲れた。

 階段を上って、何度か廊下の角を曲がると、一つの部屋の前に辿り着く。ここが目的地らしい。


 隊長さんがノックすると、中から「入れ」という隊長さんの感じとはちょっと違った抑揚のない低い声が返って来た。

 隊長さんはさっさと入ってしまったが、わたしは心の準備が!


「何だ、珍しいな」

 声の主がまた抑揚のない声で、隊長さんに向かってそう言う。

「ああ。宿舎の管理人を連れてきた」

「何だと?」

 少し剣呑な響きで言われ、わたしの胃が縮みあがった。怖いが挨拶しない訳にいかない。


 隊長さんの大きな体の陰からこそっと出て、勢いよく頭を下げた。

「ノアと申します。よろしくお願いします!」

 頭を下げてしばらく声が掛からなかった。どうしよう。怖くて顔を上げられない。


 そうこうしていると、またあの声がわたしに掛かった。

「いつまでそうしている気だ。顔を上げろ」

「はい」

 そう言って顔を上げて、わたしは数回瞬きをしてしまった。


 目の前には、高そうな机に鎮座している男性が見える。そのお顔は、わたしが会った事のある人の中で、一二を争うくらい整っていた。


 青灰の少し長めの髪を一つに結んで、不機嫌そうにこちらを見ている様は、まるで氷の彫像のようだと思った。女性らしい美しさではなく、ちゃんとした男性的な方で、年のころは隊長さんより上、わたしと十歳は違わないくらいだろうか。


 そして、この人がイヴリンさんが言っていた、押しの強い女の子たちを追い出した人だと分かった。

 誰彼分け隔てなく厳しい人のようだ。浮かれた女の子など一たまりもないだろう。


 さて、この人を攻略できるかで、わたしの就職が決まるぞ。

通貨について

1クラン=10円くらい

1クラン=黄銅貨  10クラン=銅貨  100クラン=小銀貨  1,000クラン=銀貨

10,000クラン=金貨 100,000クラン=白金貨

リリエンソールでは紙幣は流通していません。


王都での平均月収は金貨2枚~3枚で、地方はその半分から3分の2くらい。

ウェーンクライスは王都とほぼ同じくらいです。


ノアが持ちだしたお小遣いは、金貨8枚と白金貨相当の貴金属です。

18歳の子がそんなに持ってるの!? と思われるかと思いますが、一応ノアのお家は家族がアレでも名門ですので、それくらいのお金はお小遣いで溜められます。エセ冒険者もやってましたし。

貴金属は主にアクセサリーで、盗まれても足が付きやすいのと相場が安定しているため、資産形成にノエルが勝手にノアのお小遣いから購入しました。

ノアは金銭感覚が庶民ですが、それは冒険者の一行と旅をした際に培ったものです。これ大事。

180万円の損失……。凹みますよね。


ブクマ登録ありがとうございます。

拙作を読んでいただけるだけでありがたいのに、感謝感謝です。

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