表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第1章 そうだ 王都へ行こう
1/109

一人で生きていきます 1

初投稿です。

基本的に主人公視点で話が進みます。

R15は戦闘シーン等があるため保険で掛けています。

今回は、主人公の生い立ちです。

 思えばわたしは、生まれ落ちた瞬間からずっとついてなかった。


 先に生まれた双子の兄のへその緒に引っ掛かって窒息しかけ、産婆に床に落とされ、冷水の産湯に浸けられたらしい。

 まあそれは、初産で慌てたわたしの父が、産婆に体当たりしたり、得意の氷の魔法を産湯の桶に発動しちゃったりというドジっ子ぶりを発揮したせいなのだけど、何故かその割を食ったのはわたし一人で、兄は何一つ厄災に巻き込まれることはなかったようだ。

 絶対に兄が私の運を全部持って行ったのだ。


 わたしの名はノア・アシュベリー。花も恥じらう十八歳の乙女。


 「ノア」というのは、この国リリエンソールでは男児に付けることの多い名だけど、これも父が「こっちが男の子だったよな」と確認もせずに名入れの儀式をしたためだ。

 名入れとは、名前を魂に刻む儀式で、集落に一人はいる魔術師が執り行うものだが、わたしの家アシュベリーは国でも屈指の魔術師を輩出する家柄であり、父は婿入りだけど魔術師だ。その父自らがその儀式を行った結果であった。


 まあ、わたしの幼少期の不遇は、ほぼ父のやらかしから出来ていると言っても過言ではない。

 わたしは知っている。父が昔、その金髪のせいか同僚や周囲から「金色の悪魔」と呼ばれていたことを。理由は詳しくは知らないが、父の昔の知り合いは、父をそう呼んだ。


 問題は父にも大いにあるのだが、もっと大きい問題は、我が家は魔力豊かな家系であるはずのアシュベリーの傍系であるが、わたしは一般人くらいの魔力しかないことだった。


 兄のノエル(こっちの名前の方が可愛かったなぁ)は、数々の大魔術師を生んだ名門の名に恥じない魔力と才能を持っている。お陰でわたしは、「おなかの中で、お兄ちゃんが全部いい所を持って行ったのね」などと、親戚筋から嘲笑交じりの言葉を聞かされて育った。

 兄は、僅か三歳で氷の彫像を作ったりとか、六歳で上級の魔物を討伐したりとか、とりあえず天才の逸話に事欠かない子供で、将来王立の魔術師団でも主席となるかもしれないなんてくらいの魔力を見せていた。


 一方、わたしがまともに使えるのは、ちょっとした治癒魔法と光る魔法だ。


 いや、一般的にはとても役に立つ能力だ。転んで膝を擦りむいたりしたときとか、料理で火傷をしたときとか、ちょちょいと治せるんだよ。それに、暗い時にちょっと灯りが必要な場合とか。


 そんなんだから、わたしは結構真面目に努力した。勉強も運動も出来ない訳じゃないが、兄と比較されるとそれは凡才としか言いようがなかったからだ。


 そんなわたしを両親も兄もとても大切にしてくれた。出来ないことではなく、出来ることを伸ばしてくれて、愛情深く育ててくれた。

 ただ、一度決めたことを手を抜いたり投げ出したりすることは許さず、時に本気で怯えるほど厳しく育てられた。

 そのおかげで、わたしは魔術以外には、大概の場所で生きていけるだけの様々な技能を身に付けたと思う。


 時に、荒くれ者の冒険者に交じって冒険に出かけたり、時に、気難しい貴族の家に雑用として放り込まれたり、時に、職人のギルドに突き出されて鍛冶や大工などの基礎を身に付けさせられたりした。

 わたしが少しでも興味を持ったものに何でも挑戦させてくれたけど、両親の「挑戦」のレベルがちょっとおかしいことに気付いたのは、十三歳の高等学院に入学した時だった。


 十二歳までは、地域の子供が等しく通える「学校」というものがあるが、貴族や上流階級の一般人は教養を高めるため高等学院に通う。わたし個人の資質はともかく、貴族ではないが家柄は由緒正しいので、わたしも学院に通ったのだけど、同じ年の乙女たちが、刃物を打ったり家畜の解体をしたり、野宿で一週間過ごしたりなど、しないということを知って愕然とした。

 世の中の乙女は、刺しゅうや編み物を嗜み、美容や洋服、恋バナとかに花を咲かせるのだという。


 それは、わたしも一応女の子ですから、パーティに呼ばれたりお茶会に招かれたりとしたことはあるので、一応そういう振る舞いもできますよ。がしかし、友達が増え、社交の場に出れば視野が広がり、「普通」の女の子とはやはりどこか違っているのに気付いてしまった。


 でも、それを嘆いたことは無い。だって、わたしは一族の「落ちこぼれ」なのだ。


 人より多くの努力をしないと、親類が言う「普通のアシュベリー」にはなれないのだから。

 魔力が無いなら、違う形でアシュベリーに貢献しなくてはならない。幼心にわたしはそう刻んだ。


 一方兄は、天才という名を欲しいままにしていた。


 魔力は歴代の大魔術師と肩を並べ、剣も勉強も魔術の実技も首席を取っている。

 また、その有能さから周りから一目も二目も置かれ、彼の周りには常に男女問わず人が集まっていた。

 まあ、特に女子の数が多いのだけど。わたしがいつ見ても隣には違う女の子がいる。我が兄ながら、少し自重すればいいのに、と思う。


 兄は、有能なだけではなく、物言いもキッパリとしていて、大口も叩くが全て有言実行してしまうので、反感も買いやすいが、憧れる人間もそれ以上にいた。

 親類も他人も、将来有望な兄に近付く人も多い。どこに行っても華やかな人だ。


 そんな兄でも、わたしのことは可愛いらしく、周囲の人間よりも優先することから、わたしがその嫉妬を受けることもしばしば。

 十五歳で学院のパーティに出られるようになった時には、同伴したい令嬢たちからの誘いを「妹がいるから」と一蹴し、わたしはその後彼女らに「あなたみたいなブスにノエル様は似合わないのよ!」と喧嘩を売られた。

 双子なので顔はそれほど違わないと思うのだけど、似たような服を着ていても、何故か兄が男性から声を掛けられるということもしばしば。


 もう、いろんなしばしばで、わたしは自分の才能も容姿も平凡であることを受け入れようと思った。人間上を見ればキリがないので、そう思うとスッキリする。


 こうして、あまりに自分とは出来の違う兄に嫉妬して非行に走ることもなく、自分で言うのもなんだけど、割と素直に育ったと思う。


 学院の卒業まで一年を切ると、今度はその後の身の振り方で問題が起こる。

 貴族の子女は、学院に入る前から婚約者がいるのは当たり前で、特に女性は社交界デビュー以降に見合い話がひっきりなしに舞い込む。卒業と同時に結婚する子がほとんどで、優秀な子が僅かに国の機関へと就職する。

 アシュベリー本家は伯爵位の貴族だけど、分家であるうちは裕福な庶民だから婚約者などいないけど、学院の子は貴族でなくても概ね学院の貴族との伝手等で早めに結婚する子がほとんどだ。

 両親も兄も下手な相手と結婚するくらいならずっと家にいてくれという家族バカで、一般的な良識の有るわたしは少々いたたまれなかった。実際縁談の申し入れは皆無で、友人からもそれに触れてもらえない状態だった。


 誰にも言ったことは無いが、本当は、わたしは働きたかった。何が得意という訳でもないが、家族のお荷物ではなくて、自分一人で何ができるのか知りたかったのだ。


 そんな中、一つの縁談が持ち上がる。本家の従兄が、わたしをもらってくれるらしい。


 従兄はサイラスといい、わたしより二つ年上で、非常に優秀な本家の次男だ。わたしは何度も会った事があるけど、いつも少し言葉を交わしただけだったので、何をどうして気に入られたのか分からない。

 サイラスは、誠実そうな物腰の柔らかい人という印象で、働きたいという願望はあったけど、人生の底が見えていたわたしは、家族に不利益が無いのならその話を受けるつもりでいたが、それにノエルは大反対だった。「僕の目の黒いうちはお嫁に行かせない!まあ、今も黒くないけどね!」と言い放った。呪いか?ちなみに、わたしと兄の目の色は茶色だ。


 出来の悪い妹が先に結婚することに親族がとやかく言うのが嫌なのだろうか。順番からしたら、長子から結婚するのが一般的だ。わたしたちは双子なのでそんなに気にすることでもないのだけどね。


 そういう訳で、サイラスとの結婚の返事を保留にしていたのだが、事件は卒業を間近に控えた冬に起きた。

閲覧ありがとうございました。

数話分は同日の投稿になります。

少しでも興味を持っていただいたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ