私の不良品
不良品。
それが僕の名前だ。
ボクは工場で兄弟達と生まれた。
大好きな人のお世話するために生まれたんだと、たくさんの兄弟達と一緒に聞かされていた。
ぼくらは工場の横にある倉庫でじっと待つ。
兄弟達、一人また一人といなくなっていった。
きっと大好きな人のお世話をしに、幸せになりにいったのだろう。
いいなー、いいなー。
ボクはずっと待った。
ボクの大好きな人を。
そしてボク以外とうとう兄弟達は誰もいなくなってしまった。
いつの間にかボクの体には『不良品』と書かれた紙が貼ってあった。
『不良品』とはなんだろう?
ボクはずっと待ち続けた。
そしてとうとうボクの出番が来た。
トラックに乗せられて移動する。
きっと大好きな人の家に違いない。
そして降ろされた場所にはたくさんの金属のゴミがある場所だった。
はて大好きな人はどこだろう?
わかった。
きっとここで待てば来てくれるのだろう。
ボクはまたずっと待った。
ある雨の日に女の子が近づいてきた。
もしかしてこの子がボクの大好きな人なのかな?
やっときてくれたんだ!
これでお世話ができるんだ。
嬉しくなって話かけてみたらすごく驚かれた。
女の子はすこし止まった後に
「私のロボットだー!」
といって喜んでくれた。
やっぱりこの子がボクの大好きな人なのだ。
その日、女の子がボクのことを家に連れて帰ってくれた。
どうやらボクのことをお父さんとお母さんに紹介してくれるみたいだ。
「ねぇ、みてみてー!ロボット拾ったー!まだ動いてるよー!」
「拾ったって、『不良品』って書いてあるじゃないか。たしかにお父さん貧乏だからお誕生日にロボット買ってあげられなかったけど、こんなの使わなくても」
「このロボット『不良品』って言うのね!拾ったのは私だし、私のでいいでしょ?」
「いや、不良品ってのは、うーん、まぁいいか。壊れたら言うんだぞ?」
「うん!ほら行きましょ!『不良品』」
そうかボクの名前は『不良品』なのか。
だからボクに『不良品』という紙が書かれていたんだね。
この名前を一生大事にしよう。
それからは楽しい時間が続いた。
女の子とママゴトしたり、かけっこしたり、一緒にベッドで寝たり。
本当に本当に楽しい毎日。
今なら『大好きな人のお世話するために生まれたんだと』本当の意味で理解できる。
だけどなんでかな。
毎日楽しいのに。
ボクの腕はだんだん動かなくなっていった。
あの子と手を繋げなくなってしまった。
あの子のことを抱きしめてあげられなくなってしまった。
ボクは『壊れて』しまったらしい。
「やっぱり壊れたか?」
「ねぇ?お父さん。治るよね?『不良品』また腕動くようになるよね?」
「調べてみたけどどうも腕のネジが元々足りないらしい」
「治るよね?」
「うーん、最近はお金も入るようになったから新しいロボットを買ってあげるよ」
「嫌だ!『不良品』がいい!」
「わがまま言わないでくれよ」
ボクのせいで大好きなあの子がお父さんとケンカしている。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
なんで僕はこんなに駄目なんだろう?
ある日あの子のお父さんが夜中、ボクだけを連れて車に乗せた。
「もう新しいロボットを買ってあるんだ。クリスマスにはちょっと早いけどあの子もきっと喜ぶと思う。こんな『不良品』を使わなくてもいいんだ」
お父さんは少し運転した後、車を止めボクをある場所に置いた。
「いままでありがとよ。だが元々壊れてたんだ。あるべき場所に帰れ、『不良品』」
車が去っていった後をボクはじっと見ていた。
車がいなくなってしばらくした後、あたりを見渡すとそこにはたくさんの金属のゴミがある場所だった。
そうか、ここに戻ってきたのか。
ボクはやっと理解した。
ボクは元々『壊れて』いたんだ。
そして捨てられていたんだ。
なんだ。そうだったのか。
ありがとう。
あの子は捨てられるだけだったボクに、壊れていたボクに大好きな人をお世話する時間をくれたんだ。
名前もくれた。
家族もくれた。
心もくれた。
ボクはなんて幸せなんだろう。
ふふ、兄弟達も羨ましがるに違いない。
とうとう足も動かなくなってしまった。
頭もぼーっとしてきた。
どうやら時間らしい。
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やっと見つけた。
10年前お父さんがどこかに捨ててしまったと聞いた私はショックだった。
『不良品』がいなくなって心に大きな穴が空いてしまったのだ。
新しいロボットと一緒に遊んでも楽しくない。
彼は『不良品』ではないのだから。
お父さんは私の為を思って行動したのだろう。
大人になった今なら理解できなくもないが、あれ以降関係はギクシャクしたままだった。
娘のためにと思ってやったことで怒られたお父さんも納得できなかったのだろう。
最近、お父さんにも思うところがあったのか、ようやく私に謝罪してきた。
「あの時はお前の意見を無視してあのロボットを捨てたのは悪かった」
当時、私があまりにも『不良品』のロボットに懐くので他の友達とかに馬鹿にされないか心配だったらしい。
私が最初、彼を拾ったゴミ捨て場に捨ててきて新しいロボットを買えばそれで私も納得すると思ったらしい。
違う。私には『不良品』だけなのだ。
ん?
あのゴミ捨て場は廃棄になってるから稼働してない。
昔は金属のゴミを処理していたのだが今では誰も触ってないし、片付けようともしない。
近所の人が愚痴っていたのを覚えている。
もしかして。
私は急いでゴミ捨て場に行き、そこで彼をみつけた。
『不良品』が横たわっていたのだ!
急いで彼を連れて近所の修理屋になんとか治らないかと交渉した。
大人になって仕事をするようになって自分で稼いだお金でだ。
誰にも、お父さんにも文句を言わせない。
結論から言うと彼は治るらしい、時間はかかるかもしれないが。
大丈夫、10年も彼がいないのを耐えてきたのだ。
だから起きてきた彼に言ってやるのだ。
たくさんの愚痴と
「おかえり、『不良品』」と
最後、どう終わらせるか悩みましたが童話っぽくないのかも?
楽しんで頂けたら幸いです。