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陰猫(改)のオリジナルや二次創作の短編

世界一慈悲深い世界一の悪

作者: 陰猫(改)

 それはとても些細な出来事から始まった。

 私にとってはつい、昨日の事のように思い出される。


 自分でも、まさか、こんな事になるとは思いもしなかった。


 まさか、自分が世界一の悪になるなんて・・・。


ーーー


ーー



 私は至って何処にでもいる善良な一般市民であった。

 穏やかで純粋、人の気持ちを察する事の出来る優しい人と言うのが、第三者から見た私の印象なのだと言う。


 そんな私の家に泥棒が入る。

 いや、正確には血塗れの男性である。

 男性は銃で撃たれた傷の止血の為に治療を必要としていた。


 銃で脅されたのもあるが、私は罪を犯した彼を哀れに思った。

 どのような理由があるかは知らないが、彼を救って上げようと私は心に決める。


 男が銃をチラつかせたりもしたが、私はそれとは関係なく、善意で彼を保護した。

 私の思いが伝わったのか、男性はポツリポツリと洩らす。

 彼はマフィアの銃撃戦で負傷し、命からがら此処まで逃げて来たのだそうだ。


 私はその場へと案内して貰うと大量の死体が転がっていた。

 人間同士で争うなど、私には到底、理解出来ない。


 この人達もせめて、冷たいアスファルトの上ではなく、母なる大地に返して上げようと私は思った。

 私は男性と二人掛かりで山の中に死体を埋葬すると静かに冥福を祈った。

 神がいるのなら彼等の罪を赦し、安らかなる一時を与えて下さいと真剣に祈りを捧げる私を見て、男が泣く。

 そして、犯行を自首して来ると私に伝える。


 私は「一人だと不安でしょう。一緒に行きますよ」と同行を申し出る。

 そして、彼の自首を見届けてから数日後、私は大量殺人犯として逮捕された。


 埋葬した遺体から私の指紋などが出て、隠蔽工作までした重罪犯として私は裁判に出向く事になる。

 私の思いが伝わったと感じたのは間違いだったのだろうか?


 そう思って証人に立ったのは彼であった。

 彼は自分がやったと叫ぶが、彼の弁護士は「正直にお話下さい」と告げる。


 ああ。良かった。


 彼は自らの過ちをしっかりと自覚しているのだ。

 ならば、私は彼に「ありがとう」と言うしかなかった。


 彼は涙ながらに必死で訴えてくれた。

 だが、弁護士は動かない。

 恐らく、彼の幹部か何かが圧力を掛けているのだろう。


 結局、彼の証言は無効にされ、私は偽りの証拠と証言の元、死刑と宣告されてしまう。

 後悔がないと言えば、嘘になってしまうが、彼が自身の罪の重みに気付いてくれただけ、私は満足である。


 真実を偽りにされてしまったのが心残りだが、私は最期まで善行を貫き、彼の心を救った。

 自己満足ながら、それで良いと思った。


 それから数年を収容所で過ごした。

 徐々に迫って来る自分の番に怯える事もあったが、それ以上に同じ死刑囚になった彼等の魂を救いたいと願うようになる。


 私は彼等の魂が安らかになるように話し掛けた。

 時には脱走の手助けをしろなどと脅迫もされたが、私は「自らの罪から逃げては駄目です」と言っては暴力を振るわれそうになった。


 しかし、いつしか彼等とふれあい、お互いを知る事で私達は心から信頼し、互いに話せる中になった行く。

 それは看守も含め、私を取り巻く人々に伝わった。


 そうして、私の番が回って来る。


 死刑方法は首吊りらしい。

 私は臆せず、彼等に続いて行く。


 同じ死刑囚の彼等が私がいなくても心安らげるように私は明るく振る舞った。


 いずれは皆、天に召される。

 私は歪んだ運命にあったが、人々に優しさと慈しみを伝えた。

 それが私のこの世で背負った宿命だったのだろうと思うと少しだけ、恐怖が薄れた。


 やがて、私は黒い袋を頭に被せられてロープを首にくくり付けられる。

 私は死を受け入れる準備をした。


 だが、その時は一向にやって来なかった。

 しばらくしていると首にくくり付けられていたロープが外される。


 何が起こったかは解らない。

 ただ、私の刑がキャンセルされたのは解った。

 しかし、何故かなのは未だに解らない。


 或いはそれも天命だったのだろう。

 その後、私は死んだ人間として世の中に公開され、私の存在は消える。

 そして、私は別の人間として今に至るのであった。


 私を救ってくれたのはあの罪を認めた彼であった。

 彼はマフィアの中で成り上がり、私を助ける手助けをしてくらたのだ。


 だが、最高裁でも覆らなかった刑はどうしようもない。

 ならば、存在を抹消する他なかったと彼は私に悔しげに教えてくれた。


 私はただ、彼に礼を言った。

 彼は悪人かも知れないが、罪を認め、戒心する心を持った。

 それが何より嬉しかった。


 そして、私は世界一の悪党として君臨する事となる。

 無論、私に誰かから何かを奪ったりなどと言う概念はない。


 私にあるのは如何に救われぬ貧しい人々を救うか、弾圧に苦しんで嘆く国を救うかを考えた末に現代の世界の在り方を見直す必要があると言う思いであった。

 そうなるとどうしても、世界を相手にしなくてはならなくなる。

 私は貧困に苦しんでいる人々を励まし、支援し、貧困その物を無くす為に活動し、今の在り方に固執する世界と対立する事となる。


 願わくば、各国が手を取り合える本当に平等で誰もが笑え、他者に寄り添える世界にしたい。


 その為にも存在なき私は今日も人々の為に話し合いで解決出来るように模索を続ける。

 今日もまた迷える人々を救う為に・・・。

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