特異点
パッと思いついたので書いてみます。
対戦よろしくお願いします。
「何がどうしてこうなったんだ…」
俺は誰も居なくなった学校で独り呟いた。
「……とりあえず、帰るか…」
そう言ってロクに荷物もまとめず、夕方の4時なのにも関わらず子供の1人も見当たらない道を歩いて帰る。
こんなことになったのは本の2.30分前の事だ。
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「きりーつ、きょーつけぇー、れぇー」
「ありゃとあんしたー」
そんな気の抜けた掛け声で5限目の授業が終わった、たしか今日はこれで終業だったよな?なんて考えていると不意に後ろから声をかけられた。
「よっしゃァァァ司ァ!今スグにゲーセン行くぞ!今日こそは俺のスゥゥゥゥパァァァなパンチ力を見せてやるぜ!!」
「そんな事言ってお前昨日パンチングマシン76kgだったじゃん。そんな華奢な腕しといて何言ってんだ。腕力増加のギアでも買ったのか?」
「チッチッチッ、それはあくまで昨日までの俺でしかない。今日ォォの俺はァ!ハイパワァァアドリンクを飲んで!生まれ変わ」
「とりあえずやかましいから一人で帰ってくれ」
このやかましいのは冨田優奈。そう、女だ。この一人称、このやかましさで女なのだ。信じられないかもしれないが事実だ。俺だって信じたくない。圧倒的に名前負けしてる、というか名前が負けている。
コイツとはもうかれこれ17年の付き合いだ。産まれた時から家が隣で今日までずっと一緒に居る、まぁ所謂幼馴染ってヤツだ。
「てかお前なんだそのハイパワードリンクって。増強系のエナジーか?怪しい薬じゃないだろうな?」
コイツは俺が目を離すとすぐになんでもかんでも考え無しに手を出したがるのが悪い癖なんだ。小学校の時には理科の実験の時間に薬品同士を勝手に混ぜ合わせようとしたり、中学生の時なんかは「面白い物見せてあげるからおじさんについておいで」って言われたからと不審者について行こうとしたり、ついこの間だって某動画配信サービスの変な詐欺広告に応募しようとしてたりetc…。いい加減もう17歳なんだから自分で考えて行動して欲しいものだ。なんてことを考えていると、
「あぁ違う違う!これはちゃんとコンビニとかでも売ってるやつだぜ!セーキヒン?ケーキヒン?よくわかんないけど、これは多分大丈夫!」
「正規品な。お前の大丈夫は大丈夫じゃないから怖いんだが…まぁ、コンビニにも売ってあるなら大丈夫か」
「そうそう大丈夫大丈夫!これ、STPドリンクって言うんだけどさー!今めちゃくちゃ流行ってるんだって!」
そう言って優奈が取り出したのは、まぁ何処にでもあるようなパッケージをした栄養ドリンク的なもの。なんか鉄腕〇ASHみたいな人が描かれている。
「お、それ冨田も飲んでんのか!美味いよなーこれ」
「お、義武も飲んでんの?いやー、ハマっちって」
なんて言いながら会話に入ってきたコイツは義武浩二。ただのクラスメイトだが、席が隣になってからはちょくちょく話す仲になっている。割と最近は飯を一緒に食うことも多い。
「これ、最近じゃ知らない人は居ないくらい有名なんだぜ?この味がたまらなくクセになるんだよなぁ。しかも安いし。特出した効果はないけどなー!神宮は知らなかったっぽいけどな」
「司はこういう流行り廃りとか全然キョーミないからなぁ」
自己紹介が遅れたな。そう、俺こと神宮司は巷の噂とか、どこどこのアレがどうだとか、だれだれのコレがこうだとか、全くもって興味がないのだ。まぁ自慢げに言うような事じゃあないんだけどな。
「俺も最近飲み始めたんだけどさ、これ飲むとなんか集中力上がるっていうか、反射神経も上がるっていうか、STPドリンクのおかげで頭が良くなって念願の彼女も出来て大金持ちになれました!的な?」
「まてまてまてまて詰め込みすぎだ。しかも彼氏じゃなくて彼女なのか…」
「だってそういうネタだし?」
「相変わらず仲良いなお前ら」
俺だって別に好きでコイツとずっと一緒に居るわけじゃない、何かにつけていつもコイツがやらかすから俺が仕方なくケツを拭いてやってるだけだ。完全に腐れ縁とはまさにこの事。謝罪を要求する!
「まーつっても仲良いのは事実じゃんね?私達…もうお付き合いしてから17年もたつのね…」
「辞めろ、夏手前なのにひとりぼっちのクリスマス並に悪寒がしたぞ」
「涼しくなっていいじゃんー。それに司には俺がついてやってるからクリスマスをひとりぼっちで過ごした事ないだろー?いやぁ俺ってばいい女」
「5分間くらい息止めててくれ」
こんなやり取りももう17年もやってりゃあ慣れたもんだ。
「しかし神宮はSTPドリンクの事も知らなかったか」
「こんだけ有名なのにな」
「?」
「STPドリンクの事知らないってやつ、多分このクラスで神宮だけだぜ」
そんな馬鹿な、と思って周りを見渡してみる。
確かにこの教室にいるやつら、どいつもこいつもSTPドリンクを飲んでやがる。なんだこれ。
「なんか、こんなに皆が飲んでると洗脳じみたものを感じてちょっと気持ち悪いな。思念系の能力を悪用してるんじゃないか?」
「いやぁ流石にそれは無いんじゃない?能力の営利目的の使用は重罪だし、こんなに有名になってるとこが使ってるとは思えないっしょー。それだけメーカーが頑張ってるってことじゃない?」
「まぁその通りなんだろうけどなぁ…」
どうにも釈然としない。なんかこういう映画昔あったよな、みんなの価値観がどんどん変えられていって自分が最後の1人になるやつ。名前は忘れたけど。
「とりあえずそんな事はどーでもいいんだよ。それより司、ゲーセンだゲーセン!早く行こうぜ」
「だから一人で帰ってくれって言ってるだろ」
「どお゛ぉぉぉぉぉぉしてだよ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉお!いいじゃねーかゲーセンのひとつやふたつ!」
「うるせーな、藤原〇也かお前は。今日はちょっと用事があるんだよ」
「嘘だッッッッ!」
ちなみに用事があるのは嘘ではない。今一人暮らしをしている姉の所に寄って化粧品を届けなければいけないのだ。
「嘘じゃねーよ。ちょっと姉貴のとこ寄らなきゃいけないんだよ」
「あ、皐月さんのとこ?じゃあ俺も一緒にいく!久々に会いたいしー」
「えー」
俺が悩んでいると横から義武がコソコソと、
「まァまぁ。こんな美少女からお誘いがかかってるんだぜ?ちょっとくらい連れてってやれよ」
そう、富田優奈というこの女、このような荒っぽい言葉遣いと破天荒な性格からは想像出来ないほどの美少女なのである。
こんなヤツが黒髪ロングでめちゃくちゃスタイルがいいモデル体型の美少女とか世界が信じられなくなる。
まぁでも確かに、最近優奈も姉貴に会ってなかったし連れてってやったら姉貴も喜ぶか。
「そうだな、じゃあ一緒帰るか」
「よっしゃ!決まりだな!じゃあ義武、また来週なー」
「おう、おつかれさん」
そうやって教室を出ようとした瞬間。
教室、いや、おそらく世界が、光と振動に包まれた。
「なんだこれ!?地震か!?」
「落ち着け優奈!とりあえず机の下に逃げ込むぞ!」
急いで優奈を抱いて机の下に駆け込む。
「なんかだんだん強くなってねぇか!?」
「くっ!デカイな…優奈、大丈夫か?」
そう言って腕の中を見ると、
「怖いよ…司…」
歳相応?に震えている少女がそこにいた。静かにしてりゃあこいつも可愛いもんなんだけどな、なんて事を考えていると、更に揺れが激しくなってきた。そして―
「…おさまったか。おい優奈大丈―」
この腕に抱いていたはずの富田優奈は、まるで神隠しにでもあったかのように、忽然と消えていた。
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