サリー
僕はまず、この世界について勉強してみることにした。幸い、家には書籍がいくつか置いてあったので読んでみる。
そのためにまず、文字を習おうと思っていたのだが、なぜか僕はその文字を既に理解していた。考えてみれば言語も何故か理解できている。もしかしたら、僕が体を借りているこのコートという人物が既に会得していたからなのかもしれない。
しかし隣で一緒に本を読んでいる姉であるサリアことサリーはチンプンカンプンといった様子だ。その代わり外で遊びたいと催促をしてくる。…訂正、コートが特別頭がよかったのかもしれない。
コートに心の中で感謝しながら本を読み進めていく。今読んでいる本は魔術書である。前にいた世界とこの世界の因果関係は分からないが、この世界でも魔術は存在するらしい。
魔術は術式で組み立てられ発動する。また、稀有ではあるが精霊の力を借りて行使する魔法が存在することが分かった。魔法は精霊固有となるため本には例として載ってるものは少なく、魔術は多く例が載っていた。
ここから、前の世界で行使した技が見つかればと思ったが、見つかることはなかった。この世界が全く違う世界なのか、他の魔術書には載っているのか、魔法であったのかは分からない。
精霊について書かれている本も見つけることができた。精霊は自然から生まれる汎用精霊や種族によっては死んだ後、精霊になるものもいるらしい。それは未練を残していれば残しているほど精霊になる確率は上がるとのこと。
まるで地縛霊だな…そう思いながら次に随分埃の被った本を手に取った。
「なんだこれ…」
タイトルはなく、本を開くと至るところ文字が塗りつぶされておりとても読めたものではないが、一部興味深い記述を見つけた。
『勇●の●●●の●を使用することによりなんでも願いが叶うとされている』
勇●は勇者だろうか?その後は読めないがなんでも願いが叶うという文字に心が揺れた。もしかしたら、僕がいた世界、地球に帰る方法となるかもしれないからだ。
他にも読み取れる文字はないかと探そうとしたところでサリーが大声を上げた。
「もう待てない!」
そう言うやいなやサリーは僕の体を外に引っ張っていったのだった。
仕方ない後で見るか…
ーーー
外に出るとヨーロッパ郊外のような自然が目の前に広がっている。
僕の住む家は小さな村にあり、ちらほら家が点在している。
小さい村であるが故にご近所付き合いはとても大切だと母のアリサさんは言っていた。
中には同い年くらいの男の子もいるらしい。女の子の幼馴染には憧れがあったので少し残念だ…。
「コー!今日はこれをするわよ!!」
そういって見せてきたのはボールだった。
「これ…?」
いきなりこれと言われてもよくわからないが
「ちょっと見てなさい!」
そう言いサリーはボールを上に投げると魔術を上に向かって行使した。
「ウインド!」
ボールが風に乗って僕の元へ飛んできた。なるほどそういう遊びか。
ちょうどいい僕もさっき魔術書で勉強したことを試すいい機会だ。大事なことは、心を落ち着かせ明確にイメージを描くことだと書いてあった。
僕はその通りに魔術を行使する。
「ウインド!」
僕の魔術では小さな風しかでず、ボールの勢いは止まらず頭に直撃した。
「痛…」
「コー!大丈夫!?前は上手だったのに記憶喪失の影響がこんなところにも…」
なんとも情けない結果になってしまったので僕はリベンジを申し出た。
「そう来なくちゃ!こうびゅーん!って感じでやるのよ!」
サリー先生の教えはよくわからず、日が沈むまで魔術の練習をしたが、結局、情けない結果に終わってしまうのだった。
前の世界では最強だったはずなのにやっぱり別の世界なんだろうか…
「ねえねえお母さん!コーってば魔術めっちゃへたっぴになったの!ぷぷぷ、風の魔法がなんと息を吐いたくらいの威力でね!?」
夕飯の時間になると早速その話題になり、サリーはこれでもかと馬鹿にしてきた。記憶喪失前の僕にはよく負けていたのか、お姉ちゃんぶれるのがなんだか嬉しいらしい。
精神年齢大学生の僕がメスガキごときに怒るわけはない。怒るわけはないが、ただ話に夢中で美味しいご飯が冷めてしまいそうだったのでこっそり食べてあげた。
「それでね!…ってなんかわたしのご飯減っててない!?コーでしょ!許さない!へたっぴのくせに!」
そう言いサリーは僕に殴りかかってきた。どうせ子供の力なんてって思っていたが、メスガキの力はとても強く僕はボコボコにされたのだった。