滅びの時
感覚で半刻ほど歩くと村が見えてきた。
こっそり村の中を窺うとどうやら魔物がうろついてるらしい。この調子だと人はいないだろうな‥ そう思い見つからないように離れようとしたが、それを目敏く見つけた一匹の魔物が咆哮をあげていた。
次々に家の中からおぞましい魔物達が現れ僕を取り囲む。あまりの恐怖に足がすくんでしまったが、どうやら魔物達も警戒してるらしくすぐさま襲いかかることはなかった。
そんな中、一匹の小さな魔物が前に出てきた。
「ゴオギィチャァァァ」
奇声を上げながら突進してくる。
僕はすかさず腐敗の魔術を行使し倒した。
それを合図に他の魔物達も奇声を上げ襲いかかろうとしていたが、僕は反射的に"知らない"呪文を唱えていた。
「アブソーブ」
放たれた呪文は周囲を光で包み、気が付けば魔物達は跡形もなく消失させた。
魔物に囲まれた恐怖と意図しない自分の行動への不信感から僕はしばらく放心していた。
「なんなんだよ‥もうわけわかんないよ‥」
ーー
少女が泣いている。
顔はぼんやりとしか分からないけど、僕はこの少女を知っている。名前も思い出せないけど、僕はこの少女を知ってる
泣かないでと言ってみるけど少女は泣いている。涙を拭おうと手を伸ばしてみると
触れたところから少女だったものが崩れてしまった。
「っっ!!?」
気が付けば民家のベッドの上で眠っていた。
大量の汗でシーツがベトベトになっている。
‥嫌な夢を見た気がする。
あれから1年ほど過ぎた。街を探しては魔物を殺し街を探しては魔物を殺し‥
魔物を殺すには慣れて来たがいつあいつらが襲ってくるか分からない緊張感の中過ごせるほど、僕の心は強くなかった。いや耐えられる人間がいるのだろうか?
この1年間は僕の心を折るには十分な時間だった
ー人間は絶滅したー
信じられない自分がいた。信じたくない自分がいた。
人がいないということがこんなにも辛いものだなんて思わなかった。
魔物を殺したところで誰にも感謝されることもない。強い魔物を殺したところで達成感なんて何もない。
あるのは痛みへの恐怖と死にたくないという願望だけだった。
仮に魔物を全部殺したところで得られる未来なんて何もない。その先には絶望しかなかった。
「ようやく準備が整ったようだね」
久しぶりに嫌な声を聞いてしまった。それは僕をこんな状況に置いた全ての元凶の声だった。
「なんの用だ?」
それはこの1年間の恨みつらみから出た声だった。
「そう邪険にしないでよ‥。なんと魔物を一定数殺したことによって極大魔術が発動できるようになったんだよ!
それも魔物をこの世界から消しされるほどの威力さ!」
開いた口が塞がらなかった。
何だその魔術は。核兵器か何かか?
魔物を滅ぼしたところで得られる未来なんて何もないが、いつ襲われるかもしれない恐怖から解放されるならもうなんでもないか‥。
そんな思いから全ての元凶がその極大魔術の名を言う前に僕はそれを声に出していた。
「ーーダークストライク」
それは空から大量に降ってきた。
それは全てを飲み込むブラックホールだった。
それは魔物も街も自然も飲み込んでいった。
それは全てを奪い去っていった。