冒険が始まる
脅威が去ったことでひとまず、現状の整理を行うことにした。
自称神様が言うには、どうやらここは異世界らしい。さきほど戦った生き物は"ルサーラ"という魔物らしく、いやでもこの世界が異世界ということを分らされてしまった。
しかし、何故異世界なんかに来てしまったのか、僕は自分の部屋にいたはずだ。
そんなことを思ってると神様から申し訳なさそうに答えが返ってきた。なんでも人間が魔物に滅ぼされてしまったらしく魔物からこの世界を救って欲しいから転移させたんだとか。
辺りの風景はこんなにも美しいのにまさかそんな絶望的な世界とは思わなかった。
それにしても、僕にそんな勇者みたいな力があるとは思えない。しかし、意外な答えが神様から返ってくる。この世界では魔術をマナといったものを介して行使するがそのマナに僕は愛されているらしい。
先程初めて使った気がしないと感じたのはこれが理由だったんだろうか。
兎にも角にも僕は最強の魔術師になれるみたいだ。創作で書かれる異世界転移ものの主人公なら胸がワクワク踊る展開なのだろう。実際、先程の出来事がなければそんな風に思ったかもしれない。
しかし、今の僕は"痛み"という恐怖を知ってしまっている。あの痛みを思い出しただけで震えが止まらない。早く元の世界に返して欲しい。そう神様に訴えると、
「本当に申し訳ないんだけどそれは不可能なんだ。」
「はぁ!?なんで!??」
心の中で会話が出来るのにも関わらず、動揺のあまり思わず声を上げてしまった。
「それはーーー」
僕は夢遊病にでもかかったかのようにフラフラとした足取りで歩いていた。先程、神様が放った言葉が耳から離れない。
「ーこの世界と君がいた世界は一方通行でしか繋がっていないからさ」
こんな理不尽があるだろうか。勝手に呼び付けておいて帰る手段がないなんて。あまりの怒りに罵倒する気すら失せてしまった。一発殴ってやるにしても実体のないものは殴れない。ストレスが身体に蓄積されていくのを感じる。
しかし、あの神様はポンコツだし実は帰れる方法があるのかもしれない。そもそも一方通行って話だって僕を返さないための嘘かもしれない。なんなら自殺とかしたら悪い夢から覚めてひょっこり戻れるかもしれない。
神様が何か喋っているが、耳も傾けたくない。完全に無視を決め込むことにした。
そうやって現実逃避していると、遠くの方から子供が元気にこちらへ走ってくるのが見える。
なんだ、ポンコツ神様め、人間が絶滅したというのは嘘だったじゃないか。それなら元の世界に帰る方法もあるのかもしれなー
「ーッッ」
突然、急激な頭痛に襲われた。ストレスの溜め込みすぎだろうか。しかし、そのおかげでぼんやりとしていた意識が晴れていく。先程、子供だと思っていたのは魔物であった。慌てて先程の魔術を行使する。
「グランドロート」
先程と同様に魔物が腐り落ちていく。
本当に人間は絶滅してしまったのだろうか。本当に帰る方法がなかった場合、僕はこの先ずっと1人で生きていくことになるかもしれない。そんな孤独に耐えられるのだろうか。耐えられる人間がいるのだろうか。否ーー
そこで僕は、ある決心をした。
ーーそうだ人を探す旅に出よう。
こうして、僕は人がいそうな街を探すことにした。人が見つかれば、世界と世界が一方通行とは限らないということも証明できるかもしれない、そんな希望を抱いて。
(そういえば転移してきたなら、元いた世界と服装が違うのはなんでなんだろう?)