異世界へ
気が付けば僕は大きな一本の木の下に立っていた。あたり一面は黄金色の草原であり、日本とは到底思えない光景が広がっている。どうやら僕は夢を見ているらしい。そう結論付け、自分の首に違和感を感じ視線を向けるとそこには見たことのない首飾りがあった。不思議に思い首飾りに触れると元気の良い女の子の声が聞こえてくる。
「やぁやぁ!柊甲君!」
?誰だろう?そう思い声に出そうとする前に質問の答えは返ってきた。
「えへへ〜。私が誰かって?私は神様だよ!」
どうやら心の声で会話ができるらしい。なんとも都合の良い夢である。にしてもこんなハイテンションで頭がおかしそうな神様が出てくる夢を見るなんて相当ラブレターの件がこたえたらしい。
「頭がおかしそうなって‥酷いなぁ‥。それにこれは夢じゃありませ〜ん!」
夢は潜在意識によって見るというが僕はこんな神を心の中に飼っていたのだろうか。鬱になりそうだ。
自称神様の怒った声をbgmにふとあたりを見渡すと紫檀色の変な生き物がそこにはいた。あれはサイ?なんだろうか?不思議に思いその生き物に近付こうとすると神様の張りあげた声が聞こえてきた。
「甲君!逃げて!!」
女の子に名前で呼ばれるなんてことが人生で何度あっただろうか。夢とは分かっていても嬉しくなってしまう。
神様が呼んだ名前の後の言葉の意味を理解した時には既に遅くその生き物の体当たりによって僕の身体は数十メートル先の草むらまで吹き飛ばされていた。
吹き飛ばれてから数秒後、僕は自分の身体に起きたことを理解した。
痛い痛いいたいいたいいたいいたいいタイイタイイタイ‼︎‼︎なんだこれなんなんだこれ一体何が起こったんだ!?
夥しい量の血が流れ、あまりの激痛に混乱しているところで神様の切羽詰まったかのような声が聞こえてきた。
「だから夢じゃないって言ったでしょ!急いで回復の魔術を使って!」
夢じゃない!?魔術!?ああ確かにこの今までに感じたことのない激痛は夢ではなさそうだ。しかし、魔術とかそんなファンタジーみたいなことをいきなり言われても意味が分からない。本当に神様だと言うならなんでもいいから今すぐこの痛みをなんとかしてくれ。
「ごめんね、治してあげたいけどそう言った能力はないよ‥ だけど君なら使えるはずだよ!意識を自分の身体に集中し"ハイヒール"と唱えてごらん」
もしかしてポンコツな神様なのか‥?この痛みをなんとか出来るならもうなんでもいい。そんな無我夢中な思いで言われた通りにしてみる。
「"ハイヒール"」
その言葉を発した途端身体が光り始める。なんだろうこの感覚‥懐かしい感じがする‥。そんな感覚に包まれていると気が付けば僕の身体は完治していた。
「ね!?ね!?言った通りだったでしょ?ふふん!」
顔も知らないポンコツ神様のドヤ顔が頭に浮かび、イライラする。しかし、今は突進して来そうなあの生き物をなんとかするのが優先だ。倒すにはどうしたらいいんだ?
「私、神様なのに扱いが酷い‥ まあいいけどさぁ。そうだなぁ、あいつに意識を集中して "グランドロート"って唱えてごらん!」
早速言われた通りにしてみる。
「"グランドロート"」
不思議だ。初めて、魔術を使ったはずなのに初めて使った気がしない。まるで、慣れ親しんだルーチンワークのように感じる。魔術を放つこと数秒後、サイのような生き物は腐り落ちていったのだった。
このお話が夢の話なのかどうかはさておき、よく痛みによって夢か現実かどうか判断する描写がありますけど、本当にそれが判断材料になるんでしょうか。