セス
「お前は誰だ…?」
声がする方向を向くと、この世界の"僕"が立っている。
「君は誰…?」
そう返すが返事はない。
その代わりどんどん近付いてくる。
とうとう目の前で来るとその腕を心臓に突き刺してきた。
「なんで…?」
崩れ落ち薄れゆく意識の中、"僕"の笑ってる顔が見えた。
ーーーー
「…!?」
目を覚ますと"この世界での"いつもの天井が広がっていた。隣では、サリアことサリーが寝ている。寝る場所は別々にあるが、寝る時いつもサリーは潜り込んで来ている。
正直姉というより歳の離れた子供に感じているためなんとも言えない気持ちになるが、悪い夢を見た後だとありがたく感じる自分がいた。
あいつは、なんだったんだろう…。いや、大方予想はついている。僕は子供の意識を乗っ取ってしまったのだ。この身体の持ち主である彼の意識なのだろう。
意識を乗っ取られ、怒るのは当然だと思うがそれにしては最悪な夢だった。今まで触れずにおいたが彼のことについて興味も湧いてきた。サリーが起きたら聞いてみるとしよう。
ーーー
「記憶喪失前のコーのこと?無口だけどなんでも出来たよ!魔術も剣も!」
完璧超人か…
「なんか変なことしたりはしてなかった?」
「変なことー?んー… あ!時々小さい虫捕まえていたぶって遊んでたなぁ 普段あまり感情を出さないのにその時だけ興奮しててちょっとね…」
えぇ…サイコパスじゃん…
完璧超人にも欠点はあるものだなぁ
夢の中でもやばいやつだったけど、まさか人殺しも…?
他の人にも聴いてみるか?確か近所に同い年くらいの子がいたっけ
アリアさんにその子について聞き、早速家に行ってみることにした。名前はセスというらしい。
ちなみに僕が記憶喪失ということは村中に知れ渡っている。いちいち説明しなくてすむのはいいけど、悲しきかな小さなコミュニティ
家の前に着き、セス君を呼ぶと銀髪の利発そうな子供が出てきた。
「コート君…?どうしたの急に?」
「良かったら森を散策ついでに案内してもらおうと思って、話したいこともあるし」
「うーん…僕だけじゃ森は危険だしなぁ」
「コート君が誘ってくれるなんて初めてだろ?案内してやったらどうだ。ひっく」
セス君が嫌そうにしているとセス君の父親と思しき酔っぱらいオヤジが助け船を出してくれた。
「まあそういうことなら…」
「セス君ありがとう!!」
「夕方までには帰って来いよ!」
早速案内してもらうことになり、森に入り口に着いたところで、セス君から話しかけてきた。
「お父さん昼間から酒飲まないでって言ってるんだけど、なんかごめんね?昔はあんな酒飲まなかったんだけど…」
「お父さんも言ってたけどセス君が僕を誘うなんて初めてでびっくりしたよ、いつもは僕から誘うのに…記憶喪失の話本当なんだね。無口だったのが嘘みたいだしまるで別人だ」
本当は別人とは言えないよなぁ…そんな風に思いながらセス君から昔の自分について聞きながら森の中を進んでいく。
セス君も昔の自分のサイコパスな部分を目撃しており正直、付き合いはそこまでよくなかったようだ。話が弾んでいると目の前に湖が見えてきた。
「おぉ…!」
写真でしか見たことのない綺麗な光景に目を奪われているとセス君が説明してくれる
「どうだい?綺麗だろ?アセアナ湖っていってこの地方でも結構有名な場所なんだ。案内できるのはここまでだよ。この先は大人でも危険な場所だからね」
大体聴きたいことは聴けたし、今日はここでのんびりしてから帰ろう。そういう話になり景色を見ながらお弁当を食べた後、一緒に寝転んでいた。
魔術がうまく使えないことを話し、セス君なりにアドバイスもしてくれていた。話が止まると僕達は段々と眠くなっていった。そうして、日はまだ高いし少しくらい大丈夫だろうと2人揃って寝てしまうのだった。




