1話 自動周回と冒険の始まり
なんやかんやあって、俺はダンジョンの中にいた。
ここは、どこかの森の中だ。
周囲は葉が生い茂った大木に囲まれていて、見通しは悪い。
足元には木漏れ日が差し込んでいる。
なんやかんやとはひどく雑な説明だが、実際、ここまで色々とあったのだ。
とりあえず言えるのは、ここが異世界とかではなく、紛れもなく現実と地続きの場所であるということ。
ただし、別の世界ほどにも広いダンジョン、なのだが……。
「さて、肝心の俺の能力は……」
俺は事前にレクチャーされていた通り、ステータス画面を開いた。
自分のステータスを確認する。
そこには、このように記載されていた。
Lv:1
職業:なし
HP: 50
MP: 0
STR:5
DEX:5
AGI:5
INT:5
LUC:1
保有SP:0
アビリティ:【自動周回】
スキル:なし
「【自動周回】……?」
記憶をたどるが、聞いたことがない。
その直後、奇妙な音が脳裏に響いた。
ぴろりん。
目の前でウィンドウがポップアップする。
:【ヒール】を習得しました
「………………なんで?」
俺は呆然と呟いた。
なにが起きているのか、わからない。
まだスライム一匹すら倒していないというのに。
いや、そもそも俺の力で倒せるのかどうかもわからないけど。
だが理解不能な事態はさらに続く。
:【薬草(Ⅰ)】を入手しました
:【薬草(Ⅰ)】を入手しました
:【5EXP】を入手しました
:【1SP】を入手しました
:【マジックポーション(Ⅰ)】を入手しました
:【メイルブレイカー】を入手しました
:【薬草(Ⅰ)】を入手しました
:【100G】を入手しました
ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん……
「おいおいおい……」
今、俺がわかることはたったひとつだけ。
なにか――大変なことになっている。
◆ ◆ ◆
なにもしていないのに、レベルが3上がった。
森を抜けて最初の村に辿り着くまで、一切の敵にもアイテムにも遭遇していないにもかかわらず、だ。
Lv:4
職業:なし
HP: 50
MP: 0
STR:5
DEX:5
AGI:5
INT:5
LUC:1
保有SP:37
アビリティ:【自動周回】
スキル:ヒール、ファイア
装備:メイルブレイカー
いつのまにか、色々と獲得している。
ちなみにステータスが上がっていないのは、SPから自分で振り分ける作業が必要だからだ。
「困った……いや、別に困ってはいないが」
唯一問題があるといえば、このやたらと鳴り響くぴろりん音がうるさいことだった。
だがよくステータス画面を見たら、メッセージ音のON/OFF機能が備わっていた。至れり尽くせりだ。ちなみになにが起きているか把握するため、あえて音は消さないでおくことにした。
俺はようやく、小さな村の入口に立った。
畑や民家の近くに、まばらだが人影が見える。
とにかく、ダンジョン攻略のために情報を集めなければ。
ぴろりん。
「またか……」
ここまでの間で、もうすっかり慣れていた。
喉が渇いていたので、飲み物でも獲得していないかという期待を込めて、メッセージウィンドウに目を向けた。
:【エクスカリバー】を入手しました
「なんでだよ!?」
誰もいないのに思わず突っ込んでしまった。ちょっとだけ恥ずかしい。
いや、そんなことよりも。
「え、嘘だろ?」
もう一度メッセージを確認し、ステータス画面を開いてアイテム欄を見る。
確かにそこには【エクスカリバー】なるものが存在した。
「ど、どっから手に入れてきたんだよ、これ……」
おそるおそる、俺は【エクスカリバー】を装備してみる。
圧倒的な神々しさを備えた剣を、両手で構える。
ずしりと重い。だが意外にも持てないほどではない。
ただ単純な重さとはちがう、剣から発せられる寒気にも威圧感が、俺の身体を震わせた。
やばい。怖い。
盗品だったらどうしよう。
返せば許してくれるだろうか?
「あのぅ……」
だれかの声がした。
顔を上げると、そこには村人らしき若い娘がいて、俺を不思議そうに見つめていた。
「もしかして……勇者様でしょうか!」
娘の目には、大きな期待の色があった。
だから俺は、はっきりと、自信を持って答えた。
「いいえ、ちがいます」