状況開始5
ボクらの探索はまだ続いていた。
この広さ。建物って事はもうあるまい。現実のどこかだって言うなら、おそらくは地下だろう。
時間の感覚は薄いけど、かなりの時間歩いたので、フォーメーションも固まった。
そうは言っても、普段とほとんど変わらない。ボクが前で、ティアが後ろ。慎重に一歩ずつ前へ。これは、ティアが前を歩いた場合、何かあった時対応できないってのが理由だ。ティアの方が、圧倒的に魔法が上手だからね。ティアが無事だった方が、どうにかできる可能性が高い。
……まあ、これも事実でありつつも建前。内心としては、ティアを危険に晒したくないって気持ちが大きい。
違う部分と言えば……。ティアが、常にマナを探っているってところだ。
魔法的な罠が無いか。それから、結界の境目はどの辺りか。そこに一番近い方向はどっちなのか……。それを、ずっと探り続けてくれているらしい。今こうして迷わず歩いていられるのも、ティアのおかげだ。
ボクにはさっぱりわからない。悔しいけど任せるしかない。
これって、かなりすごい事なんじゃないだろうか。もしかしたら、マナを感じ取ることで、罠を避けたりとかもしているのかもしれない。自分のや、手元で使う魔法のマナですら、感じ取るのは難しいのに……。
「は……ふぅ……」
「ティア、大丈夫?」
「? だいじょうぶですよ」
「…………」
こうなってくると、心配なのはティアの体力だ。
どんなに魔法が上手でも、全く疲れないなんて事は無い。ちょっとやそっとならともかく、今のティアは多分、ずっと魔法を使い続けているような状態……。プロのマラソンランナーだって、走り続ければ限界は来る。
自分がもっと魔法を上手く使えるようになっていれば、今だって何かできたかもしれないのに……。
上達出来なかった事が、ここへ来て大きく響いている。
……うん、決めた。
「ティア、一度休憩にしよう」
「え、でも……」
「ボク疲れちゃったよー」
隠しているけど、疲れているのはわかる。こうやって言えば、ティアもボクの為ならと休んでくれるはずだ。
「わかりました。でももう少し頑張ってください」
「えっ」
「あと少しですから」
あっ……これはあれだ。お姉さんモード入ってるやつだ!
うぐ、誘導失敗。
「で、でも、休憩は必要だよ。ほら、多分ここって」
「ジュンさん」
「……はい」
「ここを曲がった先です」
「え?」
そういえば、あと少しって何が……。
疑問を抱きながら、言われた角を曲がった先にあったのは……“壁”だった。でも、ここまでに嫌と言うほど見てきた石の壁じゃない。それはこの世の物質ではなく、魔法で出来たものだった。
「ここが境目のひとつみたいです。想像していたとおりでよかった」
「はー……」
ボクはここまでの疲れも忘れて、思わず見入ってしまう。この世界で魔法はいくつか見たけど、それは風とか水とか、自然に存在する元素的なものばかりだった。こういう自然事象じゃない魔法は、やっぱり別物と言うか、改めて感動してしまう。
でもそっか。ティアにはこの壁の位置が大体わかってたんだもんね。
それなら、もう少し頑張ってとなるのも頷ける。切りもいいし、ここからどうするかって作戦も練れるし……。
「じゃあ、今度こそ休憩にしようか」
「はい。じゃあ少しだけですよ」
うーんやっぱりお姉さんモード。でもかわいいから良し。
ボク達は、手近な壁にもたれかかって腰を下ろした。