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この世界のはじまりの村は2

 たわわに実った二つの果実……。

 この表現がとある別の物を指すと、これほどまでに広まったのは、一体いつの頃からなのだろう。そして、最初にそう表現した偉人は、どこの誰なのだろう……。

 はい。いくらボクであっても、何の脈絡も無くこんなことを考えたりはしません。ボクは別に、頭がおかしいわけでは無いからね。

 じゃあ、何でこんなことを考えているかと言えば…。はぁい、すぐ近くにあるんですね。神秘の果実が……!

 心からリラックスできる、木のいい香り。温かで湿度の高い空気。それに直接素肌が触れ、全身が包み込まれている。

 ほー……。

 ボクが前世界で住んでたボロいアパートみたいに、湯船の外が激寒だったりしません。快適です。だからかなー。ちょっとボーっとしてしまいまー。

 皆さん。ボクは今、お風呂に入っています。もちろんー? ティアとお姉さんも一緒です。やったぜ。

 事の起こりはほんの十分ほど前。一つの大きな建物に着くや否や、お姉さんは言いました。

『私すっごく汗かいてるから、とりあえずお風呂ね!』

 そこからはあれよあれよという間に、3人でお風呂場に直行です。

 え、断らなかったのかって? ははは、ご冗談を。

 今は、ティアがお姉さんに頭を洗ってもらってる。ボクは適当なところでイスに座って、ただぼやっとそちらを見ていた。

 ティアは、最初こそ戸惑っていたけど、とりあえずお姉さんにはある程度慣れたらしい。言われた通りにキュッと目を瞑って、されるがままになっている。どうも、お風呂自体が初めてらしい。

 確かに、エルフとかって神秘の泉で水浴びとか、魔法で清潔さを維持とか、そんなイメージがある。ここもそうだったのかも知れない。ということは、文明が新しくできたんだなあ。

 うん、お風呂は良い文化だと思うよ。良い進展だ。

「よし、いいよー。湯船であったまっておいで」

「はいー……」

 あ、どうやら終わったらしい。二人のやり取りがあまりに尊みに溢れてて、つい優しい眼差しで見続けてしまったけど、いい加減ボクも洗うかー――

「もー君も自分でできないの? ほら、ジッとしてね」

「――!?」

 なん、だと……?

 お姉さんが、ボクなりの節度を持って空けていた距離を一気に詰めてきた。

 そ、そうか。これだけ時間があったのに、ティアが洗ってもらっている間何もしてなかったもんだから、困って待っていたと思われちゃったのか!

「いくよー。目ーつむってるんだよー」

 というかえええええ!? 前から!? 前からですか!!?

 あ、ああっあっあーーー!? いけません! いけませんお姉さま!

 そんな正面からボクの頭を洗ってくれたりなんかしたらボクの目の前には腕が動くたび果実の揺らめきがアアーーーーッ!


 ボクは今……男である限り絶対にできない経験をしています……。

 いやこれくらい、男でもやって貰えるだろって思った方……違うんです……。ボクの話を、聞いてください……。

 目の前のお姉さんを見てください。なんの躊躇いも、恥じらいもありません。そんな無防備な姿…だからこそ、グッとくるものがありませんか?

 え? それでも親密な関係になれば? もしくは、慣れている女の人なら? そういう姿くらい見る機会がある?

 ……違うんですよ。

 それは前者なら、確かな愛情を持って、意識の上で良しとされているんです。性質の違うものであり、実際に態度も異なるでしょう。後者なら、もうその程度で気にすることがない人ってだけなんです。

 でも、このお姉さんは違います。

 きっと男性が覗こうものなら、悲鳴を上げ、頬を染めて怒ることでしょう。羞恥で身体を包み隠し、キッと睨んでくれることでしょう。

 そんな、普通のお姉さんの……無防備な姿なんです。

 まだ反論があるんですか? それだって反則技で、覗いちゃったりすれば見れる?

 ふふ……今度は肝心なことを忘れてますよ。

 彼女のそんな姿は、ボ・クに向けられているんです。同姓にしか見せない無防備さが、他でもない自分に……っ!


 そそそそそんなことをして貰ってしまった日には、もう目ん玉見開いて凝視せざるを得な――っ!!?

「いったあああああい!?」

「わあっ!? こらぁ目つむっててって言ったじゃなーい。もー……」

 し、しくじった。頭を洗っていることなんて、いつの間にか頭から飛んでたよ。

「ほら、石鹸流してー。おめめパチパチってできるー?」

「できるー……」

 さすがに余裕もなく、一心不乱ににお湯で目を洗う。

 いやーこんなのいつぶりだろうか。久しぶりに味わうと心底びっくりしちゃうな。

 うわあ、洗っても目が痛痒い。

「あ、こらかいちゃ駄目だよ!」

「で、でも」

「でもじゃないの! 目が変だったらもう一回洗って。そんなことしたら、おめめ見えなくなっちゃうんだからね」

 そんなまた大げさな。痒いものは痒いわけで、眼球とかだけ気をつければ……。

「もー……そんなことする子はこうだよ」

「えっ」

 ボクは両手を掴まれ、後ろで固められてしまった。

 う、動けないっ。手もそうだけど、掴まれてるから逃げることもできない!

「大人しくするのー。もうちょっと我慢すれば、きっと治まるから……。それまでお湯に浸かってよう? 私もそろそろ入りたいし」

「え、あ……」

 そしてそのまま、まるで連行されるかのように湯船へ向かい……。

 ボクの身体は、お姉さんの足の間に納まった。

 背中には当然、あの柔らかい感触。お姉さんが動くたび、当たったり、離れたりを繰り返している。

 な、なんということでしょう。

 身動きは取れず、しかし全身を包む温かさと身体に触れる気持ちのいい感触で、全くそれが嫌じゃない。

 あれ……。もしかしてこれは、ボクの大好きな、触手様に近いものがあるのでは……。天国……かな。

 ボクは、全身を心地よさに委ね……。それが終わりを告げるまで、そっと目を閉じていた。


 ちなみになんだけど、ボクらがお風呂から上がった時、ティアが少しむくれていた。

 な、なんでだろう。途中から、ほったらかしにしちゃったからかな……?

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