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海に来ました!5

 獲物は待ってなどくれなかった。

 水面に顔を上げてからというもの、狙いが正確になって、すべての攻撃がこちらへと飛んでくる。

「な、なんだかっひゃあ!? 掴もうとしているような……っ」

「っ……そうかもしれない!」

 さっきまでとは違い、脚は上からではなく、真っ直ぐ向かってくるようになっていた。近くまで来たところで、器用にぐにゃぐにゃと曲がっている。

「触手さんが……」

「ボク達を捕まえようと……」

 ……。

「おおおおい!? 何ぼーっとしてんだ!!」

「「はっ!?」」

「しっかりしろよ譲ちゃん達!」

 慌てて、ティアが再び一回二回と脚を弾き飛ばす。

 危ない。つい二人して、吸い寄せられるように近づいてしまった。触手に捕まえて貰えそうだと思ったら思わず……。

 でもこいつは触手じゃない。蛸だ。おそらく捕まれば、丸呑みされる前に噛み砕かれてしまうだろう。

 確か結構えげつない歯が付いてるんだよ蛸って……痛いのは嫌!!

「ティア気をつけて! ボクの知ってるやつと同じなら、捕まったら食べられちゃうよ!」

「ええっ!?」

 ティアの魔法の威力が若干上がる。ちゃんと伝わったみたいだ。

 自分も、ティアと一緒に迎撃に当たる。せめて自分に向かってくる脚くらいはね。真っ直ぐ自分めがけて来るようになったから、対処できる。

「落ち着いていこう!」

「はい!」

 自分に言い聞かせる意味も含めて、ティアに声をかける。

「ミスったら痛いじゃ済まないからね!」

「っ!!」

 続けて鼓舞をした……つもりだった。

 なぜか、ティアの動きが止まった。

「え?」

「きゃああああああ!?」

「ティアー!?」

 その隙を、巨大デプルフッシュは見逃してはくれなかった。ティアは近づく脚を対処できず、あっという間に捕まり締め上げられてしまった!

「痛っ……たぁぁぁぁあ!?」

「ティア! なんで!?」

 拳を握り締めたような状態なんだろうか。とっさに魔法をぶつけてみても、脚はビクともしない。

「だって……だってジュンさんが、痛いじゃすまないなんて言うから……ああああ!?」

「ええ!?」

 それでもめげずに、魔法をぶつけ続ける。このまま口へ運ばれるのだけは阻止しないといけない。意味がない訳でも無いのか、気は引けているようだった。

 にしてもどういう事!?

 痛いじゃ済まないならなんだって…………ぁ。

「いた……い。吸われ……やぁ……」

 理解した。むしろ遅すぎた。

「いたいっ……あっ……やあああん!!?」

 痛いじゃ済まない=ボクにとっての気持ちいいじゃ済まない何かみたいに受け取ったねティア!?!? なんか気持ち良さそうなのがその証拠!

 この状況でその思考……さすが同士!!

 触手に二人で出会える日が楽しみになってきましたね……。ちょっと嗜好に差が生じて来ている気がするけど。全てを兼ね備えた理想の都合良い触手探さなくちゃ。

「おおいそっちは平気か!?」

 船の操縦に戻っていたおじさんから、声が掛かった。

「ティアが捕まりました!!」

「なにぃ!!? 大人でも悲鳴上げて発狂するような力のはずだぞ!!」

 確かに、ティア悲鳴…? は上げてるけど、気が狂うようなって感じでは無いしね。ボリュームも控えめだし、水の音で聞こえないかもね。でも大丈夫。とりあえず今は、ティア幸せなはずだから。

 食べられる前には助けないといけないけどね!

「くっ! 譲ちゃん何かに捕まりなあ!!」

「えっはいっっうお!?」

 言うが早いが、船が急減速した。

 身体が持っていかれる。魔法なんだろうけど、船でこの減速ってどういう仕組みなんだ!

 そしてそうなると、綱で引っ張っている格好だったデプルフッシュはどうなるか。

 続いて船に衝撃が襲い掛かる。デプルフッシュが衝突したのだ。

 それで気絶でもしてくれれば話は楽だった……のに、ティアを放してすらいない。それどころか、かえって怒った様子で――!

「っ!! ティアーーー!!」

「え? あっ……」

 自分に出せる最高火力を…。そう思っているのに、それどころかふらりと意識が遠のく。魔法を使いすぎた? そんな……。

 油断が過ぎたのか? こんなところで――

「はいっ!!」

 諦めかけたその時、水と風が縦に走った。

「……え?」

 その元気な返事は、ボクの呼びかけに対するティアのもの。そしてもちろん、目に入った魔法も……。

「ひゃんっ」

 ティアが船上に落ちてくる。着地に失敗して、かわいい悲鳴を上げていた。いや、声と言い替えた方がいいかもしれない。

 悲鳴を上げているのは、デプルフッシュの方だ。

 ずばり、脚の一本が一刀両断されていた。

「わ、わたし何を……恥ずかしいです」

 おそらくこの恥ずかしいは、さっき快感を感じてしまっていた事についてだろう。ここにはおじさんも居るからね。聞こえてはいなかったっぽいけど。

 でも、今ボクが気になっているのは魔法の方だ。

 ティア……やろうと思えば、こんなに攻撃性の高い魔法も使えたんだね。

 上から風の刃。下から水の刃が現れて、上下からばっさり行ったように見えた。どちらかならよく見るけど、こういう復属性でってのはあまり見た事が無い。珍しいもん見た。

 ……いや、でも理屈的には簡単かな。シンプルに風と水だし、規模もそこそこだし……。ボクには出来ないけど。水を操るだけでも無理なのに、その上薄っぺらくして、さらに風も同時になんて、複雑すぎる。

「おーいジュンちゃん! ティアちゃんは無事かあ!?」

「あ、はーーい!」

「ようし! 見たかこの俺の操縦テクをよぉ!!」

 おじさんは、再び操縦に集中していて見ていなかったようだ。いつの間にか、船も速度が戻っている。進めていないとデプルフッシュに船が振り回されそうだし、多分その防止なんだと思う。

 まあもっとも……。

 ここまで暴れていた疲れもあるのかな。脚を一本弾き飛ばされたデプルフッシュは、ショックで気絶したのか目を回していた。かわいそうだけど、このまま町まで大人しくしててくれるといいな。

「……ああっ!?」

「何ティア!?」

「そ、そういえばわたし、脚を一本切ってしまいました。おじさんが収穫する獲物なのに……」

「あ、あー……うん」

「ど、どうしましょうジュンさ……いえ、自分で謝ってきます」

「えっ。う、うん……」

「おじさ~ん」

 パタパタと、器用に船の上を走って、ティアは行ってしまった。

 今のは、ボクに頼らず、自分で頑張らなきゃ……とか思ったのかな。いじらしくてかわいいね。

 でも、むしろそういうところで頼ってくれないと、ボクの方が立つ瀬が無かったり……。と言うか、そんな気遣いしながら戦ってたのか。いやー……敵わないなあ。

「んー……」

 まあ、とにかく。

 あわや命の危機かと思ったアクシデントは、問題なく解決したみたいだった。

 そうなると、ティアは気持ちいい経験を出来た訳で……ちょっと、羨ましい。

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