パジャマな作戦パーティー3
冒険者ってのは、要するに個人。失敗した時、庇ってくれる上司や会社なんかは無い。
だから、それで生計を立てているなら、同業者との繫がりは大切なはずだ。狭い業界だろうしね。
だからなんだろうな。あの一画の依頼が、敬遠されてしまっているのは。
そこにあった依頼……。それは他でもない、触手が居ると噂の、鍾乳洞に関係するものだった。
あの後ボクとティアは、昨日のように少し聞き込みをした。
その結果わかったのは、この町における共通認識のようなもの。
この鍾乳洞、とにかく嫌われている。主にえっちな触手のせいで……。
まず女性からは、そんな如何わしいモンスターの居るところが、人気になるはずもなく。そしてどこの世界でも、そういう時の女性陣による圧力は、なんともすさまじいものがある。
鍾乳洞に関する依頼を請け負うだけなら、触手に注意すればいいだけだからと、気にしない人も居たらしい。しかしそんな人には、一部の女性冒険者からプレッシャーが突き刺さった。
うわ、もしかしてそういうの期待してるの? そういう人だったの?
……これである。
後はもう簡単な話で、男性冒険者にも、同じように牽制が入ったのだ。
うわ、そういう場面見れるかもしれないって期待してるの? 最・低。
こうである。
依頼は他にも色々あるし、手頃なのがなければ他の町に行ってもいい。一部からとはいえ、あえて不要なヘイトを買うくらいなら、避けるのが得策……って訳だ。固定で雇われてる訳じゃ無いから、選ぶ権利は冒険者側にある。
それが鍾乳洞……触手に対する、世間の大まかな認識だ。
はあ…悲しい現実を知ってしまった。やっぱりここでも、そういう風潮はあるんだなあ……。
触手に色々されるの、あんなに素敵なのに……。わかってくれる人が、もっと居てもいいのにな。
…………。
……気を取り直していこうか。
この世界なら、妄想だけじゃなくて実際に経験も出来るんだ。きっとそのうち、同志にも巡り合えるよね!
そんな訳で、不人気スポットとなり果てた鍾乳洞絡みの依頼。
それを、ボクらは請け負ったのである。
「報酬も少し上がってるみたいですし、良かったですね」
「だね。ボク達は、あの町をずっと拠点にする訳じゃないし、噂とかも平気だからね」
あと見た目子供だから、そういう目的だと思われなかったところも大きい。受けた時驚かれはしたけど、ありがたいとも言ってもらえたし、気分も良いね。
「でも、一つしか受けさせて貰えませんでした……」
「ま、それは仕方ないよ。ボクだって、子供が危険な事しようとしてたら止めるし」
今日受けたのは、鍾乳洞近くに生えると言う青い花の採取。特別な物で、近くではここらにしか生えておらず、薬とかの材料になるらしい。やっぱり鍾乳洞なんかが出来るくらいだから、特別な土質でもしてるのかな。それとも魔法世界的には、マナだまりみたいなのでもあるとか?
まあつまるところ、今日の依頼では鍾乳洞に入る必要すらない。触手とのエンカウントなど、するはずも無い簡単な依頼だ。
それでも一緒くたにされてるんだから、世間って言うのは世知辛い。
当面はこの依頼で成果を上げて、次は他のも受けさせて貰おうって感じだ。仮に危ないからって受けさせてもらえなくても、鍾乳洞には入るけどね。
あと人気が無いから、依頼がほぼ無くならないらしいのも助かる。あんな風に掲示板で悪目立ちしてたら、ボク達がそうだったみたいに、初見でも訳ありって気付くからね。結果、受ける人がなかなか現れない。
ボクらは自分のペースでやればいいし、その上依頼をこなしながら、鍾乳洞近辺、ゆくゆくは内部の構造を調査していく事も出来る。触手までの道のりを下調べ出来るのだ。
正に一石二鳥!
「ジュンさん。今日も危険なのは変わらないんですよ? 近くまでしか行かないと言っても……」
「大丈夫ー。わかってるー」
「むぅ……」
返事をしながらもぐんぐん進み続けていると、駆け足で少し先回りしたティアが、腰に手を当てて立ちふさがった。ちょっと咎めるような表情だ。
な、なにこれかわいい……っ。今の動き覚えておこう。いつかボクも使おう。
「ではジュンさん」
「はい!」
なんとなく、元気に返事をしてしまった。だってかわいいんだもん。良いお返事をしたくもなる。
「鍾乳洞に近づく前に、一つ魔法を練習しましょう!」
「おー!」
……?
あれ、ノリのままに返事はしたけど……。
おっとこれは、依頼の前に修行パートですか?