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今日もどこかでオタクは語る2

 不思議な感覚だ。

 上も、下も、前後左右も無いのに、今、いち方向を見ている感じはある。

「もしかしてこれが……魂だけの世界とか、そういうやつ……?」

「当たらずとも遠からず、というところですね」

「――!」

 それは、居た。

 浮かび上がる演出も、光も何も無い。ただ気付いたらそこに居た。一人の女性。

 同時に、自分にも身体らしきものがある実感が沸いてくる。

「わたくしは、あなた達の言う神に当たる存在です。今はそれに合わせて、形を取っています」

「なん、と……」

 そうじゃないかという予感はあった。この非現実的でありながら、妄想ではないとわかる妙な現実感。普段から妄想でトリップしている僕だからこそ、それがハッキリ感じ取れる。

 そして、となれば予感がもう一つ。

「驚くのも無理はありませんね。この場所へ導くのは、清浄なる心を持ち、徳を積んだ魂達。あなたは……選ばれたのです」

「そっ――」

 普通に返答しかけたところで、慌てて口を噤んだ。

 せ、清浄なる心ぉ~~? い、いやあ自分で言うのもなんだけど、僕そんな大層なもの持ち合わせが無いんだけど? むしろ……みなまで言うまい。

「わたくしたちは今、わたくし達自身の目的の為、魂を導いています。あなたは……その生を異なる世界で、続ける気はありませんか?」

「ふぉっ……!?」

 ふぁ嗚呼ああああああああ本当に異世界転生来たあああああああああ!!

 で、でもこれはもしや、僕が清浄じゃないってバレたら、この話が無くなる感じかな。あんまりしゃべらない方がいいかも……。

 じゃ、じゃあ。端的に、こう清浄っぽく。

「とても、興味深いです。是非お話を聞かせてください」

「はい。そう言って頂けると信じていましたよ」

 そう言って、神様は正に神様と言うような、慈悲深い笑みを浮かべた。

 ホッ……。よし、いいぞ! 正直今の内心をシンプルに言うなら、異世界転生バッチ来いって感じなんだからね。この話がご破算になっちゃうなんて、死んでもごめんだよ。死んでるけど。おお、これも一度言ってみたかった台詞だあ。

「でしたら……」

 お、さてさて……。流れから察するに、何かを授けてくれるかって話? 聖剣エクスなんとかみたいな、そういうのかなっ。どんな設定でもウェルカム! あとあと、行くのはどんな世界だろう? しいて言えば、せめて剣と魔法の世界であって欲しいけど……。この際SFだろうと、最悪人じゃなかろうとも! 新たな世界に夢を抱いて、魔王討伐なんのその――

「どんな世界が良いか、希望はありますか?」

「――っ!?」

 何もかもが上手くは行かない。高望みはしていなかった僕に、予想外の言葉が投げかけられた。

 ……え?

 ピクリと、全身が反応してしまう。

「あ、あの……神様」

「はい」

「世界を、選べるのですか?」

 こういうのって、大抵はどこかの世界がピンチとか、この神様が居る世界にとか。行き先は決まっているものじゃないの?

「はい、提示できる世界は限られていますが……。無数に存在する世界の中では一部でも、その数はかなりのものです。きっと、あなたの求める世界へ案内できることでしょう」

「お……お……」

 おおおおおおお落ち着け。駄目だまだだだだだ落ち着かなきゃ。

「その、この希望によって、転生が取り止めになったりとかは……?」

「いいえ、それはありません。ここへ招いた時点で、あなたの同意さえあれば、必ずどこかの世界へと導くことになっています」

「……」

「……不安もあるでしょう」

「――ぁ」

「ですが心配せず、正直な希望を述べてください」

「――は」

「それを元に…………?」

「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 本当にいいんですね!!?

「あの――」

「まず魔法とかある世界が良いです!」

「は、はい。ではそれ以外をまずは除外しましょう」

 なんだか神様が戸惑ってる気がするけど、いいって言った! 言ったんだから、神様なんだから二言なんてあるはずもない!

 辺りに石版のような何かが展開され、その中の半分ほどが音も無く消えて行く。

 そんなせっかくの演出を余所に、僕は希望を述べ続けていた。

「それから、いわゆる僕の居た世界で言うところの、モンスターとかが居る世界で!」

「は、はい」

「その中に触手さ……触手みたいなのも居る世界でっ!」

「しょ、触手……ですか」

 さしもの神も、その勢いに引き気味だったが、今それを指摘する者は居ない。

「それからこれって、自分の容姿とかも指定できますか!?」

「え、ええ…。導くのは魂だけですか――」

「背はこのくらいで! それで女にもなれますかっ!!?」

「……はい」

「fooooおおおおおおおおおおおお!!!」

「……」

 ――この時念の為、魂の取り間違いが無かったか確認していたのを、神自身以外に知る者は居ない。

「はははぁあ、はぁっ! はぁん!」

「せ、潜在能力は、どのくらいを希望されますか?」

 いわゆるチート能力ですね!? もちろん答えは決まってる!

「要りません! むしろ強すぎると都合が悪……ゲッフン! 何でもありません!」

「で、では、実際に現存する者たちと同じ程度に……」

「あ、でも詰むといけないので、ちゃんと鍛えれば強くなれる感じの世界が良いんですけど!」

「それについては、大丈夫ですよ。この世界の住人たちは、皆弛まぬ努力によって、様々な事を成していますから」

「イエス! イエス!」

「……他に、希望はありませんか? 急ぐ必要は無いのですよ?」

「問題ありません! ゆっくりする必要も無いんですよね!」

「は、はい」

「ではすぐにでもお願い致します!」

 誠心誠意お願いした。

「あ、あの……面を上げてください」

「はいっ!」

「ええ……では、清浄なる魂を持つ者よ」

「はぁ……はぁ……」

「此度の件。わたくし達、神の勝手を、お許しください」

「はぁっ、はぁっ、はぁはぁはぁっ」

「目を閉じ、身を委ね――」

「ハッハッハッハッ!」

「あなたの次なる生での幸福をお祈りしていますもう会う事も無いでしょうっ!」

 ああ、ついに異世界転生の時が!

「あ」

 ……? あ?

 無くなっていく。身体のような何かも、ここに居るという感覚も。

 僕の意識は、そのまま静かに途切れた。



 また一つの魂を見送り、神は嘆息する。

「たまにある事ですが、今回の方もまた……変わってましたね」

 これまで、数え切れない程の魂に触れてきた神。いつ、どの世であっても、総数が多ければ、異質なものの数も増えるのが道理。

 そして数が多ければ……。いくつかのミスが起こるのもまた、世の道理というものだ。

「……。やっぱり、ちょーっとだけ位置がずれてますね。わたくしとした事が、妙な勢いに圧されて、少々慌ててしまいましたか」

 汗を浮かべた表情で、神はしばし悩む。しかしそれも、そう長い時間ではなかった。

「ちょうど今の方が居た世界で、最近良い言葉が生まれていましたね」

 顔を少し上へ向け、上か下かはたまた左か右か……。定まらぬ中とある方向を見つめ、朗らかに笑う。

「あんがーまねじめんと、でしたか。自分にどうする事も出来ない要素は、気にするだけ無駄である。確かに、とても合理的ですね。ちゃんと希望の通りには送り届けましたし……。少しくらい、平気でしょう。どの道、もうわたくしにはどうする事も出来ませんし」

 神は、擬似的に模しただけの身体をあえて動かし、目を瞑る。そして、改めて言葉を紡いだ。

「本当に、人とは面白いものです。……新たな世界で、あなたの真なる願いが叶いますように」

 神と人の子。

 根本からして異なる者同士であっても、各々別の意思を持つ、確固たる存在。

 この一柱と一人の触れ合いが、これから一つの偶然、出会いをもたらすことを……まだ誰も知らなかった。

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