最初のお相手はスライム
こうなったらくよくよしない。全速前進あるのみだ。
「それでジュンさん。これからどこへ行くんですか? やっぱり、噂に聞いた町でしょうか!」
「残念、はずれです」
「あ、あれ? でも他には……」
ふふ、ボクを甘く見てはいけません。せっかくゲームで言うところのはじまりの村に立ち寄り済みなのに、何のアテも無く冒険へなんて……。そんな初心者ムーブはしませんよ。
「ボクが村で仕入れた情報によるとね。なんとこの森の中に、洞窟があるらしいんだよ」
「それは……そうですね。わたしが思っている場所なら、昔からあったと思います」
「それで、そこにはなんと……スライムが居るらしいんだよ!」
「は、はい。今も変わらないのですね」
ティアも知っていたとは! これは信憑性も高くなってきた。でも、せっかくティアの目を盗んで聞き込みしたのに…。本格的に遠回りだったか。まあこれも初見プレイの醍醐味だよね。
ゲーム風に言うなら、はじまりの洞窟ってところかな。レギュレーション通り、そこにラスボスである触手は居ないらしい。しかし、ボク的その他ボス格とも言えるスライムが、そこには配置されているそうなんです!
触手とはまた違う異形の生物。触手とは違って、身動きが取れないのではなく、動けるのに逃れられない、振り払えないシチュエーション。これもまた、このモンスターだからこその貴重な経験っ。時々予想を裏切って、硬化してくる奴とか、粘化してくるやつも居たりして……それもまたよし!
「今からそいつに会いに行きます」
「な、何言ってるんですか! 危ないですよ丸呑みにされちゃいます!」
「ええ!?」
待って今衝撃の新事実が!
丸呑み……だと?
身体に絡みつかれたりとか、服の中に入られるだとか……そういうサイズを想定してた。でもまさか、この世界のスライムは、人ひとり呑み込めるほどの大きさがあるって事……!? ほ、本当にボスじゃん!
これは……期待以上っ。
「ね? 洞窟は危険なんです。せっかくですし、予定を変更して町に行ってみましょう?」
「え? 洞窟に行くよ?」
「なんでですか!?」
「いやむしろ、俄然行きたくなっちゃったって言うか……」
「そ、そんな……やっぱり……。で、でも道中にはゴブリンも居ると聞きます! もっと魔法を練習して、戦えるようになってからでも……」
ちっちっちっ。
ボクは人差し指を立て、左右に振りながら勿体つける。
「そこもちゃんと把握済みだよ。対策も用意してるんだから」
「た、対策ですか……?」
「まあ、それでいけるかはわかんないけどね。上手くいかなかったら、仕方ないから村に戻るか、町へ行くかして作戦の練り直しかなあ」
「……」
引き続き、昨日に続いて同じ方向を目指して歩く。ティアも困り顔で付いてきていた。
今日中には、洞窟に到着できる予定だ。