いざ触手を求めて!2
触手のどこが、夢にまで見るほどいいかと言うとですね。
「んっ……」
そう! まずはなんと言っても、こんな感じで身動きが取れないところは重要だよね。
抵抗しようとしても何も出来ない。次に何をされるか仮にわかっても、逃げる事も防ぐ事も出来ない……。“動けない”って単語が、そもそもちょっとえっちだよね。一般ゲームのステータス異常時なんかの時、身動きが取れなかったとか気軽に表示するのは止めて頂きたい。ちょっといけない気分になっちゃうじゃん。
「う……ぅ……」
そして、この心地いい苦しさ……♡
苦しいんだけど、苦痛ではない絶妙な締め付け。呼吸がしづらいせいで、普段は意識してない吐息が現状の非日常さを掻き立ててくるっ。押さえつけられる事で、同時に自分の身体の形も鮮明にわからされて……!
「あっ」
そこに、火照った身体をさらに燃え上がらせようとするかのような熱を感じるんだよっ。それは触手自体の熱かもしれないし、そうじゃないかもしれない。変な成分分泌的な何かかもしれない。でも間違いなく自分の身体は熱くなっていって!
「あっ……ああっ!」
そんな自分の事でいっぱいいっぱいになったその瞬間! 触手は動きを強め、再び意識を向けざるを得なくなる。自分の状況を再確認させられるんだよっ。
この後は……。まさか……まさか――!
……。
…………びっくりした。
ここまでリアルな夢が今まであっただろうか? いやない。
この世界に来て、妄想力が成長を果たしたのか? あまりにリアルすぎて、今もその感覚が抜けな……い……!?
特別寝起きが良い訳じゃないボクだけど、意識が一気に覚醒した。
今感じている熱も、身動きが取れないのも夢じゃない!
首から上だけを全力で持ち上げたボクの目に映ったのは……。
こんなベタな事が現実にあるだろうか? ああ、朝からわからない事ばっかりだ。
「ティ、ティア!」
ボクの身体は、ティアにがっしりと羽交い絞めにされていた。
時は、一日ほど遡る。
今日も勤労に励むシリーは、店で頭を抱えていた。
「どうしよー……」
「シリーさん。私達だけでも大丈夫ですから、探しに行ってもいいんですよ?」
「……それは駄目。命が掛かってるとかならともかく、今はそうじゃないもの」
ティアが、気付かぬうちに姿を消した。
朝、手紙を見たティアはひどく沈んだ様子だった。その為ショックは受けていても、突発的な行動に出るようには見えなかったのだ。仕事場にも一緒に来て、一緒に着替えて作業を始めたはずだった。
「真面目ですねえ店長」
「私なんて、全然大した事ないから」
「まあ、彼女も若いとはいえ、子供って訳じゃないですしね」
「でも実際心配ですし、近くくらい探してあげたいですね。行き先はわからないんでしたっけ」
「うん……」
シリーは、ティアの行方どころか、ジュンの行方すら聞いていない。この村は森の中で、必ずこの道を通るなどと言った検討も付けづらい。打つ手なしだった。
こんな時でも、手だけは作業を続けている。
事情を知らない人が見れば、少し冷たいと感じるかもしれない。しかし彼女には彼女の、大切な守るべきものがある。
そんな時だった。
また一つ、入店のベルが鳴る。いつも通り従業員達が挨拶で出迎える中、それにざわつきが混じった。
「……! ちょっと!」
「どうも。久しぶり……かな?」
そこに居たのは、一人の男。
「ナイスタイミング! さすがだわ!」
「……?」
(これで、少しは安心できるかな。もう……次に会ったらお仕置きなんだから)
シリーは思いを託し、今日もいつも通りの仕事を続けていく。新たに一つ、心配事を胸に抱えながら――