いざ触手を求めて!
早朝。森の中。
「綺麗だ」
朝の白い陽射しが、この世界の色素の濃い鮮やかな木々に降り注いで、なんとも神秘的な光景を生み出している。
不思議な鳥の鳴き声がする。
この世界にも居るんだな。見た目も前世の鳥と似てるんだろうか。
ボクは、一人村を後にした。
昨夜、ボクはシリーさんに話を切り出した。
「急ですが、この村を出ようと思います」
「……本当に急だね。でも、ティアが居ない時を狙った理由はわかったよ」
「はい……ティアは連れて行きません。一人で行くつもりです」
「どうしても行かないと駄目なの?」
「はい。ボクには、この世界に来た目的があるので」
「どうしても、ティアは連れて行ってあげられないの? だって…」
「どうしても、連れていけません」
「……ティア、悲しむと思うよ」
「だからこそ、これ以上一緒に過ごす前にって思ったんです」
「……確かにね」
境遇を考えれば仕方の無い事だけど、ティアは今、ボクに懐きすぎてると思う。家の中以外じゃずっとボクを見てる気がするし、仕事中でも、作業場が離れると悲しそうな反応をする。それは、シリーさんを含め周りの人も気付いてる程だ。
だからこそ、早めに別れた方が良いと思う。ボクの旅には連れて行けるはずもないし、ティアにはティアの幸せな今後を探してもらわないといけない。
一時はどうしようかと思ったけど、運良くシリーさんに巡り合えた。今の状況なら、ボクはティアから離れられる。
ボクだって寂しくはあるけど……。それこそ今生の別れな訳じゃないってやつだ。
「その目的、私にも手伝える事は無いの?」
「はい。そういう類のものでは無いので」
それっぽい良い話風になってるけど、めっちゃ利己的な目的なので!
「そのうち、改めてお礼にも伺う予定です。本当は、こんな事お願いできる立場じゃないんですけど……ティアの事、お願いできますか?」
「……異世界の人って、やっぱり何かしら抱えてくるもんなのかなー」
シリーさんは、自分を納得させるかのように何かを呟いていた。
「……どうでしょう」
「うん、もちろんいいよ」
「! ありがとうございます!」
これで安心して旅立てる。
「でも……」
「えっ?」
「私は、ジュンの口からティアに伝えるべきだと思う」
「そ、それは……」
「だって絶対納得しないよ? 私も、ティアに言って聞かせるくらいのお手伝いはしてあげたいけど」
「ちょっと、説得できる自信が無くて……はは」
「気持ちはわかるけど、ジュンに出来ないなら、私にも難しいでしょー?」
「なので、こうして下さい。ボクは勝手に消えてしまった。そうすれば、少なくともシリーさんに詰め寄る事はないはずです。手紙も残していきますから」
ボクはこの後、心からの感謝をシリーさんに伝え……束の間の休息を取った。
そうして、まだ寝静まる村を抜け出し、ボクは新たな一歩を踏み出したのだ。
ティアには悪いけど、これでやっと遠慮無しに動けるというもの。さすがにね? これでも結構自重してましたから。
「にしてもまだ一日目なのに……疲れた」
朝の時点では、景色を楽しみながらの気楽なお散歩気分だった。しかしいかに元気で若い身体でも、一日歩けばやっぱり疲れる。
「聞いてた通り、深い森なんだなあ」
いくら小さな歩幅とは言っても、これだけ歩いて抜けられないとは……。触手様への道のりは遠いな。
まあ、これは想定通りだから問題なし。
「よし、今日はもう寝ますか!」
この森なら、手頃な木の根元の隙間を探すだけで、野宿には事欠かない。腰を下ろし、なけなしの給料と引き換えに用意してもらった携帯食糧を摘む。
シリーさんには感謝してもし足りない。ごそごそと一日準備とかしてたら、ティアが勘付いてしまうかもしれなかったからね。
それが終わったら、鞄を枕にさっさと横になった。
なんとなく天に両手を上げると、腕にはめたブレスレットが目に入る。ティアは、今日もちゃんと店の手伝いをしただろうか。
「……寝よう」
目を閉じる。
適度に疲れてるし、今日は良い夢見れそう……かなー……。