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今日もどこかでオタクは語る

 されたい!!!


 ……え、何をされたいかって?

 みなまで言わせないてくださいよそんな。

 ところで話は変わるようで変わってないんですけど……。皆さんは〇ロゲーって、どんな感じでやります?

 あ、間違えました。美少女ノベルゲーとかのあれなシーンって、こう……どんな視点でやりますかね?

 そう例えば、よくある感じだと……。

 “主人公に感情移入して読む”とか。それから、完全に第三者の視点から、“登場人物達のやり取りを眺める”とか……。

 他にもあるだろうけど、まあ大半は例に挙げた二つのどちらかになるらしいっすね。

 ですが……僕は違うんですよ。

 いつからこうなったか、どんな切っ掛けがあってこうなったか。今となっては覚えてないんだけどね。ちょっと違うとかそんなんじゃなくて、まるっとごりっと違うのよ。

 してそれは? って言うとですね……。

 “ヒロインになりきって読む”……これですね! 俄然これです!

 誰でも一度は、空想のヒーローみたいになりたい、なんて思った事があるはず。正にそれですよ!

 僕はこう……なんと言うか大して男らしくも無いのに、一応は男みたいな、中途半端な存在として生を受けちゃったわけなんですけど……。そのせいもあるんですかね?

 ……どうにも、自分がされてる気になっちゃうんだよねへへ。

 そしてそんな中でも! やっぱりなんと言っても……触手さんだよね!

 これでもほら一応は男なわけで、どうもそいつにやられるのはうーん……って感じなんだよ。

 でもその点、触手君はいいよ! 色んな作品を見てきたけど、自分がなりきったヒロインたちが、この世とは思えないほどの快ら……じゃなくて気持ちよさに溺れる姿……っ。小さな身体を支配されてしまう感覚! 響く嬌せ……叫び声! 時間が経つにつれて、それはもう心の底から幸福を感じるようになって……。

 思わず……恍惚としちゃうよ。

 あんな風に僕を幸せにしてくれる触手は、きっと、特別な存在なのだと感じました。もういっそ、神の存在と言っても良いね! 触手様!

 あ、やば。興奮してよだれが……。

 ……。

 げふん。

 とまあそんな僕だけど、この世は世知辛いのじゃよね。

「ありがとうございましたー」

「どうもっ」

 当たり前だけど、そんな至高の存在である触手様は、現実には居ない。

 僕は普通に仕事をして、お金を稼いで……。出来るのは、休日に(妄想で)ダイブした世界の中で、触手様に気持ちよくして貰うことくらい。

 …………きょ、今日のも激しくって、良かったな……ふへへ。

 っ!? い、いやいや! とにかくこの世界なんて、ぶっぶーなんですよ!

 たまの休日に、こうやって逃避したくなる程度には……ね。

 あーあー。この世界で希望を見出して頑張ってる人たちはすごいよ! もしかして、流行りの転生者ってやつなんじゃないの?

 何事も無い平凡な日常とか……。こう、とにかくこういう世界がよくて、自らここへ来たんだよきっと。

 どこか別の世界の人にとっては、この現実こそが、夢の世界ってこともあるはずだからね。

「夢の世界……か」

 行きたいね。行けるもんなら。

 まあ今も、夢の世界(妄想)へ行って戻ってきたところなんだけど……はは。

 ちょっとトリップし過ぎて、晩御飯の買出しがこんな時間になっちゃったよ。

 この辺り暗いんだよなー。気をつけないと。

「! おっと……」

 閑静な住宅街に響く、重たいエンジン音。おそらくいつものトラックだろう。

 はあ……。もう勝手知ったるって感じだから止まるどさ。正直危ないよね、こんな暗い道をさ。ここ通るしか無いのかなあ? どっか、近くの会社のなんだろうけどさあ。

 この道は一車線で、歩道も無い。申し訳程度に備え付けられているカーブミラーも、夜になればその効力は激減してしまう。条件が揃えば、もしもの事が起きてもおかしくない場所――

「――え」

 これは一瞬の出来事だ。

 後ろから駆け込んできた小さな陰が、僕のことを追い抜いていった。男の子? 女の子? それすらも、ハッキリとはわからない。でもわかっていることがある。この子は、僕を追い抜いていったんだ。

 トラックが通り過ぎるのを、止まって待っている僕を――

 ここらで一番に眩しいヘッドライトの光と、こちらも一番にけたたましい、クラクションの音が届く。

 人間、極限状態では、脳や身体が何倍にも早く動く時があるとか聞いたことがある。

 僕はと言えば、この非常時に、こんなことを思い出していた。

『Yes.ロリータ! No.タッチ!』

 まずい引き止めなきゃでも最近冤罪とか物騒で声を掛けただけでも通報エンドなのに触れるとか絶対にやっちゃいけないこの子が女の子なら間違いなく事案でいや最近も最近なら男の子でも下手すれば――

 ――違う! 今、僕がしないといけないのはっ!

「待って!」

 続けて聞こえてきたのは、耳を劈くブレーキの音。

 我ながら奇跡だったと思う。運動の苦手な僕が、ちゃんと目の前の子の腕を掴むことができたのは。

 でもそこまでだった。

 スポーツなんかでよく聞く、足がついていってないなんて表現。今の僕がまさしくそれだ。慌てて上半身だけで引き戻した反動に振られて、僕の身体はたららを踏むように、いとも簡単に前に放り出されて――


 あ、死――


 ……。

 その先は、悲惨なことになったんだろうか。それとも、あの小さな子に、トラウマを植えつけない程度には、原型を保っていられたのだろうか。僕にはそれすらわからない。

 だいたい、裏道を自動車で走る時は最徐行だろう? そりゃあ仕事で嫌ってほど大変なのは、僕だって理解できるけどさ。そんなことだから、こういうことが起きるんだよ。

 ……でも、よかったよね。

 偶然だったけど、僕が居合わせたおかげで、未来ある子供は助かったんだもん。ふてくされて生きてる僕の犠牲で済んだんなら、安いものでしょ。

 ……あーあ。

 出来れば体感型フルダイブゲームが、この世に誕生するくらいまでは生きたかったかな。そうすれば……ふへへ。

 ってあれ? そういえば……。

 今考えてる僕って、何なの?


 その時、何も無かったこの場所に、何かが映り始めたような気がした。

※ガイドラインに則り、禁止されている描写は出てきません


 きっと健全なお話になると思います?

 応援よろしくお願いします。

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