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第9話

 ネットニュースからは大した情報を拾えなかった。軍と警察が情報統制しているからだろう。

 念の為に『不死人(アンデッド)』関連の事件を扱うブロガーの情報も確認してみたが、大して変わりは無かった。憶測と推論の嵐で、真実が見えてこない。

 ただ分かった事と言えば、『不死人』で構成されたヤクザの組織や反政府運動を行う組織が、土曜日と日曜日、それぞれの夜に撲滅されたという事くらいだ。そのいずれにも、現場にナチス親衛隊の姿をした兵士が確認されている。

 余程のコスプレ好きか、日本に居るのか分からないが“ネオナチ”のイカれた野郎で無ければ、『不死人』の組織を壊滅させたのは『QPS-P04』を装着した誰かだ。そして恐らく、あの夜に薫から『QPS』を奪った女性であろう。

 しかし、そうなると疑問が生まれる。

 あの女性は確かに『不死人』と対立していたようだが、薫の見立てでは積極的に『不死人』を殺す様な女性には思えなかった。どちらかと言えば、手玉に取るタイプだ。それが何故、『不死人』を殲滅する様な行動を取っているのか。

 可能性としては一つ無くは無いが、あれは凍結してある筈だ。それにもしも解凍したとしても、“電子機器を操る”能力を持つ彼女には無効な筈。

 幾ら考えても答えは出なかった。

 まぁ、例え答えが出たところで、薫には何も出来やしない。インターンをクビになりスーツを取り上げられた薫は、ただライフルを扱えるだけの無能な高校生に過ぎない。


「ねぇ、薫くん。聞いてますか?」


「へ? な、何?」


 不意に三科凛子の顔が薫の前に現れた。

 ネットニュースを読み終えた辺りから思考の海の中へ精神を沈めていた為、気付かない内に電車を降りて学園へ続く道に着いていたのだった。その事に驚きながら、「何の話しだっけ?」と彼女に問い掛ける。


「だから、今日のデートですよ。丁度、もう直ぐ夏ですから、夏物の洋服を買いたいんです」


「それに付き合えって?」


「はい、男の人に見て貰った方が、良いかと思いまして」


 別に薫でなくとも三科凛子なら、誰でも声を掛ければ着いてくると思うのだが。男女問わずに。

 本当にどうやって断ろうかと思っていると、『咲浪学園』の荘厳な門が見えてきた。ぼんやりしている内に、学園へ到着してしまった。


「あら? 何でしょう、あの人だかりは?」


「人だかり?」


 三科凛子の視線の先を見ると、校舎の手前に設置されている掲示板の前に人だかりが出来ていた。

 あの掲示板は校内で起こった大小様々なニュースや、広報委員会が掴んだ真偽の程が怪しいネタを載せる校内新聞みたいなものだ。因みに、薫と三科凛子のこの奇妙な関係も取り沙汰され、今では不本意ながら校内認定のカップルの様な扱いを受けている。

 それは兎も角、薫は掲示板の内容が気になり、人混みを掻き分けながら前へ進んだ。すると、そこには“『不死人』を倒すヒーローか!?”という見出しと共に、ナチス親衛隊の姿をした女性の姿が不鮮明ながら写真に納められていた。

 それよりも驚いたのは記事の内容だった。

 記事には“先週金曜日の夜に強奪されたパワードスーツを身に纏った女性が”とあった。何という事か。薫の予想通り、あの女性が『QPS-P04』を装着し『不死人』殲滅に乗り出しているのだ。それに軍事機密である『QPS』強奪の件が載っているのも驚かざるを得ない。


「一体、誰がこの記事を…………」


 記事の最後の方に記された記者の名前を見ると、この学園の広報委員会の生徒の名前が書かれていた。


「『咲浪学園』広報委員会所属、田原新助、か」


 名前を確認した薫は、人混みから抜け出し校舎へ向かって歩みを進める。


「どうかしましたか?」


「記事に『QPS』が奪取された事が書かれていた。何処でそんなネタを掴んだのか、本人に確かめたい」


「確めて、どうするつもりですか?」


 三科凛子の問いに、薫は思わず足を止めた。

 そうだ、確めてどうするというのか。

 薫はもう軍のインターンをクビになっている。今ここで情報源を探ろうと、どうする事も出来ない。


「もう、パワードスーツの事は忘れてしまいましょうよ。これからは普通の高校生として、安全に暮らしていけば良いんです」


 彼女の言う通りだ。

 もう危ない事をしなくて良い。命懸けの戦闘に身を投じる事も、メグ叔母さんに心配掛ける様な事をする必要も無い。

 薫はもう普通の高校生なのだ。

 普通で、無力な、一般市民でしか無い。


「どうですか? ここは心機一転として、私とのデートで普通の高校生の気分を取り戻して見るのは?」


「はぁ、本音はそれか。何で君はそんなに僕をデートに誘いたいんだ?」


「そんなの決まってますよ。私が貴方を気に入っているからです」


 そう言って三科凛子は、まるで天女が笑いかけたかと誤認させるような笑みを浮かべた。

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