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第8話

 『ハイヒューマン』や『ガンスリンガー』を育成する為に設立された国営の高校、『咲浪学園』へ向かうべく、的場薫は最寄りの駅で電車を待っていた。

 片田舎の無人駅故に、薫の他には通勤のサラリーマンらしき男性しか居ない。顔見知りでも無いので、二人とも少し距離を置いてホームに立っていた。

 そこへ、とある珍客が訪れた。


「おはようございます、薫くん」


 ビロードの様な黒髪をたなびかせながら、天女の様な美貌を持つ少女が薫のもとへ歩み寄って来た。

 この誰もが見とれてしまいそうな美少女は三科凛子と言って、武器の生産で有名な三科工業株式会社の社長令嬢にして、人類最強とも言える程の実力と能力を持つ『ハイヒューマン』である。

 あの夜、薫と共に行動していた仲間というのが、この三科凛子であった。


「おはよう、三科さん。わざわざずっと遠い駅までご苦労様」


 三科凛子の自宅は『咲浪学園』の目と鼻の先にある。だというのに、わざわざ遠回りして薫のもとへ現れるのは、彼女が薫に借りがあると思っているからである。

 以前、任務で彼女を助けた事があり、それから付きまとわれるようになった。

 正直に言って、それから何度と無く助けられているので、一周回って薫の方が借りが出来てしまっている状況だ。


「もう、他人行儀ですね。凛子、と呼んで下さい」


 いつも敬語の彼女の方が他人行儀な気もするが、あえて突っ込まないようにする。会話の種を与えたく無いからだ。

 別に女の子になつかれる事は嬉しいし気分が良いが、三科凛子は別だ。

 薫は彼女に苦手意識を持っていた。

 理屈ではなく、本能的に。


「休日はしっかり療養されましたか? 何せ、背骨を骨折してたのですから」


「お陰様で。三科…………凛子さんの“治癒”能力がよく効いていたようで、生活に支障は無かったよ。また一つ、借りが出来たね」


「いいえ、これも私の借りの返済の一つです。まだまだ十分に返せていませんから」


 この調子である。

 幾ら薫が借りが出来たと言っても、取り合おうとしない。どういう了見でそうしているのか、三科凛子は薫に借りを返し続けたいらしかった。


「あ、そうです。インターンをクビになったなら、時間ありますよね? 私とデートしましょうよ」


 唐突な発言に、薫はとっさに「嫌だ」と言いかけた。

 しかし、本人は思ってなくとも借りを作ってしまっているのは確かなので、安易に断る事は出来ない。何か上手く断る理由があれば良いのだが。

 返事を保留にしていると、ホームにアナウンスが流れ始め電車が到着した。

 薫は三科凛子と共に電車へ乗り込んだ。


「で、どうするのですか? デートは?」


「あぁ、うん。デート、デートねぇ…………」


 三科凛子は簡単にデートと言っているが、彼女の事だ。ただお茶を飲んでお喋りするような長閑なデートでは無いだろう。

 やはりここは断るべきなのだが、生憎と理由が思い至らない。

 そうこうしている内に、電車が発車した。

 揺れる車内で思案を巡らせる薫は、ふと中吊りの広告に目が行った。そこには驚愕の記事が張り出されていた。


「“ナチス親衛隊の姿をした何者かが『不死人(アンデッド)』の組織を破壊”だって?」


 見出ししか書かれていないが、薫の興味を引くには十分過ぎる内容だった。

 ナチス親衛隊の姿をした何者か。

 それは恐らく、あの夜の女性で間違いない。早速『QPS-P04』を使い、暴れ始めたのだ。


「あぁ、あれが気になりますか?」


 三科凛子が獲物を得たりと言わんばかりに口を開く。が、薫はそれを片手で制止した。


「君が言わなくても、ネットニュースを見れば大体は分かるよ」


「私は公にされていない情報も知ってますよ? 何せ、私はあの現場に居たのですから」


 三科凛子のこの言葉が、薫の正義感と好奇心を刺激した。


「気になるなら、教えて差し上げてもよろしくてよ」


「軍事行動は機密扱いじゃ無いの?」


「私、機密とか気にしないタイプですから」


 三科凛子は思わず胸がときめいてしまいそうな程の魅惑的な笑みを浮かべた。


「けど、ただではありません」


「分かってるよ。何が望み? 大した事は出来ないけど」


「そうですねぇ…………」


 てっきりデートに付き合えと言い出すかと思ったが、彼女は右手の人差し指を顎に当てて思案し始めた。

 それも束の間、またもや魅惑的な、けれども何処か不適な笑みを浮かべる。


「また、私と“殺し合い”をしましょう」


 三科凛子のとんでもない要求に、薫は首を横に振らざるを得なかった。

 彼女とは一度、意見の食い違いから死闘を演じた事がある。奇しくも人類史上最強の少女を、薫は殺害するに至るまで追い込んだ。が、彼女の持つ“超自己回復”能力のお陰で、今もこうして元気に生きている。それも借りの一つだと思っているようだ。

 しかし、それもこれも『QPS』という人間の限界を超える力を与えてくれるパワードスーツの力があってこその勝利だ。決して薫一人の力では無い。


「無理だよ。スーツの無い僕は、ただの無能な人間さ」


 『QPS』が無い以上、三科凛子と戦えばどうなるか簡単に予想が付く。文字通り、瞬殺されるだけだ。

 薫の発言に彼女は特に変色を示さず、「あぁ、そうですか」と普段と何も変わらない調子で答えた。


「では、仕方ありませんね。情報は諦めて下さい」


「そうさせてもらうよ」


 三科凛子の持つ情報は気になるが、その対価が不釣り合いだ。

 仕方が無いので、薫は携帯端末をブレザーの内ポケットから取り出しネットニュースを検索し始めた。


「それで、放課後のデートですがーーーー」


 何やら一人ではしゃいでいる三科凛子を他所に、薫はネットニュースを食い入るように読んでいた。

 的場薫と三科凛子との関係をもっと知りたいと思われた方は、『アメイジング・ヒーローズ“未成熟なヒーロー”』をご一読下さい。

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