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第7話

 千本木琴乃は自身のセーフハウスにて、戦利品である『QPS-P04』の解析作業を行っていた。

 解析すればするほど、このパワードスーツを造った人物の熱意を感じられる代物である。


「物質の量子化技術にテレポート。他にも見ない技術が満載ね。これを着用すれば、『不死人(アンデッド)』どころか『ハイヒューマン』にも勝てるわ」


 未知の技術に興奮する琴乃は、ふと一つのブラックボックスを発見した。

 それは何重にもプロテクトが掛けられており、容易には封印を解く事が出来ないようになっていた。普通のハッカーならば。

 琴乃は“電子機械を理解し操る”事が出来る『ハイヒューマン』だ。この程度のプロテクトなど、解除するのは容易い事である。

 早速、琴乃は片手を液晶ディスプレイに当て、瞼を閉じて強く念じる。すると、強固に固められたプロテクトが、一つ、また一つと解除されて行った。やがて最後の一つを解除し終えた琴乃は、「楽勝ね」と早速中身を確認する。


「何これ? 『エインヘリアルシステム』?」


 プロテクトの中身は、『QPS』を強化するプログラムの様であった。

 詳細を確認すると、『エインヘリアルシステム』とは、凶暴化した『不死人』の“変異種”や犯罪者となった『ハイヒューマン』を殲滅する為の補助プログラムという事になっていた。装着者に理想の動き、理想の能力をトレースする、謂わばオートマチックで敵を殲滅するプログラムだ。


「面白そうね。あの二等兵はこれの存在に気付いて無かったのかしら」


 『エインヘリアルシステム』の存在に気付いて居たなら、あの“理性を保った変異種”との戦闘で使用していた筈だ。

 使わなかったという事は、やはり知らされて無かったのだろう。それならば、この幾重にも重ねられたプロテクトも説明が付く。


「いざと言う時の暴走装置だったりして」


 琴乃は冗談めかして言いながら、好奇心に負けて『エインヘリアルシステム』を機動した。

 瞬間、液晶ディスプレイに見たことも無い文字の羅列が走り始めた。未知のプログラムがパソコンを侵食していく。


「何? エラー? もしかして、ただのウィルス?」


 琴乃は慌ててパソコンをリセットしようとするが、手動では電源を切る事さえ出来なかった。そうしている内に、キーボードから白い煙が上がり始めた。

 琴乃は慌てて消火器を取りに席を立った。

 迂闊だったのかも知れない。

 もしかすると、この『エインヘリアルシステム』というのはただの囮で、開いた者のパソコンをショートさせるウイルスだったかも知れない。

 万が一にも『QPS』を奪われた際、億が一にもファイアウォールを突破された場合の最後の砦として、自壊するプログラムを入れていたのだろう。

 消火器を手に戻った時には、キーボードから火の手が上がっていた。琴乃は消火器を操り、粉末消火剤をパソコンに吹き掛けた。


「最悪。これは『QPS』もお釈迦になったかな?」


 琴乃は溜め息を吐きながら、舞い上がった粉を手で払い除ける。

 すると、妙な事が起こった。

 確かに壊れた筈のパソコンの液晶ディスプレイに、“顔の無い女”が映し出されていたのだ。


「問います。力を求めますか? 堕落した人間の末路である『アンデッド』を駆逐する為の力を求めますか? 自らの能力に驕った『ハイヒューマン』を殲滅する力を求めますか?」


 顔の無い女は、ノイズ混じりのエコーの掛かった声をスピーカーから発して琴乃へ問い掛けて来た。

 普通の人間なら、驚いて腰を抜かすかその場から逃げる事をするだろう。しかし、琴乃は違った。

 琴乃はどうせ二等兵が言っていた“ターナー”とか言う人工知能が、エラーを起こして勝手な事を言っているだけだと思い込んでしまった。

 “あらゆる電子機器を扱う”事の出来る『ハイヒューマン』である琴乃は、電子機器に対して絶対の主導権を持つと侮っていたのだ。


「面白そうね。もし、そんな力があるとするなら、是非とも戴きたいわ」


「願いは聞き届けられました。ならば、私は汝に力を与えましょう」


 刹那、ディスプレイに先程と同じ様なプログラムが流れ始めた。

 それを呆然と見詰めていた琴乃の左手首には、いつの間にか『QPS端末』が装着されていた。そして何の操作もしていないのに、琴乃の身体は光の粒子に包み込まれ、ナチス親衛隊の姿へと変化した。


「力は与えられました。人間社会の安寧の為に、その力を振るいなさい」


「人間社会の安寧の為に…………」


 人工知能のエコーの掛かった言葉が、琴乃の深い部分に浸透していった。

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