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第5話

 彼女の話をしよう。

 彼女は日本人にしてアメリカの“CIA(ラングレー)”で諜報活動を行う、所謂スパイであった。

 諜報対象はもっぱら『不死人(アンデッド)』で、どこでどの程度の『不死人』がどんな活動をしているのかを探り出し、『人類統一連邦政府アメリカ軍』へ報告することが仕事だった。

 彼女は優秀なスパイだった。

 しかし、それ以上に貪欲で規律を重んじない諜報員でもあった。

 彼女は『不死人』をスパイする傍らで、『不死人』の組織やカルテルが溜め込んだ金品を強奪するような副業を営んでいた。勿論、ラングレーには秘密の副業である。

 『不死人』は反政府軍やテロ組織以外にも、名のある財団等が絡んでいる事もあり、莫大な富を抱える『不死人』の組織が多数あった。その富に彼女の目は眩んだのである。

 彼女は欲望に忠実に従い、身の丈に合わない程の富を手にした。

 そういう点で言えば、彼女は器用にこなしていた。ラングレーにも『不死人』の組織にもバレないよう、資金洗浄をし贅沢三昧を働いていたのだから、あらゆる目を欺く才能に恵まれていたと言えよう。

 しかし、それも長くは続かなかった。

 とある潜入任務の折、彼女はいつものように『不死人』が溜め込んだ金品を奪って自分の物とした。

 それがどういう分けか、ラングレーにバレてしまったのだ。

 彼女は直ぐにラングレーに拘束され、法の裁きを受けるはずだった。が、その前に彼女は驚くことに『不死人』から奪った金品を放置して、身軽なまま高飛びを決め込んだ。

 普通なら莫大な富を放置するなど考えられないが、彼女は高飛びの折には財布に入っていた片道分の現金のみを持って逃げたのだ。その速度と行動力に、またもラングレーは欺かれた。

 彼女としてはそれまで貯めた財産よりも、自分の身を優先したに過ぎない。金などまた稼げば良いという考えだった。正に、命あっての物種という分けだ。

 そして彼女は国々を転々とし、やがて活動拠点を日本に定めた。

 そこでも『不死人』相手に詐欺や強盗を働き、また財産を蓄え始めた。

 そんな折にこの事件が起きたのである。

 何処で間違ったのか、それは分からない。けど、『不死人』の組織に金品を騙し盗った事がバレた彼女は、命を狙われるはめとなったのだ。

 そして、今に至る。











 『QPS-P04』を装着した千本木琴乃は、「良いわね、これ」と機能を確かめるように体の関節を動かしてみる。

 全ての筋肉がパワードスーツによって強化されている事が分かる。加えて、『QPS』というパワードスーツがどのようなものか、どんな能力があるのかも分かる。琴乃の『ハイヒューマン』としての能力は、ただ電子機器を操るだけでなく、“電子機器を理解する”事が出来る能力でもあるのだ。

 それにしても、大したパワードスーツである。

 これならば、大抵の『ハイヒューマン』や『不死人(アンデッド)』に負ける事は無いだろう。


「直ぐにスーツを外せ!」


 的場薫二等兵と名乗った少年が、古めかしいアンティークなレバーアクションライフルを構え琴乃に命令する。

 どこからともなく現れたライフル。

 このライフルは彼の『適性銃器』であろう。


「嫌だと言ったら?」


「ターナー! 今すぐ『QPS』を停止させろ!」


「悪いけど、ターナーって娘は眠って貰ってるわ。私の能力でね」


「ならば、力ずくでも取り返す!」


 それが虚勢であると琴乃には直ぐに分かった。

 元々、この『QPS-P04』の装着者であった的場二等兵だ。スーツの性能が如何なものか、誰よりも理解している筈だ。

 しかし、彼は本気だ。

 例え刺し違えてでも、琴乃を止めようとするだろう。

 それに彼の口振りから仲間が居る事は確かだ。その仲間も『QPS』を装着しているか、『ハイヒューマン』であれば面倒な事になるだろう。

 何せ、この『QPS』の戦闘可能時間は三分を切っているのだ。


「ごめんね、二等兵。時間が無いから、貴方と遊ぶのはまた今度」


 琴乃は踵を返し、自分の車へ向かい歩き出した。

 その背後で、一発の銃声が轟いた。

 僅かだが、背中がチクリと痛んだ。成る程、『エネルギーシールド』を展開していても、痛みは完全に緩和出来ないという事か。それにしても容赦無く撃ってきたものだ。

 そんな分析をしている最中、背後から二等兵が抱き付き首を締める様に腕を回す。が、自分でも驚く程びくともしない。首も『エネルギーシールド』に守られている故に、息苦しさも感じない。


「あんたは危険を冒している! そのスーツは素人に扱える物じゃ無い!」


「そう。けど、私って機械には強い方なの」


 言いながら二等兵の腕を取ると、軽くあしらうように近くの車のボンネット目掛け、彼の体を叩き付けた。

 軽い力加減だったつもりが、まだ力加減が上手く出来なかったようで、車のボンネットが凹みフロントガラスが割れた。彼は衝撃と痛みに呼吸困難に陥ったのか、喘ぐような音を喉から絞り出し、そのまま気絶してしまった。それと同時に『適性銃器』のライフルが、闇に溶ける様に消え去った。


「成る程、かなりピーキーな機体なのね」


 『不死人』や『ハイヒューマン』に対抗する為に造られたらしい『QPS』は、確かに素人が扱うには苦労する代物だろう。

 それを意図も容易く扱っていたこの二等兵の実力には、一定の評価を下さざるを得ない。


「けど、まぁ、訓練で何とかなるでしょう。どうせ『不死人』しか相手にしないし」


 琴乃は一人ごちると、失神した二等兵に「じゃあ、確かに貰って行くわ」と告げ自分の車へと向かう。あまりぐずぐずしていると、追手が来るかも知れないので、二等兵の手当に割く時間は無かったのだ。

 車に乗り込んだ琴乃は、手早くエンジンを掛け車を発車させた。

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