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第4話

 的場薫は『MP40“シュマイザー”』のマガジンを変えると、地面に伏せる悪魔のような蝙蝠のような『不死人(アンデッド)』に慎重に近付く。

 前後からの銃撃に『不死人(アンデッド)因子』を完全に破壊された『不死人』は、もう二度と起き上がる事は無いと思われたが、それでも油断は出来なかった。一応の保険として、頭部に一発発砲し脳を破壊した。これでやっと安心出来る。


「倒したわよね?」


 バスローブ姿の女性も突撃銃を構えたまま、用心深く『不死人』に近付く。


「目標沈黙。制圧完了です」


「そう。なら良かったわ」


 女性は安堵の溜め息を漏らした。

 薫も一息吐くと、『シュマイザー』を量子変換してストレージにしまった。


「そうだ、私、まだ追われてるんだった」


「それなら心配いりません。ホテル内の『アンデッド』は、僕の仲間が制圧している頃合いでしょう。ーーーーどうだ、ターナー?」


「はい、敵勢力の鎮圧を確認。他に居ないか探している模様です」


「大丈夫なようです」


「そう、やっと一息吐けるわ」


 そう言うと女性の突撃銃は虚空に消え去った。どうやら『適性銃器』だったようだ。


「それにしても、なかなかの戦闘能力ね? その格好はただのコスプレじゃ無いのね?」


「えぇ、これは『QPS』と言って、軍が開発しているパワードスーツです。まぁ、その試作機ですけど。服装は開発者の趣味です。倫理的にどうかと思いますが」


「薫様、あまり『QPS』の事を口外するべきではありません」


 ついうっかり『QPS』について説明してしまった薫を、ターナーが咎める。

 先程、共闘したからか、この女性にはどうも心を許してしまったようだ。それだけでなく、どこか彼女には懐疑的になることは無かった。が、『QPS』は軍事機密なので、容易く口外してはならないと今更気付いた。

 薫はこれ以上『QPS』について触れられたく無かったので、代わりにこちらから質問することにした。


「ところで、この『アンデッド』とは知り合いですか?」


「いいえ、初対面よ」


「初対面で何で狙われて居たんですか? そもそも、貴女は軍人か何かですか? どうしてそんな格好を?」


 矢継ぎ早に質問を繰り出す薫に、女性はくすりと笑った。


「落ち着いて、二等兵さん。そうポンポン質問されても答えられないわ」


「すみません、慣れてないもので。取り敢えず、安全な所へ移動しましょう。ーーーーターナー、ダメージコントロール班に連絡を」


「了解しました」


 薫は女性をホテルの中へ誘導しようと近寄るが、「その必要は無いわ」と片手で制止された。


「ここの場所がバレた以上、長居するのは得策では無いわ。一刻も早く立ち去るべきね」


「追われてるのですね」


「えぇ、そうよ」


「ですが、そんな格好では…………」


「あぁ、それもそうね」


 まさかバスローブ姿の女性を保護しない訳にはいかない。如何に『適性銃器』を持つ『ガンスリンガー』と言えど、半裸の女性を夜の街に出すのは危険過ぎるだろう。

 ここはやはり、ホテルに戻ってもらい服を調達すべきだ。

 そう思い立って「やはりホテルへ戻るべきです」と女性を保護しようとすると、不意に彼女の右手が薫の肩に触れた。


「ホテルに戻るよりも、貴方の服を奪った方が早そうね」


「へ?」


 女性が予想外の発言をした刹那、けたたましい警告音と共にHUDにハッキングされているという表示が表れた。


「ターナー、どうなっている!?」


「薫様、直ぐその女性から離れて……て……てて…………」


 そしてHUDの表示がノイズだらけになったかと思うと、薫の体に装着された『QPS-P04』が光の粒子となり始めた。

 薫はターナーに言われた通り女性から離れようとするが、まるで金縛りにでもあったかのように体を動かす事が出来なかった。スーツがエラーを起こし、硬直してしまったようだ。


「直ぐに済むから、ちょっと待って」


 やがてスーツは量子変換されデータ化し、左手首に巻き付けた端末の中のストレージに収納された。その端末もスーツが量子化されると同時に、薫の手首からするりと抜け落ちた。

 硬直から解放された薫は、よろめく様にして尻餅を着いた。


「まさか『ハイヒューマン』の能力…………?」


 何が起こったのか、察しは簡単に付いた。

 軍事機密な為にハッキング対策等は万全に取られた『QPS』だが、未知のハッキング技術である『ハイヒューマン』のハッキング能力を前にしては、どんな“ファイアウォール”でも阻止する事は不可能だろう。

 そんな事を考えている場合では無かった。早く『QPS端末』を回収しなければ。

 薫は地を這うようにして端末に飛び付くが、一瞬遅かった。

 端末は女性に拾われ、左手首に巻き付けられた。


「馬鹿な真似はよせ! 今なら未遂で済む!」


 薫は必死になって女性を止めようとするが、聞く耳を持ってはくれなかった。


「成る程、この表示を押せば良いのね。ーーーーー『QPS』起動」


 次の瞬間、女性は端末の表示をタップし、『QPS-P04』を起動した。

 刹那、薫の目に驚愕の光景が映った。

 彼女の体が光の粒子に包まれたかと思うと、瞬間的に『QPS-P04』を纏いナチスドイツ親衛隊をイメージして造られた黒いロングコートに軍帽といった出で立ちとなった。しかも、彼女の体に合うよう全てのプログラムを書き換えフィッティングしている。

 薫は『QPS-P04』を完全に奪われたのだ。

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