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第19話

 『QPS-P04』を取り返し、強奪した張本人である千本木琴乃も無事に逮捕され病院へ連れて行かれ、全てが終わって大団円。とは、問屋が卸さなかった。

 率直に言うと、的場薫は怒られた。

 滅茶苦茶、これでもかというくらいに怒られた。

 軍警察に怒られ、地元警察に怒られ、『咲浪学園』の学園長に怒られ、メグ叔母さんこと的場恵にも散々怒られた。メグ叔母さんに関しては、怒られた上に泣かれもした。

 覚悟はしていたとは言え、相当精神に響いた。

 怒られた事よりも、メグ叔母さんを心配させた事に対しての罪悪感が酷かった。軍や警察から連絡を受けた時のメグ叔母さんの気持ちを考えると、今回の行動は軽率であっただろう。いや、どう考えても軽率だった。

 『適性銃器』一挺で、よく『QPS-P04』と戦って無事に帰れたものだ。今回は幸運に恵まれたのだろう。

 さて、一夜明けて新しい朝が来たけれども、メグ叔母さんの機嫌は治って無かった。当然と言えば当然であろう。


「あ、この芸能人、結婚したんだね」


「ニュースなんて見てないで、さっさとご飯を食べて、とっとと学校へ行きなさい。そして真っ直ぐ家に帰りなさい。いいわね?」


「い、イエス、マム」


 朝からこの調子である。

 結果として、薫には法的には何のお咎めも無かった。唯一の罰と言えば、メグ叔母さんから下された外出禁止令くらいであろう。

 外出禁止って日本でもあるのだな、と薫は思った。

 それは兎も角、『QPS-P04』を奪還した薫だが、それで軍のインターンに復帰出来る事は無かった。一度クビになった以上、二度と戻る事は出来ないようだった。

 仕方無い事だろう。

 何せ軍事機密を奪われただけでなく、無断で『適性銃器』を使用し、戦闘を行ったのだ。むしろ咎が無かっただけでも幸運だろう。酷くすれば法的に裁かれていたかも知れない。


「行ってきます」


 何はともあれ、薫の心残りは無くなった。と言えば嘘になるが、これからは普通の高校生として生活し、平和な日常を送れる事だろう。

 初夏の日差しに射たれながら、薫はいつもの無人駅に足を踏み入れた。

 そこにはいつも通り、サラリーマンが居るだけの何の代わり映えもしない光景があった。


「薫くん、おはようございます!」


 突如として現れる三科凛子も、いつも通りの事だ。

 彼女は今日も不気味な程に美しい。汗ばむ朝日など気にする素振りすらなく、むしろ涼しげである。


「おはよう、凛子さん。今日も遠い所からご苦労様」


「定期券買っちゃってますからね。ーーーーで、いつにします? 私はいつでも構いませんよ?」


 唐突に三科凛子は分けの分からない事を言ってきた。


「何の話し?」


「殺し合いですよ!」


 大声で言うべきでないワードを大きな声で言った三科凛子。少し離れた場所で電車を待っていたサラリーマンが、訝しむような視線をこちらへ向ける。


「凛子さん、声のトーンを落として」


「あ、これは失礼しました。けど、ひょっとしなくても忘れてましたね?」


 三科凛子の指摘通り、すっかり忘れてしまっていた。

 そう言えば、情報提供の対価として殺し合いをする約束をしていたのだった。あの時は安易に約束してしまったが、今となっては厄介な約束をしてしまったと後悔している。

 これ以上、メグ叔母さんを心配させるような事はしたくなかった。が、そんな理由で約束を反故にさせてくれるほど、三科凛子は甘くない。

 さて、どうやって断るものか。

 薫が思案していると、何処からか軽快な電子音が聞こえてきた。


「あら、電話ですね。ちょっと待ってて下さい」


 電子音の正体は、三科凛子の携帯電話だったようだ。

 彼女は鞄の中から端末を取り出すと、ディスプレイに表示されている名前を見て怪訝な面持ちとなった。


「はいーー嫌です。ーーーーだから、嫌だって言ってるじゃ無いですか。ーーーーそれは…………分かりました。詳しい情報は後で送って下さい。では」


 三科凛子にしては珍しく反抗的な態度だ。いつも不気味な程にニコニコしているというのに。


「はぁ、薫くん、残念なお知らせです。殺し合いは延期になりました」


「へ?」


「急な任務が入って、今から駐屯地に出向かなければならなくなりました。暫く、日本を空けます」


「そうなんだ」


 これは思っても見ない幸運である。

 まさか三科凛子の方から、意味の分からない殺し合いを辞退するとは。それも暫く日本を空けるならば、付きまとわれる心配も無くなる。


「何か嬉しそうじゃ無いですか?」


「いえ、お仕事、頑張ってね」


「分かりました。気乗りしませんがね。殺し合いは、私が日本に帰ってきてからにしましょう」


 本当に気乗りしないのか、三科凛子は面倒臭そうに携帯端末を鞄に入れると、「では、ごきげんよう」と言って“超高速移動”能力を使って消え去った。

 薫はサラリーマンの目など気せず、一人ガッツポーズを決めるのであった。

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