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第17話

 数メートル離れていた距離を一瞬の内に縮めた『QPS-P04』は、的場薫の腹部目掛けて拳を突き上げた。

 薫は紙一重で避けると、バックステップで距離を取り、右手に一発の銃弾を喚び出して『M1894』レバーアクションライフルの右側面の給弾口に入れレバーを捻る。


「千本木さん、かなり痛いけど我慢して下さい!」


 早口にそう告げると、千本木琴乃の右膝へ照準を合わし銃爪を弾いた。刹那、発砲音と共に先程装填した弾丸が撃ち出された。

 弾丸は『QPS-P04』の絶対防御である『エネルギーシールド』を貫き、千本木琴乃の膝を撃ち抜いた。


「馬鹿な!? 『エネルギーシールド』が破られるなんてーーーー!」


「何も不思議な事は無い。僕は『QPS』の元装着者で『ガンスリンガー』だ。どうやったら、どんな銃弾なら『エネルギーシールド』を突破出来るか、直ぐに想像が付く」


 なんて、強がりは言ってみたが、一か八かの賭けだった。

 まさか、本当に上手く行くとは思いもしなかった。

 薫オリジナルの『特殊徹甲弾』は、思い通りの威力を発揮してくれたようだ。これで不可視の防壁に悩まされる事は無い。

 薫はスループレバーを連続で捻りチューブ式マガジンに納められた銃弾を取り除くと、先程と同じ銃弾を給弾していく。


「例え人工知能が体を乗っ取ったとしても、生身の人間がパワードスーツを扱ってるんだ。膝を撃ち抜かれたらパフォーマンスは下がるだろう」


「まだだ! まだ私は負けていない!」


 『QPS-P04』は思い通りに動かない右膝を引きずりながら薫から距離を取ると、ストレージから『QT-MG42』軽機関銃を取り出した。

 不味い、と思った薫は軽機関銃を弾き飛びそうと狙撃するが、横っ飛びに避けられてしまった。

 パワードスーツを着ていない薫に取って、一手のミスが即死に繋がる。

 『QPS-P04』は床を転がるように着地すると、『7.92×57mm対不死人(アンデッド)弾』を撃ち放った。独特な銃声と共に毎分千二百発の速度で撃ち出される弾丸が薫を襲う。

 薫は無我夢中で射線から逃れようと走り、二階の高さなど関係無く窓から飛び出した。あの人工知能の手繰る軽機関銃から逃れるには、人間がやらないような行動を取るしか無い。着地する瞬間に体を丸め、衝撃を分散しながら地面に激突したのは良いが、かなりの痛みに見舞われた。


「あイテェ!」


 けれど、五体満足で“ヒトラーの電動ノコギリ”から生還する事が出来た。

 しかし、痛みで身悶えている間に、『QPS-P04』が二階から飛び降りて来た。


「今度は、逃がさない」


「あぁ、不味いなぁ…………」


 薫は素早く立ち上がると、レバーアクションライフルを構える。

 それより一瞬早く、『MG42』が火を噴いた。凄まじい発砲音と共に高速で撃ち出される弾丸は、しかし、薫を射抜く事は無かった。


「まだ私の邪魔をするか! 『ハイヒューマン』!」


 千本木琴乃が力を使い、照準をずらしてくれたようだ。

 絶好の機会。

 薫はライフルのアイアンサイトの照準を“ヒトラーの電動ノコギリ”へ向け、『7.62×52mm特殊徹甲弾』を撃ち放つ。その一撃で軽機関銃を破壊し、同時に彼女の右腕を撃ち貫いた。


「随分と簡単にこの『ハイヒューマン』を傷付けるものだな? 分かっているのか? 私を攻撃することは、すなわちこの『ハイヒューマン』を攻撃するという事なのだぞ?」


「分かっているさ。まぁ、僕も彼女には痛い目を見せられたからね。お互い様さ」


「いいや、お前は分かっていない。私を攻撃し続けるという事は、この『ハイヒューマン』を殺すという事だ。お前に人殺しは出来るのか? ただ操られているだけの、憐れな人間を殺す事が出来るのか?」


 痛いところを突かれる。

 確かに薫は千本木琴乃に恨みはあれど、殺すほどの事では無い。いや、例え彼女が世紀の大悪党だったとしても、『不死人』で無い限り殺す事は出来ないだろう。

 人が目の前で死ぬのは、もう嫌だからだ。


「それがお前の弱点だ」


 『QPS-P04』はスコープを撃ち抜かれた『QT-Kar98K』を喚び出した。スコープは壊れていようと、HUDにターゲッティングサイトがあるので関係無い。

 さて、薫はどうするか。

 勿論、千本木琴乃は殺さない。

 生身の人間がパワードスーツ相手に殺さずに取り押さえるなど正気の沙汰では無いが、今、薫が止めなければいずれ他の『ハイヒューマン』や軍隊に殺されてしまう。

 ふと、薫の視力がある単語を捉えた。転んでもただでは起きないか、と唇の端を吊り上げながら、『M1894』レバーアクションライフルを構えた。


「また武器を弾くか? それで戦闘能力を削いでいるつもりか? それとも活動限界時間を狙っているのか? だとすれば、それは安易な考えだ。時間が切れる前に、お前を殺す」


「いや、今度の狙いは『QPS-P04』、お前自身だ」


 薫は新しく銃弾を喚び出すと、ライフルに込める。

 これが上手く行かなければ、他の手を考えるまで。

 薫は深呼吸を一つすると、アイアンサイトの照準を合わせる。数メートルの距離だが、狙うのは数センチメートルの物体。外したら、彼女の命が危険に晒されるだろう。

 銃弾は一発。

 チャンスは一度きり。

 薫は照準をピタリと合わせると、銃爪に掛けた指に力を込めた。撃鉄が落ち、雷官を叩く。

 刹那、撃発。

 『7.62×52mm特殊徹甲弾』が射出される。

 弾丸は寸分違わず、狙った場所に命中した。

 その瞬間、『QPS-P04』が光の粒子と成り始めた。


「な、何だ!? 体がーーーー!?」


 『QPS-P04』は自身の異常に慌ててふためく。

 千本木琴乃はしたたかな女性だ。

 例え人工知能に支配されていようとも、彼女は薫の為に最大のチャンスを産み出してくれたのだ。

 薫の放った弾丸は、彼女が『QPS端末』を操作して表示した“緊急停止”の表示をタップしたのだった。

 薫は安堵の溜め息を吐きながら、スループレバーを捻り空となった薬莢を排出する。その間に、『QPS-P04』は『QPS端末』のストレージに収納されていく。


「いいでしょう。今日は私の負けだ。しかし、私は間違っては居ない。人間社会の安寧の為に、『アンデッド』と『ハイヒューマン』は駆逐せねばならない」


「それも所詮、借り物の言葉だ」


 やがて光の粒子は『QPS端末』に完全に収納され、自由の身となった千本木琴乃はその場に膝から崩れ落ちた。

 “人間社会の安寧の為に”と人工知能は言ったが、そんなものは夢物語に過ぎない。事の善悪はいつも複雑で、正義は人によって違うのだ。

 しかし、それを機械に委ねてしまうと、瞬く間に偽善となる。

 だから、人は人として想い、悩まなければならない。

 それをこの人工知能は、人工知能を造った製作者は、分かっていないのだ。


「あぁ、もう! 最悪! クソ痛い! よくも穴だらけにしてくれたわね?」


 千本木琴乃が風穴の空いた手足を押さえながら、薫に恨み言を言う。

 薫はライフルを構えたまま彼女に近付き、「端末を外して、腹這いになれ」と命じた。彼女は素直に従ってくれた。


「だから言ったでしょ。それは素人に扱える代物じゃ無いって」


 薫は端末を回収し苦笑しながら彼女に手錠を掛けようと腰に手を当てるが、そこには何も無かった。


「ちょっと、逮捕するならさっさとしてよ」


「ごめん、僕には逮捕する権限はありませんでした。つい先日、クビになったもので、手錠も何もかも取り上げられてまして…………」


「はぁ? じゃあ、貴方のした事ってーーーー」


「完全に違法行為ですね…………」


「何それ? 貴方って本当のバカなの?」


 溜め息を吐く薫が余程面白かったのか、千本木琴乃は腹這いのまま大口を開けて笑った。それが傷に響いたのか、時折苦悶していたのだった。

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