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第15話

 “シモ・ヘイヘ”という狙撃手の事はご存知だろうか。

 的場薫の狙撃技術は彼を参考にしました。

 実際問題、レバーアクションライフルが狙撃に向いているのかは分かりませんので悪しからず。

 『適性銃器』である『M1894』レバーアクションライフルの構えを解いた的場薫は、近くにあったパイプ椅子に座り一息吐いた。

 『QPS』の恩恵無しの狙撃は久し振りであったが、まだ腕は錆び付いていないようだ。取り敢えず、あの双子の馬鹿息子共を救出出来て良かったと言うべきか。

 しかし、三科凛子が戸嶋兄弟の救出に乗ってくれたのは予想外だった。てっきり、もうどうでも良い存在なのだとばかり思っていた。

 彼女曰く、あの馬鹿息子のどちらかがグループ会長の座に座ってくれれば、三科工業株式会社としては扱いやすいらしい。政略というのだろう。

 三科凛子の父で、三科工業株式会社の社長である人物は、どうやら相当な野心家のようだ。

 それは兎も角、あの千本木琴乃という人物は、既に『エインヘリアルシステム』に呑み込まれてしまったと見て間違いない。

 あの中華料理店は『不死人(アンデッド)』だけでなく、普通の一般人も出入りしている。それを度外視しての攻撃なんて、多少の犠牲を省みない人工知能のやりそうな手だ。多数を助ける為に少数を犠牲にする。胸糞悪いが効率的である。


「…………来たか」


 不意に窓に引かれたカーテンが風に揺られた。

 それと同時に、薫の目の前にナチス親衛隊の姿をした女性が姿を現した。

 恐らく『加速(アクセル)』を使い現場からここまで一気に走り抜けて来たのだろう。


「驚いた。本当にスコープ無しで狙撃していたのね?」


 ナチス親衛隊の姿をした女性、千本木琴乃は、薫の『適性銃器』である『M1894』を見て目を丸くした。


「千本木琴乃、君は『エインヘリアルシステム』に呑み込まれている。直ぐにスーツを外すんだ」


 薫はパイプ椅子から立ち上がると、ライフルを構えながら警告を発した。

 予想通り、千本木琴乃は薫の警告など取り合わない。


「バカを言わないで、二等兵。あ、元二等兵でしたね。私は“あらゆる電子機器を操る”能力を持っている『ハイヒューマン』よ。システムに操られる事なんて無いわ」


「いいや、君は既にシステムの影響を受けている。その証拠に、一般人を巻き添えにした『アンデッド』への攻撃や、『ハイヒューマン』の殺害未遂が上げられる。元々、君はそんな人間では無い筈だ」


「貴女に何が分かると言うの? 私は私の意思で堕落した『アンデッド』を駆逐し、傲慢な『ハイヒューマン』を殲滅しているの。全ては“人間社会の安寧の為に”行っている事よ」


「そうかな? よく考えて見ろ。その感情の出所は本当に君の中からなのか?」


 薫の指摘に、千本木琴乃は頭を抑えた。

 頭痛だろう。

 恐らく『エインヘリアルシステム』は、何らかの方法で彼女に催眠術を掛けたのだろう。


「…………そうね、カレン。これ以上、彼との会話は無益。障害になるなら排除するのみ」


 “カレン”とは恐らく『エインヘリアルシステム』の人工知能の事だろう。

 薫が使った時も、ターナーとは別の人工知能がパワードスーツを制御していた。

 そして薫に命じた。

 堕落した『不死人』を駆逐せよ。

 傲慢な『ハイヒューマン』を殲滅せよ。

 全ては人間社会の安寧の為に、と。


「千本木琴乃、君は何らかの方法で暗示を掛けられている。心当たりがある筈だ」


「黙れ! うるさい奴め! あの時、殺して置けば良かった…………!」


「そう、君は無意味に人を殺す事はしない。あの時、僕を殺さなかったのは、君が僕を脅威と見なさなかったからだ。だが、今の君はどうだ? 僕は君にとって脅威となり得るか? 生身の人間である僕は、君の存在を脅かす要因になるか?」


「黙れと言っている!」


 次の瞬間、千本木琴乃はホルスターから『QT-P08』自動拳銃を抜き放ち、銃口を薫に向けた。が、その行動は遅かった。

 薫は『M1894』のアイアンサイトの照準を合わせ、トリガーに掛けた指に力を込めた。刹那、撃発。『7.62×52mm弾』が撃ち放たれ、彼女の拳銃を弾き飛ばした。


「クッ、また…………」


「今、僕の事を脅威と感じているのは君では無い。僕を脅威と感じ抹殺しようとしているのは、そして今まで『アンデッド』や『ハイヒューマン』を攻撃していたのは、『エインヘリアルシステム』! お前だろ! 本性を現せ!」


 薫はトリガーガードと一体となったスループレバーを捻り薬莢を排出しながら、千本木琴乃を支配する『エインヘリアルシステム』に言い放った。

 瞬間、辺りは静寂に包まれ、地面に落ちた薬莢の金属音がやけに響いた。

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