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第14話

 狙撃の次は絶大な能力を持つ『ハイヒューマン』の登場か。

 あの双子の腕前を見た時は過小評価されたと思ったが、どうやら違ったらしい。これは随分と過大評価して貰っていたようだ。

 千本木琴乃は自身の『適性銃器』である『Honey Badger』突撃銃を喚び出すと、少女に銃口を向け構えた。が、またもや銃声が鳴り響いたと思えば、突撃銃を弾き飛ばされた。あの狙撃手である。

 琴乃は雑居ビルの死角になる位置に身を潜めた。


「凄いでしょ、あの子の狙撃は。知ってますか? スコープ無しで狙撃しているのですよ」


「嘘でしょ?」


「本当ですよ。何でも昔から狙撃手に習ってるらしくて、二百メートルくらいなら肉眼でヘッドショットは楽勝だそうです」


 少女は言いながら、戸嶋兄弟の兄の方へ足を運ぶ。


「狙撃に特化した『ハイヒューマン』って事ね?」


「いいえ、彼は人間ですよ。『適性銃器』を身に宿した、普通の人間です」


 少女は驚くべき発言をした。

 普通の人間が、スコープも無しで、二百メートルの距離を狙撃したと少女は言った。

 本当にそんな事が可能なのか。いや、現に琴乃は三度も武器を狙撃されている。信じる他に無い。


「誰なの? あのスナイパーは?」


「貴女も一度会っている人物ですよ。『適性銃器』、レバーアクションライフルと言えば、分かりますか?」


 『適性銃器』にレバーアクションライフルと言われて思い至るのは、一人しか居なかった。同時に、信じられないという思いが強くなる。


「まさか、あの二等兵が?」


「“元”二等兵ですけどね。今となっては」


 少女は戸嶋兄の傍らに屈み込むと、銃創に手をかざした。刹那、まるで時間を巻き戻すように、弾丸が取り出され傷が癒えて言った。

 戸嶋兄は二度三度と咳き込むと、何事も無かったかのように起き上がった。


「凛子、お前…………」


「さっさと弟を連れて逃げなさい。人も殺せない癖に手柄を焦るから、そうなるのですよ」


「黙れ! 俺はまだーーーー」


「黙るのは貴方です。言う通りにしなければ、次は助けませんよ」


 少女に気圧された戸嶋兄は、弟の亡骸まで歩くと背負うように担ぎ上げ、瞬く間に消え去った。

 どうやら戸嶋兄の能力は“超高速移動”だったようだ。

 先程、突然琴乃の前に姿を現したのも納得出来る。


「さて、これで私の仕事は終わりました」


 少女はやれやれと首を横に振ると、踵を返してその場を去ろうとする。


「待て! 貴女は私からこのパワードスーツを奪い返しに来たんじゃ無いの?」


「いいえ。私はただ、憐れな双子の兄弟を助ける為に来ただけですよ。あの二人に死なれると、私のお父様が困りますから。あ、因みに弟の方は“自己回復”の能力を持っているので、心臓を撃ち抜いても意味はありません。今度は頭を狙って下さい」


 それだけ言うと、少女は本当に立ち去ろうと背を向けた。


「待ちなさい!」


「何ですか?」


「貴女、あの二等兵の事を“元”と言ったわね? 軍を辞めたの?」


「貴女がパワードスーツを強奪したせいで、クビになったのですよ。今ではただの高校生なのに、そのスーツを奪い返そうと躍起になってる」


「成る程、それで私を恨んでいるのね?」


「フフッ、彼の事を甘く見ないで下さい。彼はそんな狭量な人間ではありませんよ。彼はただ、貴女にパワードスーツを盗まれた事を悔やみ、責任を感じ、そして貴女の身を按じてパワードスーツを取り戻そうとしているのです」


「私を心配してるって?」


「そう。『エインヘリアルシステム』を起動しましたね?」


 少女の口から思わぬ単語が出てきた。

 恐らくあの二等兵が教えたのだろう。


「それが、何だと言うの?」


「貴女が『不死人(アンデッド)』を殺す理由は、本当に貴女の感情でしょうか? ましてや、『ハイヒューマン』を殺す理由は、貴女には無いのでは?」


「それは! 人間社会の安寧の為に…………」


「それは貴女が本心から願う事ですか?」


 少女の言葉が、琴乃の頭に深く突き刺さる。

 頭が痛い。

 これ以上、彼女と話していると、琴乃の何かが壊れてしまう気がした。同時に、壊してしまわなければならないとも。


「まぁ、詳しくはあそこに居る彼に聞いてみる事ですね。貴女を突き動かすその感情が、本当に貴女だけの物なのか」


 確かめるとは、何を確かめろと言うのか。

 この感情は確かに琴乃の内から溢れる物だ。

 堕落した『不死人』に死を。

 傲慢な『ハイヒューマン』に制裁を。

 それは琴乃がCIAに居た頃からーーーー

 また頭痛が酷くなった。

 どうしてか、自分の感情と向き合おうとすれば頭が痛くなる。


「琴乃様、彼女との会話は無益です。彼女は傲慢な『ハイヒューマン』。ここで処断すべき存在です」


「そうね。貴女の言う通りよ、カレン。私は、人間社会の安寧の為に、貴女を殺す!」


「人工知能に操られているとも知らずに、憐れな人ですね?」


「黙れ!」


 琴乃は激昂しながらも、『適性銃器』を再度手中に喚び出し少女を銃撃する。

 しかし、一瞬早く少女の姿が掻き消えた。『加速領域』に入って、この場から立ち去ったのだ。


「クソッ、逃がしたか…………」


 あの『ハイヒューマン』を殺せなかったのは残念だが、まだやることがある。

 けど、今日は頭痛が酷い。

 それに武装の損害も微々たるものだがある。

 ここは一旦、アジトに戻って体勢を立て直すべきだ。


「カレン、アジトに戻るわ。ルートを検索して」


「了解しました」


 直ぐにHUDの縮小地図にルートが表示される。

 琴乃はそのルートを眺めながら、ふと一つの事が気にかかった。あの二等兵の事である。

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