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第50話「笑ったんだ」

本河津高校、反撃開始。

外木場の蹴ったボールが、直登たちの作った壁のわきを抜けていく。速く鋭いカーブがかかり、回り込むようにゴールの左ポストへ向かう。


「あ」


ほんの一瞬、虹が見えた気がした。


「ふおおおおっ!」


梶野が雄たけびをあげてボールへ飛びつく。

ボールはポストの内側に当たり、梶野の手とすれ違うようにゴールネットへ飛び込んだ。


ネットが波打つところまで、すべてがゆっくりと克明に見えるほどに、俺は外木場のフリーキックに目を奪われていた。


数分前、俺のフリーキックがGKに止められた後、外木場は俺に近づいてきてこう言った。

「君のフリーキック、楽しみにしてたんだけど、意外と普通だね」

そして前歯を見せ、ニッと笑ったんだ。


自陣へ走っていく外木場と目が合った。ヤツは前歯をむき出しにして笑い、俺に向かって両手をピストルの形にして「バン」と銃口を上げた。


本河津高校 0-1 国際大付 得点 外木場。


「くそくそくそっ!」

みんなが自分のポジションにのろのろと戻る中、GK梶野は一人地面を殴っていた。俺はゴールへ近づいていく。

「梶野」

「すまん、藤谷!俺、二試合連続で二失点して、今日は絶対に無失点にするって思ってたのに」

への字口がぷるぷる震えている。

二試合連続二失点を気にしてたのか。普段顔に出ないから気づかなかった。

「あれは誰も止められない。認めたくないけど、すごいフリーキックだ」

俺は振り返り、チームメイトとハイタッチしている外木場を見つめる。

「でもよ」

「だから、地面殴って手を傷めたりしないでくれ。フリーキック以外はしっかり止めてるってことなんだし」

梶野は大きく息をつくとちょっとだけ笑顔を取り戻し、俺に戻れと手を振った。


センターサークルに向かうと、先に9番がボールの前に立っていた。

「冬馬」

ポンと肩を叩く。

「つっ」

冬馬は一瞬体を固くして、声を上げた。そんな強く叩いたつもりはないけど。

「お前、またどっかケガしたのか?」

言うと、冬馬は俺をジロリとにらんで、

「またって言うな、バカ!隠した意味無いだろうが」

と小さく鋭い声で言った。

「あ、そうか。すまん。でも、どっか痛いのは確かなんだろ?」

「あいつだ」

冬馬は親指で国際大付の背の高い選手をさした。5番の山寺という選手だ。モミアゲがやたら長くていやらしい半目をしている。すごく感じ悪い。

「あいつが何だよ」

「審判の見えねえところで、ヒジやらヒザやら体にガシガシ入れてきやがるんだ」

「何だと」

山寺をにらむ。一瞬目が合ったような気がしたが、俺に関心など無いような態度でゴール前に戻っていく。冬馬の動きがイマイチに見えたのは、あいつのラフプレーが原因だったのか。

「主審に言おう」

「やめとけ。現場目撃させなきゃ無理だ」

「痛むのか」

「たいしたことねえよ。でも、俺には指一本触れるな」

つまり痛むんじゃないか。ハーフタイムに江波先生に見てもらおう。


「キャプテン!」

その時、能天気な大声と共に、伊崎がこちらに走ってきた。

「おお、伊崎。あのな」

「どーん!」

言い終える前に、伊崎は俺と冬馬に両手を広げてぶつかってきた。

「がっ……!」

うめき声をあげて冬馬がひざをつく。俺は伊崎の腕をつかんで頭にチョップした。

「いきなり何するんだ、お前は!」

伊崎は涙目で頭をなでながら、

「ひどいですよ、キャプテン。先制されて沈んだムードを変えようと、俺なりに考えたのに」

と口をとがらせた。

「別に沈んでないし、しょーもないこと考えなくていい。先制されて痛いのは確かだけどな」

「ところで、冬馬先輩は何で両ヒザついてるんですか?」

「て、てめえ……後で覚えてろよ」

ぷるぷる震えながら冬馬は立ち上がる。試合中に何をしてるんだ、こいつらは。


それでも俺は、目の前で見事なフリーキックを決められたショックが幾分やわらいでいるのを感じた。伊崎の気づかいは効果があったみたいだ。

ちょっとだけな。


俺たちのキックオフから試合が再開する。ただでさえカウンター狙いのチームがセットプレーから先制したのだ。予想通り、国際大付は無理に攻めこんでこなくなった。


監督の虎谷という人は、パリッとしたスーツを着ている白髪頭のおじさんだ。意外と熱い人のようで、さっきからエリアギリギリまで出てきて大声で指示を送っている。熱い人なのにガチガチの守備戦術をとる監督。よくわからない。


俺はモト高のベンチを見る。うちの監督、毛利先生は、ベンチコートを着て脚を組み、アゴに手を当てて何か考えている風で座っている。見た目はいいから絵になっている。でも何も考えてない。


「キャプテン!」


右サイドの皆藤からボールが回ってくる。相手の中盤はそれなりにチェックはしてくるものの、深追いはしないという距離感だ。さっきフリーキックを決めた外木場も前線からの守備どころか退屈そうにチンタラ歩いている。

とにかく、相手のCB二人を何とかして動かさないと何も始まらない。


俺はドリブルで中央に走った。相手の守備的MFと、10番の松内が寄ってくる。この松内という三年の選手は、黒目の小さい三白眼で唇も薄く、冷淡な印象がある。当たりも割と激しい。


「おらああっ!」


松内が体をぶつけるようにボールを奪いにくる。俺はいったん背中を預け、くるっと振り返る瞬間、右足で軸足の向こう側にボールを転がし、松内の視線がそれたところでダッシュした。伊崎がDFラインを上下してタイミングを伺う。冬馬はCBの陰に隠れている。

足元にボールが戻ってくる。俺はダイレクトで二人のCBの間を狙ってスルーパスを送った。

伊崎がパスに合わせて走りだす。DFの間から現れた冬馬がワンタッチで方向を変える。ボールはちょうど伊崎の前へ。ほんの一瞬、相手DFの反応が遅れる。

DFが追いつく寸前、ゴール前に抜けだした伊崎がボールを射程圏にとらえた。キーパーが前へ出る。伊崎の右足がボールを弾く。

ふわっと浮かんだボールが、飛び出したキーパーの頭上を越えた、かに見えた。


「ふうんっ!」


気合の声と共に、国際大付GK千賀の長い右腕が伊崎のループシュートをはたき落とす。バウンドしたボールがゴール前に跳ね上がる。


「うらああっ!」


こぼれたボールに向かって叫びながら走る赤いユニフォームの11番。長い髪をなびかせ、菊地がボールへ突っ込んだ。

「ふんっ!」

青と黒のユニフォームが、タッチの差でボールを大きくクリアした。キャプテンの実松だ。

「上がれえっ!」

左サイドにクリアされたボールを、上がってきた左SBの安藤が受ける。うちの右SB狩井が対峙している。


「あ」


センターラインから少し上がった場所。まだクロスを上げるには早すぎる。なのに安藤は左足を思い切り振り抜いた。

ボールが大きな弧を描いて狩井の目の前をかすめていく。ゴール前には直登と金原が待っている。金原がジャンプの準備をして、直登が後ろに回る。9番の左右田が金原に合わせてジャンプする。しかし高さで金原が勝り、ボールを弾き返す。落下地点には黒須が待っている。


「黒須!」


俺が声をかけると同時に、黒須の眼前を国際大付のユニフォームが通り過ぎた。外木場だ。

胸トラップで一瞬にしてボールをかっさらい、足元に落とす。直登が詰める間も無く、外木場は踏ん張った右足で方向を変え、素早く左足を振り抜いた。

さっきのフリーキックとほぼ同じ軌道がゴール左上に向かう。やばい。


「ふおおおっ!」


ゴールに吸い込まれるかと思った瞬間、横っ飛びした梶野の右手がボールを弾いた。

「よしっ!」

ボールはゴールラインを割って転がっていく。

コーナーキックにはなったけど、助かった。外木場が頭を押さえて天を仰いでいる。

直登と金原に熱いハグを受けている梶野。

俺は「ナイスセーブ」と声をかけ、笑顔の梶野とタッチした。


直後のコーナーキックをしのぎ、逆襲に転じる。しかしGK千賀とCB二人の壁は厚く、なかなかチャンスを作れない。冬馬も山寺の荒っぽいマークの前に沈黙したままだ。

そして何より、左サイドの菊地と銀次が、相手キャプテンの実松にほぼ完全に抑えられているのが痛い。しかしだからと言って、右SBの狩井まで上げてしまっては両サイドがガラガラになってしまう。それは避けたい。

前半も残りわずか。


「おりゃああっ!」


皆藤のマークをかわして、松内がミドルシュートを打ってきた。開けたコ-スにまんまと放たれたシュートを梶野がしっかりキャッチする。

銀次、菊地、皆藤、そして俺も相手陣内へ走り出す。

梶野が左サイドの銀次へ長めのスローイング。ワンバウンドしたボールを前に蹴りだし、ボールを追い越すスピードで左サイドを疾走する。菊地が銀次の動きを見て左サイドの深いところへ移動する。銀次をチェックに行った実松が菊地を振り返って、銀次との間に距離を取った。

それを見た銀次がスピードを維持したまま、左足を振りかぶる。


「ふんっ!」


銀次がインステップキックで思い切りボールを蹴り上げた。低いボールがうっすらと曲がりながらペナルティアークに向かう。俺はダッシュでボールに向かう。

これはクロスなのか、パスなのか。判断する間もなくペナルティエリア付近でトラップして真下にストンと落とす。


「キャプテン!」


詰めてくるDFの鼻先で、右サイドから上がってきた皆藤にパス。そして伊崎と入れ替わってDFラインの裏に抜ける。皆藤が俺のパスをダイレクトで戻す。


「わっ」


ボールを通り過ぎた!

「ほっ」

俺は遅れて戻ってきたボールをとっさにヒールで弾き上げた。

頭上を越えてきたボールが前方に落ちてくる。背後からCBが追いかけてきて、前からはGKが飛び出してきた。

眼前でワンバウンドしたボールを、右のアウトサイドでふわりと浮かせる。ボールはGKの伸ばした手を越えていく。俺は濡れた芝の上にひっくり返った。

入った!

そう思った瞬間。


「ぬおおおっ!」


ゴールラインギリギリに、青と黒のユニフォームが滑り込んだ。10番の松内だ。俺のループシュートは松内の伸ばした脚に弾かれて宙に浮いた。

ダメか。


「イイイイイヤッホオオオウッ!」


右サイドから、とんでもない奇声を上げてうちの8番が突っ込んでくる。両チームの選手が密集する中、ボールの落ち際に頭から飛び込んでいく。ボールは皆藤の頭にバチンと弾かれ、低くバウンドした後、GKの手をすり抜け逆サイドのゴールネットを揺らした。

ベンチから歓声が上がる。俺は濡れた芝から立ち上がり、グラウンド中を走り回る皆藤を追いかけるために走り出した。

やっと、やっと、同点だ。


本河津高校 1-1 国際大付 得点 皆藤。


「皆藤君、偉い!よく詰めた!」

同点のまま前半が終了し、俺たちはベンチに戻った。日差しが戻ってきたとはいえ、気温は低いので腕が冷えている。広瀬は戻ってきた皆藤をフカフカのスポーツタオルで迎え、髪をふいてやっていた。皆藤も見たことのないだらしない笑顔でしゃべっている。

……いいなあ。あそこまでチャンス作ったの、俺なんだけどな。

俺はタオルで体を拭きながらベンチに腰掛けた。

「お疲れ様、キャプテン」

顔を上げると、こばっちが控えめな笑顔で紙コップを差し出していた。

「おう、ありがと。これ何?」

言って、紙コップを受け取る。あったかい。

「ホットレモネード。今日は雨で冷えそうだからって、夏希ちゃんと作ってきたの」

「洒落てるなあ。いただきます」

一口すする。甘酸っぱい香りが熱とともに口中に広がり、レモンの果肉がプチプチと当たる。

「すっぱー。でもうまいな」

「本当?良かった!」

ホッとしたようにこばっちが笑う。その笑顔を見て俺は、気恥ずかしさと若干の罪悪感からつい目をそらしてしまう。

「そ、そうだ、こばっち。前半のデータ頼むよ」

「わかった。ちょっと待ってて」

大きめの保温ボトルをベンチに置いて、こばっちがタブレットを取りに行く。

奥の方では冬馬がユニフォームをまくり上げて、江波先生の診察を受けていた。

「うわ」

遠目に見ても、紫色になったアザが複数目に入る。あの山寺ってヤツ、何て汚い野郎だ。何とかやっつけてやりたい。試合前練習の時、広瀬にちょっかいかけてたこともついでに許しがたい。


こばっちがタブレットを持って戻ってきた。受け取ってデータを確認する。

守備はよくがんばっている。梶野も絶好調だ。黒須もあちこち動いて堅実に三角形を作って中盤を維持している。両サイドバックも自分の仕事はしている。

あと動きがイマイチなのは……。


「菊地」


長髪の後頭部に声をかけると、なぜか菊地はビクッと過剰な反応を見せた。

「な、何だよ」

「ちょっと話が」

「待て!」

菊地が振り返る。必死の形相だ。

「言いたいことはわかってる!俺は前半さっぱり働いてない。変えたくなる気持ちもわかる。当然だ」

「いや、俺は」

「だが待ってほしい。後半頭から変えられてしまったら、いかにもダメなデキで引っ込められたって感じになる。俺はそのままレギュラーを外された選手を何人も見てきた」

「いや、だから」

菊地が珍しく感情を込めて語っている。俺は一言、「もうちょっとがんばれ」と言おうとしただけで引っ込めるつもりは無かったんだけど。面白いからこのまま聞いていよう。

「後半15分まで待ってくれ!必ず一つは仕事するから。頼む!」

そう言って両手を合わせて頭を下げる。チクショウ、手元にスマホがあったら絶対写真撮ってるのに。

「わかった、期待してる。でもさっき同点にしたプレーは、お前が向こうのキャプテンの注意を引いて銀次に思いっきり蹴る余裕を作ってくれたからできたんだ。何もしてないわけじゃない」

俺が言うと、菊地は一つ咳ばらいをした。ちょっと耳が赤い。

「な、何だお前。ちゃんと見てるじゃねえか」

「そりゃキャプテンだからな」

「藤谷こそ、銀次の速いクロス、全然跳ねずに簡単にトラップしてたよな。あれはお前だからできたプレーだ」

「な、何だよいきなり」

ハーフタイムにお互いのプレーを赤面して誉め合うチームメイト。気持ち悪い。


「キャプテン!」

そんな気まずい雰囲気をぶちやぶるように、伊崎が大声を張り上げた。

「おお、伊崎。レモネードもらったか?うまいぞ」

助かった。

「もう三杯飲みましたよ!そんなことはいいんです。俺、考えたんですよ。前半と同じ攻め方じゃ突破口が開けないんじゃないかって」

「おお。何か考えがあるのか?」

俺はレモネードをすすりながら先をうながす。みんなも何事かと注目している。

「アレですよ、アレ。桜女との練習試合で俺とキャプテンで決めたアレ!」

桜女との練習試合。俺と伊崎で決めたシュート。

「ああ、アレか」

伊崎が目を輝かせて両こぶしを握る。

「そうです、アレです!インドラの矢です!」

レモネードが鼻に逆流して、俺は激しくむせた。そんな名前つけてたっけ?

「ゲフッ、い、伊崎、その名前はあんま大声で言うな」

「何でですか!?かっこいいじゃないですか」

伊崎の声のボリュームは変わらない。

「お、おい、藤谷」

金原が信じられないものでも見るような目をして、俺に言った。

「何だよ、その目は」

「お前、高二にもなってシュートに名前つけてるのか?」

「つけてない!伊崎にせがまれて、作戦名インドラの矢って言っただけだ」

「さ、作戦名!?」

俺の抗議はさらなる燃料となり、ひとしきりみんなにヒーヒー笑われてしまった。

恥ずかしい。流れを変えよう。

「そ、そうだ!菊地、今日はお前がそのシュートのラストパス出してくれ」

「別にいいけど、どうやるんだよ」

俺は手で球筋を表現しつつ説明した。

「こう、俺がお前のいる左サイドに長めのパスでサイドチェンジする」

「おう」

「そのボールをお前は、右のアウトサイドでダイレクトに合わせて、シュート回転がかかった低めのクロスボールをペナルティエリアギリギリに送る。あとはそこに伊崎がつっこんで合わせる。簡単だろ?」

「できるか!」

菊地がピシャリと言い返す。

「え、何で?」

「何でじゃねえよ!そんなプレーはお前だからできるんだよ。せめてワントラップから左で上げさせろ」

「でも、それじゃ遅いんでしょ?」

黙って聞いていた広瀬が口をはさむ。

「そうだな。あの実松って人は、攻撃にまわると怖くないけど、守備がうまい。トラップして持ち替えてたらつぶされるのは確実だ」

俺が後を受ける。菊地は口をとがらせ、頭をガリガリとかいた。

「わかった、わかったよ!やるだけやってみる。失敗しても責めるなよ」

「責めない。交代するだけだ」

「ひでえな、オイ!」


それから細かい打ち合わせをしているうちに、あっと言う間にハーフタイムが終わってしまった。

短い。短すぎる。


「芦尾」


俺は珍しくハーフタイム中黙って座っていた芦尾に声をかける。

「あん?」

気の抜けた顔をこちらに向ける。

「スタメンじゃなくても、俺はお前を戦力から外した覚えはない。そんな顔してないで、準備だけはしとけ。時間稼ぎでも何でも使い倒してやるからな」

「お、おう」

驚いたような顔で、芦尾はアップに向かった。


「未散」


そろそろグラウンドに出ようかという時、広瀬が俺を呼んだ。

「ん?」

「さっきのヒールリフト、良かった」

「そうか?お前派手なプレー好きだよな」

「うん。鳥肌立っちゃった」

言って、笑いながら自分の腕をさする。


……何て可愛いんだ、俺の片思いの相手は。


「外木場のフリーキックほどじゃないけどな」

「あれもなかなかだった。虹見えたし」

「マジでか」

一瞬見えたような気がしたのは、勘違いじゃなかったんだ。

「対抗して虹を出せなんて言わないけど、しっかりね」

パシン、と広瀬の平手が背中の10番を叩く。スナップの効いた毎度おなじみの一発は、肌寒いグラウンドへ戻っていくのに十分な燃料をくれた。


センターサークルにはすでに冬馬が立っている。前半にも見た、デジャヴのような光景だ。

「冬馬。江波先生に見てもらったか?」

「ああ。打撲だと」

冬馬は面白くもなさそうに答える。

「でも驚いたよ。お前ならあの山寺に食ってかかって、またイエローもらっちまうかとヒヤヒヤしてた」

実際一回戦で、つまらない小競り合いから一枚もらったことがあったし。

「んなことしねえよ」

「お前も大人になったってことか」

「はっ」

俺が言うと、冬馬は息を吐いて国際大付のゴール前をにらみつけた。

「あのクソ野郎を許すわけねえだろ。DFとして、最も屈辱的な目に合わせてやる」

そう言って、うちのエースは。


笑ったんだ。


つづく

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