第28話「君はただ、照れてるだけなんだよ」
茂谷直登、変身。
保健室のベッドに、茂谷君が目を閉じて横になっている。額には濡れたタオル。
ちょうど出勤していた江波先生の話では、炎天下でロクに休憩も取らず水も飲まなかったら倒れて当然だ、ということで、熱中症の二歩手前くらいだったらしい。
「本当に申し訳ない」
兄さんが江波先生相手に素直に謝っている。珍しい光景だ。
江波先生は意外にも怒ったりはせず、
「指導に熱が入るのは悪いことじゃないけどね。相手は生意気に見えてもまだ子供だってこと忘れないで」
と静かに言った。
「ついでに、校長や茂谷君の家に連絡するのもやめておく。部活中によくある体調不良で、病気とまではいえないから」
「何から何まで、申し訳ない」
何だか兄さんが小さく見える。マネージャーとして、茂谷君が倒れたことを怒ろうと思っていたけど、今回は見逃してあげよう。意地になって水を飲まなかった彼も悪い。
「それにしても、広瀬さんのお兄さんがプロ選手だったとはね」
江波先生が私に意地悪な視線をよこす。
「別に、隠してたわけじゃないんです。あまり自分からペラペラ吹聴することでもないし」
「それもそうだね」
先生は立ち上がって、顔ぶれを見回した。
「藤谷君は?茂谷君と友達なんじゃないのか」
「キャプテンと副キャプテンが両方抜けるわけにはいかないからって、私が任されました」
「ふーん。優しい子だと思ったけど、意外と冷めてるんだね」
「そんなことは」
言いかけて、私は未散の顔を思い出した。茂谷君が倒れた時の、何か取り返しがつかないことをしたような顔。あの後私とも目を合わせようとせず、「つきそってやってくれ」と言っただけだった。
「ま、いいけどね。私はちょっと席外すから、広瀬さんいてくれる?」
「はい、わかりました」
先生は保健室を出て行った。渋る兄さんも私は追い出して、茂谷君のベッドの側に丸イスを移動する。
私はその端正な寝顔に声をかけた。
「それで、いつまで寝たふりしてるつもり?」
茂谷君はパチッと目を開けて、私をジロリと見た。
「人聞きが悪いな。目を閉じて横になっていただけだ」
「それを世間では寝たふりっていうの。気分は?」
「まだ少し気持ち悪いけど、だいぶいいよ」
私は彼の額からタオルを取って、流しに持っていく。
「もう戻りなよ。僕は大丈夫だ」
「病人一人置いていくわけには行かないでしょ。チーフマネージャーですから」
もう一度濡らしたタオルを固くしぼり、茂谷君の額に乗せる。たたみ方が大きかったせいで、目まで隠れてしまった。
「ごめん。たたみなおす」
「いや、気持ちいいから、これでいいよ」
「そう」
しばらく会話が途切れる。そういえば、こんな風に茂谷君と二人きりになったことは無かった。いつも、未散か紗良ちゃんがいて、彼は黙って聞いている方だから。
「そういえば、広瀬さん。ずっと聞きたかったことがあるんだ」
茂谷君がおもむろに口を開いた。
「何?」
「何で、未散って呼ぶようになったんだ?」
「それは」
私は少し考えて、答えた。
「前から私に対して、ちょっと遠慮してるっていうか、距離を感じてたから。それを無くしたくて」
嘘はついてない。もちろん、それだけじゃないけど。あの夜の公園が思い出されて、私は少し居心地が悪くなる。
「その割に、君は広瀬のままだね」
「私は名前で呼ばれるのは恥ずかしいから、別」
「わがままだな」
「ええ。それが何か」
「開き直ったな」
茂谷君が笑う。普段はこんな軽口を言う人じゃない。それだけに、どこか痛々しい。
「未散は、どうしてた?」
「倒れる前に止めなかったこと、後悔してたみたい」
多分。でもあの顔は、それだけでもなかったような。
「もし未散が止めてたら、僕はサッカー部をやめてたよ」
「え」
思わず茂谷君を見る。でもその目は濡れタオルで隠れてしまっていて、どんな顔で言っているのか分からなかった。
「そんなこと、簡単に言わないでよ」
私は口をとがらせて抗議する。返事はない。
「……私も、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
話題を変えるように、私は言った。
「ああ。何?」
「未散と、どうして友達になったの?」
「はっきり聞くね」
少しだけ茂谷君が笑った。
「だって、タイプ全然違うし」
「そうだな」
言って、少し考えるように間を空けた。
「初めは、そんなに仲良くなかった。口をきいたこともなかったかもしれない」
ゆっくりと、話しだした。
小学校で同じクラスになったこと。
体育の授業でサッカーをやった時、未散に完敗したこと。
その後、友達になって同じクラブチームに入ったこと。
「小四で握手なんて、そんなキザなことしたの?私なら友達にならない」
私が言うと、茂谷君が声を上げて笑った。
「ひどいな」
「でも茂谷君も極端だね。今まで遊んでた友達、全員捨てて未散一本にするなんて」
「変?」
「変」
「広瀬さんは、経験ない?今まで信じてたものが、一瞬で価値のないものに変わるような瞬間。僕にとっては、それが未散のプレーだったんだ」
こんな風に、茂谷君が自分のことを語るのは初めてのことだった。私の中に少し罪悪感が芽生える。兄さんにボコボコにされて、精神的に弱っているところを利用したような。もちろん、そんなつもりはないけど。
「私は、価値がなくなるって感覚は無いかな。価値を感じてたものを、一瞬で取り上げられた方だから」
「そうか。悪い」
「ううん」
「でも、たまに思うんだ。僕が未散と友達になったのは、本当に友情なのかなって」
「どういうこと?」
私は聞き返した。
「つまり、こいつと友達になって味方になれば、敗北を味わうことがないっていう計算だったんじゃないかって」
「そうなの?」
「わからない」
どうして、そんなこと言うの。もしそうなら、未散があまりにも。
「だとしたら、僕は負けず嫌いなんかじゃない。負けるのが怖い臆病者だ。未散を応援するのだって、こんなすごいヤツが相手だったって思えば自分が負けた傷が浅くなる」
「やめて!」
自分でも驚くほどの声で、私はさえぎった。茂谷君が言葉を切る。
「……そんな寂しいこと、言わないでよ」
「そうだね。ごめん」
気まずい沈黙が私たちの間に横たわる。わからない。そんな、ニセモノの友情なんてあってほしくない。あっちゃいけない。
しばらくして、保健室の戸を誰かがノックした。
「はい」
私が答えると、聞き慣れた声がした。
「広瀬か。入っていいか?」
「……どうぞ」
未散が引き戸を開けて入ってきた。手には茂谷君のバッグと着替え。少しキョロキョロして、ベッドで濡れタオルを顔に載せている幼なじみを発見する。
「直登、気分は?」
「だいぶいいよ。マネージャーのおかげでね」
未散はちらりと私を見た。
「そうか。荷物持ってきた。今日はこのまま帰れ」
ずいぶんぶっきらぼうな言い方だ。
「分かった。そこに置いといてくれ」
茂谷君もそっけなく返す。未散はベッドの近くに着替えとバッグを下ろした。そして少しそわそわした様子になる。
「何?話したいなら、席外すよ」
私が腰を浮かせると、未散は手で制した。
「いや、いてくれていい。むしろいてくれないと困る」
言って、一つせきばらいする。
「直登に、謝りにきた」
一瞬の沈黙。
「……勝負を、途中で止めなかったことをか?」
茂谷君が言った。私は一瞬口を開きかけて、やめた。今は私の出番じゃない。そんな気がした。
「そうじゃない」
未散は言って、少し間を置いた。
「コーチがお前のプレースタイルを批判した時、かばえなかったことだ」
茂谷君がタオルを取って、ゆっくりと上半身を起こす。
「どういうことだ?」
「お前のスタイルは正しい。いつも冷静でバタバタせずに構えているから、金原も思い切って飛び出せてる。体を張らないのだって、そういう状況になるまでが勝負だとわかってるからだ。もしお前のスタイルに弱点があるとしたら、それは体を張れないことじゃなくて、初めて対戦する相手に様子を見過ぎることだ。油断したり、手を抜いてるわけじゃない。ましてや、負けることを避けてるなんてありえない」
未散の顔が赤い。
もし私が席を外して二人きりだったらとても言えてないだろう。
「……だから?」
茂谷君が先をうながす。そのクールな表情からは、彼の気持ちは読み取れない。それでも私には茂谷君の顔から暗い影と緊張が少しずつ抜けていくのを感じた。
「だから、コーチがいてくれる間、残ってる勝負の後一本で勝て。自分のスタイルで」
それだけ言い残し、未散は保健室を出て行った。
ぶっきらぼうで、突き放すような言い方でしか慰めることができない親友に、茂谷君は何を思ったんだろう。
でも、少なくとも私は。
「ねえ」
「ん?」
茂谷君がこちらを見る。
「私、何となく分かっちゃった」
「何が」
「茂谷君が、未散と友達になった理由」
「言ってみなよ」
私は少し意地悪く笑った。
「藤谷未散が、好きだから」
「は?」
「もちろん、変な意味じゃなくて」
「そんなこと聞いてないし、理由になってないよ」
「十分でしょ。負けないための計算とか、臆病者とか、そんなの全然関係ない」
「何が言いたい?」
私はじっと茂谷君の目を見る。そして笑った。
「君はただ、照れてるだけなんだよ。誰だって、親友のことは好きに決まってる」
茂谷君は「フン」と一言いって、再びベッドに仰向けになった。そして濡れタオルで目を隠し、
「練習に戻ってくれ。少し一人になりたい」
と言った。
丁度戻ってきた江波先生に茂谷君を任せ、私は練習場に戻った。
今はコーナーキックの練習をしている。
未散が蹴るコーナーキックを兄さんが全力で守備に当たっていて、かなりの頻度でボールを弾き返している。相変わらず大人げない。
私は紗良ちゃんと盛田先生がいるベンチに座った。
「茂谷君、どうですか?」
紗良ちゃんが聞いた。熱中症の手前というのは聞いているはずだから、質問の意味は体調ではなく。
「一人になりたいって」
「そうですか」
「盛田先生、毛利先生は?」
私は周りをキョロキョロ見回して言った。
「さっきの緊迫した雰囲気の時、倒れそうになって帰ったよ」
こともなげに先生が答える。そうか。私ももう驚かなくなっている。慣れって怖い。
「夏希ちゃん。私、気づいたんですけど」
紗良ちゃんがタブレットを触りながら言った。
「何?」
「茂谷君は、確かに泥くさいプレーはしないタイプです。でも、それはそんな状況になる前に食い止めようとしているからであって、決して手を抜いたり汚れるのを避けたりしてるわけじゃないと思うんです」
さっき保健室で、未散も同じことを言っていた。じゃあ、どうして。
「どうして、コーチはそこに気づかなかったんでしょうか」
私は思い出す。「茂谷君のようなタイプには、なじみがあるんだ」と兄さんは言った。
「似てるんだと、思う」
「誰にですか?」
紗良ちゃんが聞き返す。
「多分、兄さん自身に。だから、あんなやり方した」
悪役にはなりたくない、とも言った。嘘ばっかり。最初から、兄さんはこのチームのために悪役を買って出る気だったんだ。
未散が気をつかって言えないであろう同級生の菊地君と茂谷君をレベルアップさせるために。
菊地君は意地っ張りなところがあるけど、プロへの憧れもあるからまだ素直に聞いてくれた。でも茂谷君は、ストレートに本当の欠点を突いたら素直に聞いたとは思えない。兄さんがそうだったように。だからプレーで直接伝える方法を選んだ。
もちろん、茂谷君が倒れるまで意地を張るのは計算外だったと思うけど。
でも、何でそこまで。
「よっ」
背後から誰かが声をかけてきた。江波先生が、白衣のポケットに手をつっこんでツカツカと歩いてくる。
「茂谷君は?置いてきたんですか?」
私は聞いた。先生は心外、といった顔で、
「着替えて帰ったよ。何か思うところもあったみたいだしね」
と言って、練習に励むみんなを眺めた。
「全く、男の子ってのは面倒くさいものだね」
つぶやく江波先生に、紗良ちゃんが聞いた。
「どうしてですか?」
「意地だのプライドだの、こだわって気づかって。目的がチームの優勝なら、ただまっすぐ進めば良かろうに」
「違うよ、えばっち」
ずっと黙っていた盛田先生が立ち上がった。
「生徒の前でえばっちはやめてって何度も」
江波先生の抗議も聞かず、盛田先生は続ける。
「意地もプライドも不器用な気遣いも、その寄り道全てが青春なの!」
拳を握りしめ、高らかに宣言した。こんな恥ずかしいことを本気で言える先生が、まだこの学校にいたんだ。
私は紗良ちゃんと顔を見合わせ、二人で赤面した。
翌日。
サッカー部の練習場は朝からちょっとした騒ぎになっていた。部員たちがある一人を取り囲んで質問攻めにして、少し離れたところで未散が呆然とした顔で立ち尽くしている。兄さんも少し困ったような顔だ。
取り囲まれている話題の主、茂谷直登君は、昨日の朝と同じくクールで爽やかな笑みを浮かべて立っている。ただ一つだけ昨日と違う点を除いて。
「おはよう、広瀬さん」
「お、おはよう」
茂谷君がやけに明るくあいさつしてくる。やめて。まともに顔が見られない。
「おい、直登」
未散がたまりかねたように、茂谷君に声をかける。
「やあ、未散」
「何だ、その頭」
茂谷君は、昨日までサラサラヘアーが乗っていた頭、今はクリクリの丸坊主になっている頭をスルッと撫で上げた。
「ちょっと気分転換しただけだよ」
「古いよ、センスが。何で今時丸坊主なんだよ。お前そんなヤツじゃなかっただろう」
未散がガミガミと説教している。怒られて坊主になるならまだしも、自分から坊主にしてきて友達に怒られる人は珍しい。
「俺はそういう体育会系のセンスが大嫌いなんだ。今すぐ伸ばせ」
「無茶言うなよ。他の部の女子には評判いいんだぞ」
「そりゃ顔がいいヤツは坊主でもかっこいいだろうさ」
段々論点がずれてきている。
兄さんがニヤリと笑いながら言った。
「その丸坊主は、敗北の宣言ととらえてよろしいか?」
茂谷君も不敵な笑みで返す。
「すべてはこれからって意味ですよ。まだあと一本、残っているでしょう」
「そうだったね」
兄さんは言うと、未散を振り返った。
「藤谷君。今日の相棒は、君が努めてくれるか」
「えっ!」
未散が固まる。部員たちから「おおー」という歓声と拍手が起こる。
私もちょっとだけワクワクしているのは内緒だ。
ウォーミングアップもそこそこに、茂谷君、金原君、照井君がゴール前にスタンバイする。キーパーは梶野君。離れたところに兄さんと未散がボールをはさんで立っている。二人が何か言葉を交している。ベンチからは聞きとれないけれど、今日はそれでいいと思った。
私は力一杯、ホイッスルを吹いた。
兄さんが未散にパスを出し、ゴール前にダッシュする。照井君が兄さんをマークに行く。金原君がゴール前に立ちはだかり、茂谷君はその後方。
兄さんは右サイドに流れて照井君を釣りだす。未散は一気にスピードアップしてゴールに突進する。
「あっ」
思わず声を上げる。常に金原君の後方にいた茂谷君が、この勝負で初めて前に出た。未散と正面から対峙する。
未散は一度右側に体を揺らし、足の裏でボールを左へ流して一気に左側からスピードを上げた。茂谷君がピッタリとついてくる。体を寄せる。
「金原!」
茂谷君が指示を飛ばす。金原君はいつもなら茂谷君がいる、キーパーとの間のポジションに移動する。兄さんが照井君を振り切って、右サイドからゴール前に入ってくる。未散が左足を振りかぶる。兄さんがゴール中央にダッシュする。未散は振り上げた左足で内側に切り返し、右足で中央の兄さんにパスを送る。
茂谷君は未散から離れてゴール前に走る。未散はゴールやや左へ上がっていく。パスを受けた兄さんは右のアウトサイドでダイレクトに未散へリターンする。走りこんだ未散が右足インサイドで、ゴール右上へコースを狙うシュートを放った。
ボールは金原君の頭と梶野君の伸ばした手をふわりと越えていく。
その後ろから、黒髪の丸坊主が高くジャンプした。ゴール右上に収まる寸前に、ヘディングでボールを弾き飛ばす。未散が「えっ」と一瞬動作を止めた。
「やった!」
高く舞い上がったクリアボールを見ながら、私と紗良ちゃんがベンチから飛び上がる。未散には悪いけど、今日はこのクリアがすごく嬉しい。
「あ」
クリアボールがゆっくりと落ちていく。兄さんの目の前に。
「ふんっ!」
元プロの大人が力一杯振りぬいた右足は、落ちてくるクリアボールをダイレクトに捉えた。ものすごいスピードで放たれたボレーシュートは、まっすぐに
ゴール左へ突き進む。
「おおおおっ!」
初めて聞く、茂谷君の雄叫び。ゴールへ向かうボレーシュートに体を投げ出して突っ込んでいく。
ボールは飛び込んだ茂谷君の頭に当たり、勢いそのまま、茂谷君もろともゴールの中へ転がって行った。
「ああーっ」
……負けちゃった。
茂谷君は腹を地面に思い切り打って、つっぷしている。兄さんは得意気にガッツポーズだ。大人げないことこの上ない。
「茂谷君!大丈夫?」
私が駆け寄ると、丸坊主の彼はつっぷしたまま手をひらひらと振った。
「大丈夫だ。僕の負けだ」
「でも、惜しかった」
「負けは負けさ」
兄さんがゴール前にやってきた。私は思いっきりにらんで言った。
「何、最後のボレー。大人げない!」
兄さんは当然といった顔で、
「ボールが生きている限り、最後まで油断は禁物だ。それに、そこの坊主のプライドが、手加減した茶番を許すのか?」
と言った。
「それはそうだけど」
「だが、いい読みだった。結果的に体も張ったしな」
兄さんが、ふっと優しい顔になる。茂谷君はむくりと起き上がり、兄さんに向き直った。
「コーチ」
「何だ」
「ありがとうございました」
そして小さく頭を下げた。未散が口を大きく開けて固まっている。よほど珍しい光景なんだ、きっと。
「礼を言うのはこっちだ」
言って、兄さんは笑った。
「どんな正論を言う指導者も、ついてきてくれる選手がいなけりゃただの変人だ。君が僕をコーチにしてくれたんだよ」
「あ……」
茂谷君が口ごもる。人からお礼を言われると、彼はこんな顔をするんだ。私は笑いをこらえながら、なぜか不機嫌なキャプテンに声をかける。
「何でそんな顔してるの。結果、良かったじゃない」
「それはいい」
未散は言った。
「じゃあ、何」
「シュートが読まれた。俺一人だけ負けた気分だ」
ここにもう一人、異常な負けず嫌いがいた。本人が自覚しているかどうかはわからないけど。
つづく




