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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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結果論として添い寝をします

「……君は相変わらずだね本当に」


 食料品を買い込みちろっと見て回って帰宅。


 そうして晩御飯とお風呂を済ませた就寝前なのだけど……おニューの寝間着を着たエド君は、相変わらず此方を見ない。


 顔は因みにかなり渋いというか厳めしい。

 薬草茶を飲んだのが未だに尾を引いているのだろうか。流石にちょっと濃い目飲ませたのが駄目だったか。でも飲んで大分時間経ってるんだけどな。


 寝る前になってもロクに顔を見ようとはしないエド君。

 寝る前にちょっとくらい語らいをしても良いと思うのだけど、彼には応じる様子がなさそうだ。


「聞いてるのかな」

「聞いている」


 聞いている、と応える、は違うの分かってて言ってるね。

 ちょっと話そうよー、というお願いに応えるつもりはないエド君は、背を向けて私を視界からシャットアウトしようとしている。

 ……そんなに嫌なのか。


「……顔は見て話さないと」

「寝る前に接近する方がおかしいんだ」

「いやそりゃそうだけど、そもそも寝床一緒だもの。……まあ、お話出来るなら良いか」


 取り敢えず、顔を合わせなければ多少は話す気になってくれるらしい。


「えーっと、狭いけど寝にくくない?」

「……お前が居るから寝にくい」

「仕方ないじゃん、狭いんだから」

「……狭さとかの問題じゃないだろ」

「じゃあ何の問題?」

「常識の問題だ馬鹿」

「エド君が最終的に良いって言ったんじゃないか」


 一緒に寝る事を承諾したのはエド君だというのに何故そこに不満を抱かれねばならないのか。

 たかが隣で寝るくらいなんだから譲歩してよ。私はそこまで寝相悪くないし、迷惑かける程ではない筈だ。


 全くもう、とぺちぺち背中を叩くとぶるりと背中を震わせたものの、振り向く事はない。


「まあ良いや。エド君、怪我の調子はどう?」


 これ以上言っても無駄だ、とは分かっていたので、話題を変える事にした。


 そういえば彼は地味に傷を負っていた。

 重傷じゃないし、お出掛けに支障はないくらいのものだったのだけど、地味に痛かったかもしれない。擦り傷と痣程度だとは思うんだけど。


 もし良かったら怪我の具合診るよ、と申し出るのだけど、エド君は首を振って拒否の意だ。


「別に、問題ない。もう痛くない」

「そう? それなら良かった。大きな怪我がなくて良かった。大怪我だと私だと治せないから医者に連れて行かなきゃ行けなかったし」


 血塗れで発見されていたなら私も慌てていたし、もっと丁重に接していたよ。

 魔法も万能ではないので、怪我を治す、という事は出来ない。少なくとも、私には。治癒を得意とする魔女ならまた別なんだろうけど、私には作る事と壊す事しか出来ないのだから。


 彼の様子だと、もう大丈夫そうだ。


「じゃあ、そろそろお手伝いでもして貰おうかな。家の事とか、薬師としてのお仕事のお手伝いとか。やる事は結構あるから」

「……何をするんだ」

「それは明日から説明するよ。ちょっとずつして貰うし、一気に説明されても覚えきれないでしょ?」


 彼の事だから、家事とかはした事がないと思うんだよね。お風呂とかの使い方も結構危なかったし。

 まあうちのお風呂も王宮のお風呂は違うから仕方ないけど。


 慣れない生活を強いてるのは自覚あるので、そこまで急がせるつもりもないのだ。


 ゆっくり慣れてくれれば良いし、私にもゆっくり打ち解けて……くれはせずともそこそこに会話出来るようになってくれたら良い。家族みたいに、は多分無理だろう。


 というか家族みたいに、だと私も基準が分かんないし。師匠とはそういう関係じゃなかったからなあ。


「だから、ゆっくり覚えてくれたらいいよ。君が居たいと思う限り此処に居てくれれば良いんだから、これから先は長いと思うんだ」


 いつまで居ても構わない。一人よりは二人の方が楽しく過ごせるだろうし。


 笑うと、彼は初めて振り返った。

 何かに、驚いたような顔。何だろう、私変な事を言った覚えはないのだけど。


 どうしたのかな、と首を傾げると、また彼はそっぽを向いた。というかもぞもぞ毛布に潜り出した。


 あっこれ以上は話す気ないって事だよね、うん。気難しいな彼は。まあこれから慣れていくのだろう。


「眠いかな。じゃあおやすみ、エド君。また明日」


 ベッドを作る事になれば隣で寝る事もなくなるので、今だけの添い寝(?)だ。

 私も毛布に潜って背中を向けた所で、ふと背中に小さく「おやすみ」という言葉が、届いた。


 くるりと振り返るとやっぱり彼は背中を向けたままで、私とこれ以上の会話はするつもりがないらしい。

 でも、ちょっとした進歩だろう。


 ふふ、と笑って、私はそのまま瞳を閉じた。


 ……そういえば彼、カーテン閉じ忘れてたけど良いのかな。




 次の日、私は彼の悲鳴で目が覚めた。


 まだ、日は柔らかくうっすらと差し込むだけ。小鳥の囀りは聞こえるけれど、まだ起きる時間ではない。何もない日なので朝早いに程がある。


 何なんだと寝ぼけ眼のまま顔を上げると、なんと目の前にエド君の寝間着。と、真っ赤になって口をパクパクとさせているエド君の顔。


 おや、今日はやけに距離が近いし……何か、ぬくい。というか、……くっついてる?


「……おはよう?」


 こて、と首を傾げると、エド君はやっぱり体を硬直させている。……その左手が宙に浮いた状態はなんなんだろう。不自然すぎる。


 良くみると、私とエド君は密着していた。

 カーテンがなかったから、自由に転がったのだろう。場所的にエド君の方が。


 抱き枕代わりにしていたらしい。私の腰の下に右腕が滑り込んでいる。

 もたれ掛かるように私がエド君の胸に体を預けているから、エド君に引っ張られたのだろう。

 その左手のは、多分、無意識に抱き締めていた名残らしい。


 私はエド君より小柄なので、抱き枕には丁度良かったのだろう。よく私も気付かなかったものだ。


「……早いね」

「お、おまっ、」

「……何? エド君がこっちきたんだよね。というか叫ばないでね、うるさいから」


 耳元で叫ばれたら鼓膜が破れてしまう。

 む、と眉を寄せると、ぴたりと喚こうとする口が止まった。よろしい。


 押し黙ってくれたエド君に満足して、私はそのまま瞳を閉じる。

 いやはや、人肌というものはぬくいんだな。初めて知ったかもしれない。師匠は、流石に添い寝してくれなかったし。


 うん、まだ朝早いし寝ていても良い筈。


 くぁ、と欠伸して、私はそのままもう一眠りする事にした。

 言葉にならない悲鳴が悲鳴が聞こえてきた気もするけど、まあ良いだろう。




 次起きたらエド君はぐったりとした風になっていた。私はそのまま寄り掛かっていたので、無理に剥がしはしなかったのだろう。

 嫌だったら突き飛ばすくらいしても……いやベッドから落とされるのは勘弁なので引き剥がすくらいしても良かったのに。


 引き剥がさなかったのは、私があんまりにもぐーすか寝ていたからなのか、それとも……彼もまた、温もりを初めて知ったからなのか。


 まあ結局起きたら即座に離れたエド君は、絶対ベッド作るとか決意の眼差し(尚顔は赤い)で言っていた。余程堪えたらしい。ごめんって。


 けど、私、今更気付いてしまった。


 ――うち、もう一つベッド置くスペース、ないね?


 カーテンで分断続行決定の瞬間である。

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