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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第二章 王子様と共同生活始めました
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人見知りの王子様

 年の頃、十代半ば。私よりは年下なのは知ってる。確か十四歳くらいだっただろうか。

 小柄でくりっとした大粒の瞳が愛らしい少女だ。素朴な雰囲気がとても可愛らしい。


 華奢な腕には紙袋を抱えていて、香ばしい匂いを届けてくる。中にはパンが入っているのだけど、多分焼き立てのものだろう。うーん、パンも良いな。買って帰ろうか。


 ……あのねエド君、話し掛けてきたからって露骨に警戒しないでよ。私の知り合いというか顧客だから。


「エレナか。買い出し?」

「はい。……そちらの方は?」


 私の姿を視認して綻んだ可愛い顔は、エド君に視線を移して不思議そうなものに。

 エド君、然り気無く私の後ろに行かない。彼女無害だから警戒しなくても大丈夫だってば。


 無表情……に警戒の雰囲気なエド君を肘で小突きつつ、戸惑うエレナには微笑みかける。


「ああ、彼はこの間から私の助手になったエドワード。極度の人見知りで女性が特に苦手なんだ。懐かない猫のようなものだと思ってそっとしてやってくれ」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「ところでエレナ、母君の体調は大丈夫かな?」


 エド君はスルー。だって間違いじゃないだろうし。


「はい、リア様のお薬でずっと小康状態です」

「そうか、なら良かった。根治が出来なくて悪いとは思ってるのだけど」

「いえ! 他のお医者様が匙を投げたものを、此処まで落ち着かせてくれただけでも充分です!」


 エレナ……というかエレナの母親は、不治の病に侵されている。もう完治は見込めないような病だ。


 私の町での役割、というか建前は薬師であり、そんな彼女の母親の薬を作って売っているのだ。

 直接ではなく、この街のちょっとした知り合いの薬屋に卸している、が正しいかな? まあ私の薬を買っているのは間違いない。


 ……エド君、そんな疑うような眼差しを向けないでよ。私人付き合いは面倒くさがるだけで君より出来るから。こう見えて手に職を付けてるから。


「そうか。また何かあったらヴィレムに言付けておいて。今日は寄るつもりはないんだけど、その内また卸しにいくし」

「はい!」


 屈託のない笑みを浮かべたエレナは、私とエド君にそれぞれ一礼をして去っていく。


 うん、可愛い子だ。年下なので尚更可愛く見える。

 ああいう裏のない子が接していて楽なんだよね。何処ぞの馬鹿王子とは比べ物にならない差だ。あれは純粋に関わり合いたくない。


「可愛い子でしょ。ああ、エド君も懐かない猫みたいで可愛いと思ってるから安心して」

「全く安心出来ない情報だそれは。不名誉過ぎる。……あの女は?」

「エレナっていって、お得意様なの。私、此処では薬師として知られてるから」


 私も飢えはするので手に職は付けてるのだ。

 幸い師匠仕込みで師匠お墨付きの調合の腕があるので、薬師としてやっていけてる。こう見えて私の薬は良く効くと評判なのだよエド君。


 勿論魔女とバレるようなへまはしていない。普通に薬を調合しているだけだもの。

 魔法は関係なく、あくまで知識と経験での調合調薬だからね。


「薬師としてお金を稼いでるので、生活には困ってないの。……なにその顔」

「良いのか、人と馴れ合って」

「そりゃあ人付き合いは面倒だなあと思うけど、腹が減ってはなんとやらなのでお金は大事だよ」


 エド君だってお腹空いてひもじい思いはしたくないだろう。

 正当な対価を貰って人助けなので、咎められる職ではない筈。


 自信を持って告げたのに、エド君は半信半疑というか「魔女の概念が……」と本当に小声で呟く。

 魔女何だと思ってるんだ、一応基本的な機能は人間のものだからね。ご飯大切だよ。持つ力としては人間止めているかもしれないけど。


「ま、これも人生経験の差なのだよエド君」

「……年下の癖に」

「失礼な。私はこう見えても十七歳なんだけど」

「嘘だ。どう見ても同い年には」

「おっとそれ以上は侮辱と取るよ。帰ったら薬草茶を三倍濃縮で出そうか。何ならすりこぎで粉末にしてペーストに加工しても良いよ」

「申し訳ありません」


 エド君は失礼な奴だな、全く。

 確かに成長は遅い方だけど子供ではない、歴とした成人女性なのだ。成人前と服のサイズはほぼ変わらないけど、うん。


 まあ素直に謝ってくれたので良しとしよう。不問にしてあげるのだ。次言ったら原液飲ませる。濃縮までは勘弁してあげるけど。


 ジロ、と咎めるような視線を送ると顔を引きつらせてそっぽ向いたエド君。都合の悪い時はそっぽ向けば良いと思ってないかな君。


「とにかく、私はこう見えて君と変わらないの。分かった?」

「……ああ」

「……まあ納得してないならそれで良いけど。どうせ子供っぽくて男の子に見える体型だしー」


 別に私が慎ましい体型だろうが、生きてくのに支障はないから構わない。多少むかつきはするけど、怒っても私が変わる訳ないし。

 寧ろ本当に男ならエド君が戸惑う事もなかったのだ。力仕事も出来ただろうし。何て中途半端な感じなんだ、私。


「あ、いや、それは」

「良いの良いの、君が正直者なのはよく分かったから。別にすごく怒ったりはしないよ」

「……別に女に見えない訳では……」

「見えなかったら色々と君の目を疑うからね? まあ、どう思われても良いんだけどさ」


 いやもうエド君が正直者なのはよく分かった。陰謀蠢く王宮内では欠点だろうけども、人としては美徳だよ。

 彼は多少口は悪いけど、性格的には悪くない。寧ろどちらかと言えば良い子なのだろう。態度が素直じゃないけど。


 別に、さっきは怒ってみせたけどほんとはそこまで怒ってはないので、エド君が気にする事はない。まあ体調の為にも薬草茶は飲んで貰うけど。


「ほら、気にしなくて良いから、食料でも買おうか」


 逆に気にし始めてしまったエド君の背中を叩くと、エド君は眉を寄せていつものようにそっぽを向いた。

 うん、これでこそエド君だ。まだ二日しか一緒に居ないんだけどね。


 相変わらず手を繋ぐ事を拒むエド君の袖を引いて、食料品を取り扱う一帯を目指す事にした。

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