猫魔女様はご機嫌です
ぷらいべったーに上げたものです。エド君視点。全力でお遊びなのでほぼ本編と関係ないです。
朝起きたらリアが猫の耳を生やしていた。
エドヴィンは二度寝する事を決意した。
目覚めて妻を視界にいれた瞬間頭部から三角のふさふさしたそれが生えているとか、信じ難かった。というか信じたくなかった。何かの見間違いか幻覚だと思いたかった。
気のせいなのだ、耳だけではなくゆらりゆらりと細長く毛に覆われたそれが揺れていたとか、そんなものは見えなかった。
リアは魔女で、あくまで肉体は人間とほぼ同じものである。猫の一部を肉体から生やすなんて事がある筈ないのだ。愛らしく尻尾を揺らがせたり耳をぴこぴこと動かしたりする筈がないのだ。
気のせい気のせい、と自分に言い聞かせて目の前の幻想を否定するように眠ろうとして、胸にすり寄る妻に気付く。
いつもはリアの方が起床は早いのだが、今日はエドヴィンが早かった。リアもそろそろ起きる時間なので起きてきた、そんな所だろう。
「……んん、エドくんおきてる……?」
夢にしてはやけにリアルだな、と胸元に当たるふさふさのそれから現実逃避するエドヴィンであったが、無情にもリアの寝起き直後の甘い声に引き戻される。
恐る恐る瞳を開けば、腕に潜り込むようにして胸に寄り添うリアの姿。頭部に所謂猫耳は健在である。
何故だ。
「……おはようリア。一つ聞いても良いだろうか」
「にゃに?」
心なしか発言が猫染みてる気がしたが、敢えてスルーをしておこう。
「……その猫の耳と尻尾はどうしたのだろうか」
「これ? 魔女の知り合いからね、刺激が欲しい時にって昔送られてきた薬を飲んだら生えたの。一日限定にゃんだって」
知り合いの魔女グッジョブ。
本心ではそう思ったものの、流石に常識人のつもりであるエドヴィンは言葉にはしないでおいた。
本音を言えばとても可愛い。非常に可愛い。元々成長して綺麗になったリアが猫耳を付けたのだから、可愛くて当然なのだ。
本人にはとても言えないが、エドヴィンにとってリアは一番可愛い存在であるし彼女しか女性として欲する事はないので、理性がなかったらそのまま撫でくりまわして愛でていたに違いない。
色々と込み上げる衝動を飲み込みつつ甘えてくるリアの顔を覗き込むと、わざとらしく「にゃあ」と鳴いてぴっとりくっつくのだ。あざとい、あざとい。
しかし本人は意図して可愛く見せている訳ではなく素なので、余計に質が悪かった。
どうやら神経まで繋がっているらしく、今のご満悦そうな表情に合わせたかのように、ゆらり、ゆらりと尻尾が揺れている。
尾てい骨から出ているらしく捲れ上がった寝間着から下着が覗いているので、幾ら旦那である程度見ているエドヴィンであっても羞恥からブランケットをかけてやった。
今日はワンピース不可にしよう、そう決めて腕の中の子猫を撫でて嘆息した。
どちらかと言えば猫寄りな気質もあり、リアが猫のような姿になれば乗算でその雰囲気は増していた。
「エド君エド君」
膝の上に乗って構って攻撃するのは、最愛の妻であるリア。
にゃあにゃあ鳴いて鎖骨の辺りにぐりぐりと額を押し付けて来る為に、視界の下辺りにぴこぴこ動く三角の耳が掠める。尻尾も持ち上がって髪色と同じ色素の薄い毛に覆われたそれは、持ち上がってふるふると震えていた。
どうやらご機嫌らしくて油断したように揺らいでいて、無性に手を伸ばしたくなる。
駄目だ、欲求に従っては。
一度弾けると戻れそうにないと分かっているエドヴィンは、体裁の為にあまり関心がなさそうな風を装って、ただリアを撫でる。
猫耳尻尾が生えている。これだけでこんなにも破壊力が違うのか。
愛玩動物の恐ろしさを身をもって知ったエドヴィンは、可愛らしい妻に何かしでかさないか理性耐久試験を強制実施される羽目になっていた。
妻だぞ、好きに愛でて良いんだぞ、色んな意味で可愛がって良いんだぞ、という悪魔の囁きを押し込んで、ただ軽いスキンシップに留めている。
「どうした、リア」
「んー、エド君は猫嫌い? くっつくの、嫌?」
「……嫌だったら乗せていないだろう」
「それもそうだね」
寧ろ好きだ。離宮に時折忍び込んでくる猫とよく戯れたものだ。
好きで破壊力が増しているから節制してるのであって、決して嫌いという訳ではない、というか有り得ない――そう思っているのだが、ありのままに伝えるのは気恥ずかしい為に素っ気なく返してしまう。
エドヴィンの反応に満足したようで、その癖もの足りなさそうに頬擦りするリア。
ふにぃ、と恐らく無意識の鳴き声が漏れている所がエドヴィンのあれやらそれを遺憾無く揺さぶるのだが、リア本人は気付いた様子がない。
普段よりも甘えたがりになっているリアはエドヴィンの腕の中で喉を鳴らして、それから時折期待に満ちた眼差しで見上げてくる。
もっと撫でて、そんな無言の願いが聞こえて、見つめられる度にエドヴィンが唸りたくなるのを堪える事態に陥っている。
何だこの生き物は。
瞳を細めて、昔よりあどけなさの抜けた、しかし可愛らしい顔をこれでもかとふにゃふにゃに緩めて、全幅の信頼と親愛を向けてくるリアに、エドヴィンは危うく陥落しそうになっていた。
いや、元々陥落はしているのだが、色々と悶えて今すぐ全力で愛でたい衝動だけは何とか実行の前に踏み留まらせているのだ。
抱き締めて撫でる、それだけがもどかしくて仕方ない。
猫耳を確かめたいし尻尾を撫でてみたい、そんな欲求を抱えているエドヴィンは、リアの頬を撫でていつものように可愛がる。
この体勢も色々ときついものがあったので、触れ方は控えめにしたのを分かっていただきたい。
「……ん、エド君……」
すり、とまた頬擦りをするリア。
腿に跨がってくっついている状態で身動きをされると、何処とは言わないがとてもまずいのはリアには分かっていないらしい。
愛らしい姿に引き剥がすなんて無体な真似が出来る筈もなく、据え膳のまま甘やかすだけの我慢を強いられている。
まあ、一日続くのであれば夜にでも可愛がれば良いのではないだろうか、そんな考えが浮かぶ程には悶々とさせられているエドヴィンであったが、リアは彼を見上げて紅玉の瞳を和めた。
それから、少し顔を近付けて――。
ぺろ、と。
エドヴィンの唇を、舐めた。
硬直したエドヴィンを見上げては悪戯っぽい輝きを瞳に宿したリアが、大成功と言わんばかりに相好を崩す。
「ふふ、猫は顔を舐めるのが愛情表現なんだって。だから、舐めてみたの」
ご機嫌そうに尻尾をゆらゆらさせながら無邪気に微笑んだリアに、一瞬意識が遠退いた。
猫の気紛れは、エドヴィンの節制をいとも簡単に破壊していく。
「エド君大好きだから、……んむっ」
言葉は、最後まで紡がれる事はなかった。
もう良いか、なんて我慢した割にあっさりとなげうったのは、リアが全部悪い。これでも我慢した方なのだ。いつもいつも、リアが全て煽っていくのが悪い。
そう自分を納得させたエドヴィンがリアの舌を捕らえて離さず、そのままたっぷりと貪って。
そうしてとろけきった子猫を大切に抱えて寝室に運ぶ事は、猫耳が生えてからある意味で決まった流れだったのかもしれない。