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新婚夫婦は目の毒です

「……リアなの?」

「私以外に居ないと思うのだけど……」


 私とエド君と夫婦となって、数日後。予想した通りにアレクがやってきた。

 出迎えた姿を見るなり翠の瞳を見開いて私の姿を凝視している。彼の瞳には大人になった私の姿が写っているのだろう。因みにエド君は買い出しに行っている。


 エド君に新たに買ってきて貰った服を纏った私は、恐らく結婚前の私よりもずっと大人びているだろう。自分でもびっくりするくらいなので、アレクならもっと驚く筈。


 アレクなら無遠慮な視線を投げ掛けられても別に良いのだけど、あまりにじろじろ見られるのも気分がいいものではない。


 胸元に視線がいっては「成長する見込みがないと思っていたのに」と滅茶苦茶失礼な事を言い出すので、眉を寄せてしまう。

 けど、直ぐに結ぼうとした眉がほどけるのは、私が今気怠いからだろう。誰のせいとは言わないけど、誰のせいとは言わないけど。


「ちょっと色々あって体が成長したの。魔女だからそんなものだと思っておいて」


 私も正確に把握した訳ではないので詳しい事は言えず、それだけは告げてアレクを居間に案内する。


 ふぅ、と吐息を零してソファに腰掛け、肘置きに体を任せる私に、何故かアレクは困惑したような眼差しを向けてくる。

 何? と首を傾げれば流した髪がゆるりと肩から落ちていく。

 前より伸びてしまったけど、魔女にとって髪は魔力が凝縮されたものなので切るには惜しい。後で結おう。


 ほぅ、と溜め息をついて肘置きにしなだれる私に、対面のアレクがやっぱり奇妙な表情を浮かべる。さっきから何なんだろうか。


「……何というか、今のリアって目のやり場に困るよね」

「何で? 露出しているつもりはないのだけど」


 詰め襟の長袖ワンピースを着ているし、出ているのは顔と手、膝下くらいなものなのだけど。

 ……首とか肩とかは、その、露出すると色々と痕がついてるから駄目、というのは自分でも分かってるし。


 寧ろいつもより肌は出ていない筈、と首を傾げて窺うと、アレクがちょっぴり気まずそうにする。

 珍しい、アレクが私に遠慮するなんて。


「愛されてるみたいだから良いんだけど、その駄々漏れの空気を何とかして欲しいんだよね。女性は愛されると変わる、とかいうけど、今それを思い知ったよ」

「何を駄々漏れにしているのか分からないのだけど……変わったように見えたなら良かった。大人っぽくなったでしょう? 成長期ってものなんだと思うよ」


 これを成長期と言って良いのかは分からないけど成長したので間違いはないだろう。アレクに馬鹿にされない程度には成長を遂げたと思う。

 エド君も私の成長にはご満足いただいたというか、いや昔の私も大好きだけど今なら遠慮なしに全力で愛を注げると宣った。……エド君、一度吹っ切れるととても積極的というのは此処数日で知った事だ。


 愛されている自覚はあるので瞳をゆるりと細めて唇に笑みを乗せると、言葉を詰まらせているアレク。

 ……アレクは何なんだろうか、さっきから。言いたい事があるならはっきり言ってくれた方が楽なんだけど。私はアレクの事全部察するような読心術ないからね。


 何だかとても困惑気味なアレクにはっきりしてよ、と言おうとして――顔を上げる。

 あ、と思わず声が漏れた。


「おかえりなさい、エド君」


 ちょっとまだ怠いけど、エド君が帰ってきたから出迎えなきゃ、と立ち上がって玄関まで出れば、食料を抱えたエド君が穏やかな笑みを浮かべる。


 流石に荷物があるのに抱き付く訳にもいかないので笑顔を浮かべて出迎えると、エド君が笑みを濃くする。その笑顔が照れ臭いというか何というか、ちょっと面映ゆいというのだろうか。


「ただいま。大人しくしていたか?」

「勿論。というか大人しくせざるを得なくしたのはエド君ですー」

「はいはいごめんって」


 反省してなさそうなんだけど。……別に嫌とかじゃないけどね。寧ろ沢山エド君に可愛がって貰ったので、奥さんとしては幸せの一言に尽きるんじゃないだろうか。

 まあもうちょっと手加減は欲しいな、と思うので、エド君にはまた今度しっかり言い聞かせなくては。


 荷物を抱えたままなので出迎えのぎゅーが出来なかったのでそれは残念なものの、アレクが居るのに見せるのも悪い気がする。

 ……そうだ、アレクが来た事言わなきゃ。まあ玄関入って直ぐに居間なので見えるとは思うけど。


「あ、アレク来たんだよ」

「アレクシスが? 腰抜かさなかったか?」

「腰は抜かさなかったけど変な様子だよ」

「……成る程。まあ、仕方ないかな。それだけリア変わったし」


 エド君が苦笑気味なので、そんなに変わったかなと自分を見下ろしてみる。

 そりゃあまあ、体つきは大人びたと思うけど……アレクが言葉を失う程固まる訳じゃないと思うんだよね。王宮で過ごしてるアレクは侍女とかに囲まれて見慣れてる筈だし。


 そんなに変わった? と小首を傾げると、エド君が大きく頷いて「色っぽくなった」との事。……色っぽさなんて欠片もないと言われ続けた私にそんなもの備わっているのだろうか。

 自分で言うのは悲しいけど腑に落ちないというか。


「まあ中身は変わってないから安心していいぞ、アレクシス」


 私越しに居間に居るアレクに声をかけるエド君は、ちょっと悪戯っぽく笑っていた。

 それから付け足しで「まあ、前よりも甘えん坊で態度が可愛くなったけど」とアレクに聞こえないように囁かれて、ちょっと顔が火照ってしまう。


 ……甘えん坊、というか、エド君がすがらせるのが悪い気がするもん。そうさせたのはエド君だから、エド君に甘えるのは仕方ない事だもん。


「お帰りエドヴィン君。お宅の奥さん何とかしてくれないかな、色々と撒き散らしてくるんだけど」

「のろけでもしたか?」

「雰囲気でね。その如何にもエドヴィン君のものになりましたって態度と雰囲気が」

「名実共に俺のものだから」

「はいはいのろけ御馳走様。最初はツンツンしてたのによくもまあでれっでれで」


 アレクが呆れた声を上げている。

 ……まあ言わんとする事は分かるんだよ、エド君昔よりうんと優しくなったし甘くなったもん。

 照れ屋さんなのは相変わらずだけど、それよりも最近積極性が上回ってきたというか。言葉遣いも大分柔らかくなったし。


 どんなエド君でも好きだから、ツンツンしてても甘々でも何でも良いんだけどね。


 エド君はやや眉尻を上下させたものの、それでも否定する気はないらしくてほんのりと頬を赤らめる。

 直ぐに元通りの表情になったけど、私に柔らかい眼差しを送ってくれた。






 台所に荷物を置いてからエド君と居間に戻ると、アレクは我が家のように寛いでいた。まあ私達がお客さんを放っておいたのが悪いのだけど、アレクはアレクで自由にし過ぎだよね。


 長い足を組んでゆったりと構えるアレクは、もう先程の狼狽はなくなってるように見えた。困惑から、何処か眩いものを見るような、穏やかな表情で。


「そうしてたら君達新婚夫婦そのものなんだよね」

「新婚も何も結婚したばかりなんだけど……」

「そうだね。僕としてはリアが少し落ち着いて大人しくなった事にびっくりしてるよ」

「今までがまるで落ち着いていなかったみたいな言い方」

「そうだな。……まあ、大分大人しくなったというか、年頃の落ち着きは見せだしたよ」


 エド君まで。

 ……そんなに私はそそっかしくて子供っぽかったのだろうか。子供っぽい、という自覚はそりゃあ多少あったけど、そこまで?


 むぅ、と唇を尖らせたら直ぐにエド君が頭をぽんぽんと撫でる。それだけでご機嫌がとられると思ったら大間違いなんだからね、と思いつつも唇が平地に戻っていくから私は単純なのだろう。


 ソファに隣り合って座ってるからこんなやり取りをしているのだけど、アレクが居なかったらおまじないされたに違いない。

 今の私はおまじないがキスの言い訳であり別称なのだと分かっているけど、それでも実際されると効くとも分かっているので拒むつもりはない。というか拒んだ事もないけどね。


 もう、とエド君の肩にぐりぐり額を押し付けたら笑われた。見上げても、エド君の瞳は和んだまま。


「君らいちゃつくのは良いんだけどさ、僕が帰った後にしてね。目の毒だから」

「そんなにひどい?」

「僕がとても居堪れない。……まあ、リアの孤独を分かち合える人が出来た事はとても喜ばしいし、素直に祝福するけど」


 ……アレクは、私が一人だった事をよく知っている。小さい頃から、何だかんだ交流があったもの。


 他人から見たらアレクが寄り添えばよかった、と状況で判断するかもしれないけど、そもそもアレクは私の側に居る事を拒んだし。

 まあ昔の事だし、今は普通に接してくれるから気にした事はないけど。


 それに、アレクでは私の側には居られない。

 普段は私の薬で誤魔化しているけど、元々体は弱いからこの森では生活していけないし、寿命まで生きられるかも分からない。王族だから、私の側に居るなんて到底無理だったのだ。


 アレクは私の孤独を一番知っていて、けどどうしようも出来なかった人だ。

 だからこそ、私に伴侶が出来た事がどれだけ幸せな事か、一番分かっている。


「……ありがとう、アレク」

「礼を言うならエドヴィン君に言いなよ。真に理解したのは彼だし」

「エド君にはいつも感謝してるよ。……エド君が側に居て、幸せだよ」

「……俺もだよ」


 いつにも増して穏やかな表情で笑ったエド君につられて私も笑うと、アレクも苦笑と生暖かい眼差しを向けてくる。


「お熱い事で。魔女の夫婦ってみんなこんなものなのかな」

「さあ。……元々魔女は限られてるし、男性の魔女なんてもっと少ないから、多分こんな事は殆どないんじゃないかな」

「ふうん。まあ、魔女として長き時を生きるのだから、そのままの君達で居て欲しいものだけど。ああいやもう少し人目を憚ってくれたら尚よし」


 毎回こんな風にべたべたされたら困る、と言われてしまったのだけど、私そんなにべたべたしてるつもりはないんだけどなあ。

 いつもの距離感だと思うんだけど。


 首を傾げると、エド君は「まあリアだから」と微妙にずれた解答をしていた。アレクがそれで納得するのおかしいと思うんだけども……結局何がアレクにとって目の毒かはさっぱり分からなかった。

 活動報告で作者の作品全体で今後の更新についてアンケートしています。読みたいエピソードとかあれば活動報告のコメントで受け付けていますので、アンケートにご協力頂ければ幸いです(*⁰▿⁰*)

 よろしくおねがいしますー!

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