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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第六章 さようなら、王子様
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魔女様と夢見る純白

「拗ねるなよ」


 本人の意思を無視されて勝手に決められてしまったので、私としては不服で、おうちでベッドのカーテンを閉めて閉じこもっていたらエド君が宥めにくる。

 流石に大真面目な作戦なので断る事も出来なくて、会議では仕方なく頷いてみせたけど……やっぱり私では力不足な気がする。アドルフィーネに化けるとか。


 膝を抱えて居たらひょっこりとエド君がカーテンを開けて顔を覗かせる。


「拗ねてない。……ただ、私がアドルフィーネ装うのってきつくない?」

「何でだよ、体型はそう変わらな……いだろ、誤魔化せるだろう」


 今の言い淀みが気になったけど、自覚はしてるので反論はしない。エド君の言う通り詰め物すれば何とでもなる範囲だもの。女として負けた気分にはなるけど。


 私が問題としてるのは、そういうものではなくて。


「なんというかさ、フィデリオもブルーノ君も、アドルフィーネに一種の幻想を抱いてるじゃない。もう十七年は前の人だもの。……その幻想を再現する期待に応えられるかなって」


 私は姿絵でしかろくに見ていない。一度目の邂逅は小さい頃だったし、二度目は一瞬だった。そんなに覚えていない。

 そのアドルフィーネを、私がなりきる事が出来るのか。


 王妃も十七年の姿や声を完全に覚えている訳じゃないだろうし、年齢もやや加算させた外見にするつもりだけど……騙しきれるのか、というものがある。

 というか、アドルフィーネの口調とか所作を知らない私がなりきるなんて出来るのだろうか。


「どうだろうな、別になりきる事を期待されてる訳ではないと思うが」

「そうだけども」

「それよりもっと言いたい不満があるんじゃないか?」


 柔らかく諭されて、うっと言葉を詰まらせる。


「別に言えば良いぞ、俺しか居ないんだから」


 その言葉に窺うようにエド君を見上げると、エド君は苦笑してカーテンを完全に開ける。

 それから、三角座りした私を抱えるようにして腿の上に乗せて抱き締めた。背中から包まれて完全に逃げられない体勢なのだけど、エド君からこうして抱っこしてくれるのは嬉しい。


 ……拗ねてるとか、凹んでるとか、そういう訳じゃない。アドルフィーネを再現出来るか、とかそんな悩みも私にとっては副次的なものだ。


「……ドレス、着るじゃない?」

「そうだな、母上のを借りる事になるからな」

「……私の顔と体で身に付けるのは不釣り合いというか、似合わないというか」


 アドルフィーネの顔を借りるとはいえ、魔法を解けば私の顔なのだ。

 私がドレスなんか着たらかなり着られてるように見えるだろうし、全体的に凹凸が足りないから誤魔化すとはいえ私本体にはとても似合わない。


 禁忌の森の引きこもり魔女がドレスとか着るのは、なんというか、物凄く抵抗があるのだ。……似合わない姿をエド君に見せたくないというか。


 個人の気持ちなので作戦にごねるつもりもなくて言いたくなかったのだけど、エド君は聞いてから笑い始めた。そんなに笑わなくたって良いのに。


「そんな事で悩んでたのか」

「だ、だって、魔法解いたら顔と格好が不釣り合いじゃない。……ヒールとか慣れないし、そもそも私ドレスなんて似合わないし」

「似合う似合う。保証するから」

「どうして分かるの」

「……笑わないか?」

「さっきエド君が笑ったから笑ってやるもん」


 振り返ってわざと唇を尖らせてみせると、エド君はどこか緊張がほぐれたように穏やかに眼差しを和らげた。


 そっと私の耳元に唇を寄せて。


「……お前が白いドレスを着ている夢を見たんだ。幸せそうに笑っていた。夢だけど夢じゃないような、そんな光景を見た」

「……夢だけど夢じゃない?」

「何となくだが、現実になる気がしてな。お前はきっと、真っ白なドレスを着るよ。ドレスも、絶対似合うから」


 エド君は妙に確信を持って、私に告げた。


 甘く囁かれて、私は何だか恥ずかしくて振り返れない。

 ……私のドレス姿を夢の中で想像するとか、エド君は変わり者だよやっぱり。


 というか、やっぱりエド君はアドルフィーネの力を継いでいるのかもしれないね。現実になる、そう確信を持っているエド君。つまり、予知をしてる、という事で。

 先見の魔女であったアドルフィーネ。

 全てを見る事は出来ないけれど、ある程度見通していた彼女の血を継いだなら、そういう予知夢みたいな事もあるのかもしれない。


「ねえエド君、白のドレスって」

「……そりゃあ、な?」


 それくらい分かれよ、と抱き締められて、包み込まれる。

 エド君の掌は腕を掴んでいたけれど、ゆっくりと指先に滑るように移動して、私の薬指を撫でる。


 ……それだけの仕草なのに、何故だか胸がぎゅっと苦しくなって、頬が熱くなる。


「俺と結婚してくれるんだろう?」

「……する、けど」

「じゃあ、白いドレスを着るに決まってるだろう」


 予想は外れないな、と笑われて、なんというか恥ずかしいというか面映ゆくて、私は赤らんだ頬を隠そうと俯いた。


 ……最近、エド君に照れさせられてばっかりだ。勿論悪い気はしないんだけど、やっぱり、なんというかむずむずしてしまう。

 でも、それが心地いいと思うようになったのは、きっと私の大きな変化だろう。


 ……エド君が褒めてくれるなら、ドレスも悪くないかなあ、なんてね。

明日明後日それぞれ12時と21時の二回更新、金曜完結予定です。

最後までお付き合いいただければ幸いです……!

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