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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第六章 さようなら、王子様
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王様に相談です

 フィデリオ達から預かった密書をトーレス現国王に渡さなければならないのだけど、個人的にあまり気は進まないんだよね。

 渡すのが嫌ではなくて、トーレスの城に行くのが嫌というか。通り掛かると皆から露骨に目を逸らされるし。


 魔女が不可侵の存在で人と一線を画するというのも分かってるけれど、逃げられたり逆に腫れ物のように扱われるのは複雑なのである。


 まあそんな事もいっていられないので、城に飛ぶ。


 因みに、私やエド君が町に行く時に使う扉にかけた魔法と、こうして転移するのはちょっと訳が違う。

 簡単に言う転移は場所を自分で探してその都度脳内で座標固定と計算とか云々をしなければならないので結構に疲れるのだ。あんまりし過ぎると疲れるので、頻繁に使う街への入り口は扉に式を刻み込み鍵で固定してるのである。


 そんな訳で転移して王様に会いに行くのだけど、……やっぱり会いたくないなあ、とは思うのだ。

 なんというか、気さくな人過ぎて困るというか。


「おお、久しいな魔女殿! クッキー食べるか?」


 会う度に餌付けされそうになる。

 にこにこと笑って私を撫でているのは、トーレスで一番偉い男。まあ国王だよね。


 馴れ馴れしい、と払いのけるつもりはないのだけど……なんというか本当にフレンドリーというか。昔から可愛がられていたのでまあ、いつもの事だし慣れてはいるのだ。


 公の場で会えば当然厳粛とした面持ちに堅苦しい言葉遣い、如何にもらしい振る舞いをするのだけど、私的空間ではこうなるのだ。

 まあ、だからこそ師匠とも個人的に仲良かったみたいなのだけど。


 王室御用達のお店のクッキーは美味しいし何枚でも入りそうではあるものの、いや和やかにしてる場合ではないのだ。


「クッキーはありがたく頂くけど……あの、本題に入っても良い?」

「む。せっかちだな」

「私から常識を諭すのはどうかと思うのだけど、割と大真面目な話だから」

「分かっておる。フィデリオから手紙を預かったのだろう」


 自分もさくさくとクッキーを頬張りつつ返すトーレス国王、クロード。

 こんな砕けたようなのは此処だけなので良いとして、分かっていて尚代わらぬ態度をとるのだ。アレクそっくりというか、アレクは確実に彼の血を濃く引いている。


 五十代手前にしては随分と若々しい美貌はあくまで平然とした表情。


「そうだね。どうぞ」

「うむ。……ふむふむ、まあ予想通りだな」

「何て?」

「要約すれば、現状を本人から説明と、まあ証拠探しを手伝って欲しい、だな」


 それは私にも予想通りと言えば予想通りだ。

 現状説明と救援の嘆願くらいは書くかな、とは思っていたので、頷ける。一国の王としては苦渋の選択だろうけど。


「……クロードは、それを受けるの?」

「ふむ。本来は利益にならない限り受けるべきではないのだろうが、今回ばかりはそうも言ってられなくてな。シャハトから流れてくる民の問題もあるし、シャハトの王妃の振る舞いは限度を越している。望まぬ戦争に持ち込まれては此方としてもかなわぬ」

「王妃が望む、魔石はエド君……シャハト第三王子の手にあるから、トーレスにそうそうに手出しは出来ないとは思うけどね」

「逆を言えば手に渡れば有り得るのだろう? その魔石とやらは」


 クロードの言葉に、押し黙る。


 王妃はあれを求めている。恐らくは強大な力として。……確かに魔力の塊ではあるし、魔女が扱えばエネルギーの貯蓄分として役に立つ。

 そもそもはエド君の魔力を抑える為に作ってあったのだけど、役目を果たした今はただの魔力の塊だ。私達なら適切に使えはするだろう。


 けれど、魔女以外が扱おうとすれば、反応しないか下手すれば暴走する訳で。王妃はそれを知らないのだと思うけれど、あまりにも無謀すぎる。

 人間は、過ぎたる力を望んではならないのに。その力に呑まれ消えるのは我が身なのだから。


「まあ、万が一、その力を悪用する事があったなら」

「あったなら?」

「魔女である私が片付けるよ。魔女の領分を侵し名を穢そうとする愚か者には、相応の罰を」


 こうなれば、エド君に止められようと、法が邪魔をしようと、けじめはつけさせる。

 魔女を忌み嫌い蔑み排除しておきながらその力だけは利用するらなんて都合の良い真似はさせないし許さない。

 ……まあ、それ以前に……アドルフィーネの魔力が、ヘルミーネを拒むかもしれないのだけど。


 私は後天的になったのもあるから魔女の中では人に好意的だと思うけど、それでも魔女と人の境界はきっちりしているつもりだ。

 踏み越えてはならない線を越えてきたならば、容赦するつもりもない。


「はっはっは、魔女殿は可愛らしい顔をして存外シビアだな」

「師匠にそう教え込まれてるし、私としても、不快だから」

「オリヴィア殿、か。……そういえば、魔女殿もあの頃から随分と明るくなった。一時期は今にも死にそうな表情をしていたから、心配していたのだが」

「時間が経てば立ち直るものだもの」

「それと、やはり好いた男が居ると、違うのだろう?」

「帰りがけアレクの所に行って拳骨でもしてこようかな」


 どうしてほいほい人の気持ちを言いふらすのか。隠してるつもりはないけど、大っぴらにする気もないというのに。

 私の弱味がエド君だという事を露呈したくはないのだけど、もう言われたら仕方がない。……まあ、万が一トーレスが何かしたら、私は遠慮なく報復に走るけども。


「良いではないか、好いた相手が伴侶なのは良いぞ」

「……随分と説得力のある事で」


 因みにクロードは政略結婚ではあったものの、元々好きな相手だったらしく夫婦仲は今でも円満だそうで、愛妻家として知られている。シャハトとは大違いである。


 ……まあ人伝に聞くヘルミーネの人柄だとそりゃあフィデリオも愛しきれないよね。そりゃあアドルフィーネにいっちゃうよ。


「しかし、魔女殿がフィデリオの子と結婚するとは」

「まだしてないからね。全部片付いてから、だし」


 今ごたごたしている状況でする訳にもいかないし、と零すと、クロードは喉を鳴らして笑う。


「それもそうだな。まあ、アレクシスには運がなかったと言うしかないだろう」

「……何でアレク?」

「まあ古傷を抉ってやるのも悪いし此処までにしておこう。トーレスとしては、魔女殿が伴侶を得る事には一切関知しない。私個人としては、祝福しよう」

「……ありがとう」


 国に祝われたいとは全く思わないし寧ろ静かに暮らしたいので迷惑だけど、クロード個人からならありがたく頂く。


 ……まあ彼は彼で余計な企みを考えそうな気もするけど、害がある訳ではない。

 師匠が「クロードは悪戯っ子だからな」とか小さい頃から見てきて苦笑と共に漏らすくらいなので、多分可愛らしい悪戯ではあるのだろう。


「……やはりドレスとか贈り付けたいな。小さい頃から見守ってきた魔女殿が結婚だからな」

「国庫からお金出したら横領だからね」

「私財でするぞ?」

「遠慮しとくよ」


 この体型でドレスが似合う訳もないし、着られてしまうのがオチだもの。エド君だって見たいとか思わないだろうし。


 だから結構ですー、と返すとクロードはさも残念そうに「そうか」とだけ返した。

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