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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第五章 そうして王子様は
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王子様と魔女様のスキンシップ事情

三人称です。

 リアが気持ちを自覚して、晴れて恋人の関係になったエドヴィンだったが、一つ困った事があった。


「エド君っ」


 声を弾ませて抱き付いてきたのは、つい先日思いを交わしたばかりのリアだ。

 お風呂上がりなのか乳白色の眩しい肌を上気させて、柔らかな石鹸の匂いを漂わせて飛び込んでくる。使っているのは同じ石鹸の筈なのに、不思議とリアが纏うのは石鹸の香りにリアそのものの甘い匂い。


 ふわりと漂う香りに一瞬くらっときて、それから押し付けられる柔らかな感触に脳を揺さぶられる。

 幾度となく抱き付かれているしリアが腕の中で眠るようになったとはいえ、両思い状態で薄着のまま触れ合うのは、非常に理性へ試練を課している状態だ。


「……リア、危ない」

「ごめんね。でも、エド君居たからついふらふらーって」


 駄目だった? と眉を下げてしゅーんと犬耳を垂らすリアに、当然駄目だと言える訳もなく。

 悄気そうな子犬を抱き締めて「そんな事はない」と宥めれば、ふにゃりとふやけた笑顔を浮かべて頬擦りしだすものだから、エドヴィンは唇を震わせつつ噛み締める。


 想いを交わした事で、リアはより一層感情表現が豊かになったし、遠慮をなくした。

 結果として二人きりならばくっつくし甘えてくるようになって、嬉しい反面、あんまりにも無邪気に触れてくるので理性耐久コースを強いられているのだ。


 可愛いし愛でたいし欲を言うならもっと触れたい。

 しかしそれを実行すると間違いなく止まれなくなる。

 恐らくリアは何処を触っても「エド君なら」と許すだろう。分からないままもっと深い行為に持ち込む事だって出来る。


 それをしないのは、リアとまだ正式に婚姻を結んでいないからである。

 順序を守っておきたいエドヴィンとしては、どんなに堪らなくそそられても、結婚をするまでは手出しする気はない。……まあ一緒に寝ているがそれはそれとして、事に及ぶ気はなかった。


「エド君、何考えてるの? さっきから眉間に皺が寄ってるんだけど」


 こてん、と首を傾げてエドヴィンを見上げるその仕草すら一々可愛いのだから、惚れた欲目なのだろう。いや、惚れておらずともあどけないリアは庇護欲をそそる可愛らしさがあるのだが。


「我慢は大切だな、と」

「何を我慢してるの。我慢しすぎは体に毒だよ。私には我慢なんてしちゃ駄目だからね!」


 我慢という枷を外したらお前に襲いかかるんですがそれは――と思ったものの、流石に言う訳にはいかなかったので、苦笑しつつ頷く。

 そんなエドヴィンを、リアは訝るように見上げては「分かってなさそう」と不満げに零している。


「……エド君も甘えて良いんだよ? 私ばっかり甘えてるもん」


 こう見えても同い年だよ、と胸を張るリアは、やや幼げな外見をしている。

 肉体年齢は成人前で止まっている、というリアは、小柄だし顔もあどけなさが強い。大人と子供の狭間をさ迷っている、そんな少女だ。


 小さくて柔らかい、自分とは違うか弱い女の子。間違いなく手荒に扱えば傷付く、それが分かるからこそ、エドヴィンは触れるのに慎重にならざるを得ない。

 強く掻き抱けば折れてしまいそうだから優しく包むように抱き締めるし、口付けも優しいものに留めている。


 そんな、愛おしくも幼い少女に甘える、というのは中々に難しい。どうしても年下として見てしまうというか、甘えるより甘えさせたい気持ちの方が強い。


「……む、今エド君私が頼りないとか思わなかった?」

「そんな事は」

「あのね、私は正式に師匠の後を継いだ魔女なんだよ? 強いんだよ? その点ではエド君よりお姉さんだからね?」


 強い云々で言えば当然リアの方が強いだろう。丸々師の力を引き継いでいるし、エドヴィンのようななりたてのひよことは違う。

 それは分かっているものの、お姉さんは違うだろうお姉さんは、と思ってしまうのだ。


 ふふーん、と自慢げに胸を張るリア。どう考えてもその仕草は子供っぽ……本人の名誉の為に可愛らしいと言っておく。

 えへんと誇らしげなリアを撫でたら喜んだのだが、微笑ましげに見ていたのがばれてしまったらしく唇を尖らせて不満を露にした。


「子供扱いしないで。エド君、何か好きになってから子供扱いばっかりしてる気がするのだけど」

「好きだから可愛がりたいんだよ」

「私もエド君可愛がりたい」


 エドヴィンとしては自分のような可愛げのない男の何処をどう可愛がるのか、と疑問で仕方ないが、聞けば思いもよらぬ褒め方をされそうなので止めておいた。


 代わりに宥めるように顎の下を擽るように撫でると、ふにゃんと不服げな顔が溶けて力の抜けた顔になる。

 犬なんだか猫なんだか分からない性格の少女を抱えてベッドにあがると、余計に緩んだ顔になるのだから、堪らない。


「……はっ、エド君が甘えてない!」


 膝の上で暫く撫でて愛でていたら、思い出したように顔を上げて今度は頬を膨らませるリア。

 ぷくう、と膨らんだ頬を擽っても、今度は誤魔化されないと紅の瞳を細めて抗議していた。


「エド君、そんなに私じゃ甘えられない?」

「そういう訳ではなくてだな。……リアが俺を調子に乗らせたら、俺は止まらなくなるから、控えてるだけだ」

「調子に乗ったエド君も気になるし、別にエド君なら怒らないよ?」


 ほら、何を意味してるのか分かってないからそういう事が言えるのだ。


 試しに押し倒して覆い被さってみても、きょとんとした顔が返ってくるだけ。

 首筋に唇を押し当てて幾度となく口付けると、くすぐったそうに身動ぎをして「くすぐったいよー」とやや弾んだ声がエドヴィンの耳朶を擽る。


 真っ白い肌には、目を凝らさねば見つからない程度だが、本当にうっすらとだが細かい傷がある。恐らく迫害されていた時の名残なのだろう。

 本人は気にしていないらしいが、エドヴィンとしては当時痛かったのだろうと気になってしまう。唇を滑らせてその仕打ちを確かめていく。


 滑らかな肌には変わりない。けれど、確かにその体には悪意が目に見える形で刻まれていて、エドヴィンの後頭部が言い知れぬ怒りで熱を持つ。


 自分も忌避されたクチなのでよく分かるが、偏見程下らないものはない。ただ瞳が赤いだけで、リアは捨てられ苦しい思いをしてきた。

 その悪意を拭うように口付けると、リアの体が少し震えた。


 もぞり、と片膝を立てて微かに身を捩るリアの掌を握ってシーツに縫い止めつつ、また口付けて。

 首筋、鎖骨、そこから続く緩やかな勾配に移りかけて、そこで寝間着に遮られた事により自分が何をしていたのか気付かされるのだ。


 バッ、と顔を上げてやってしまったと顔を歪めるエドヴィンを、リアは非難などせずほんのりと上気した頬で見上げていた。


 薔薇色に色付いた頬にとろりと甘ったるい蜜を帯びたような紅の瞳、微かに開かれた薄紅の唇。

 視界に収めるだけでぐぐ、と何かが込み上げてくるのを、必死に飲み下す。


 あれだけあどけないと言っていたが、こういう表情だけ色を帯びるのは、本当に心臓に悪い。

 大人にも子供にも出せない、絶妙なバランスの上に立つ色香に当てられて、一瞬頭から理性が飛びそうになった。


「……エド君、もぅ、くすぐったいよ」


 甘さを匂わせた表情から一転、拗ねたように唇を尖らせたものだから、一気に色気も霧散する。

 ほっとしてしまったのは、あまりにもギリギリのところを留まっていたからだろう。


「ごめん」

「怒ってないけど、どうしたの?」


 握った掌を握り直し、そっとエドヴィンの頬を撫でるリア。

 全く拒む様子はなく、逆にエドヴィンが戸惑う程だ。


「……気持ち悪いとかないのか」

「何でそうなるの。エド君って変なところで遠慮するよね。私はエド君になら好きに触れて欲しいよ?」


 くすぐったいのは苦手だけどね、と笑ったリアは、そのままエドヴィンの首に腕を回して起き上がり、頬に唇を押し付けた。

 そのまま至近距離で悪戯っぽく笑うリアに、ああもうと一緒にベッドに転がって抱き締めて愛でる事にした。……節度を持った触れ合い、という事を自分に言い聞かせて。


 正式に結ばれたら覚えてろ、と口の中で呟き、転がった驚きに目をしばたかせるリアの唇に噛みついた。


 好きにさせて受け入れるという事自体が甘やかすものだと、リアは知らない。

(最終章とか前回の章終わりに言ったけどやっぱり章一つ追加しますごめんなさい)

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