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忌み子なぼっち王子様を手なずける方法  作者: 佐伯さん
第五章 そうして王子様は
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魔女様と王子様の家族

 まあ、エド君の事が好きだと分かったから何か変わるという訳ではなかった。

 ただエド君に触れると普段よりエド君成分で幸せになれるとか、エド君が私に触ってくるようになったとか、そんな違い。


 元々、一緒に住んでて寝食を共にしてるのだから、そんな変わりようがなかったというか。


 どうせ好き同士ならお風呂とかも一緒で問題ないよねと言ったら「まだ早い」と拒まれてしまった。まだ、らしいのでその内入ってくれそうな気もするけど。

 残念、一緒に浸かりたかったのに。


 代わりにお風呂上がりはエド君に髪の毛を乾かして貰ったりしてるので、幸せ一杯なのだ。


 エド君、せっせと私の世話を焼こうとするんだよね。自分でも出来るのに「お前がすると雑だから」との一点張り。

 失礼な、と思ったものの私よりエド君の方が色々と細かい事は上手なので任せてしまった。


 丁寧に乾かされて梳かれて、綺麗に揃えられて。

 寝る前だというのにお出掛け前のようにさらさらつるつるに整えられたので、何も此処までしなくても。


「ありがとうエド君」


 お礼を言いながらエド君に勢いよく飛び付いてアタックすると、エド君は私を受け止めつつベッドに転がった。

 上に乗ってしまったのでエド君が重そうに眉を寄せる。そっぽも向いてしまったけど。


「あのな」

「重かった?」

「重くはないし軽いが、色々と格好を自覚してくれ」

「いつもの寝間着でしょ」


 何を今更。エド君いつも抱き締めてくれてたもん。見るのなんて慣れてると思うのだけど。

 別にいつものワンピースタイプの寝間着だし、袖がないから腕は見えてるけど脚は見えていないし全然問題ない筈。


 何が駄目なのか、と胸元を摘まむとエド君に「前屈みだと見えるから止めろ」と叱られてしまった。エド君見た事あるから気にしないと思ったのに。


「夫婦だったら、別に良いんじゃないの?」

「……あー、いや、そのですね、リアさん」

「うん?」

「……まだ夫婦じゃないぞ?」


 えっ。


「夫婦違うの……? だって、承諾したよ? 夫婦じゃないの?」

「や、……流石に、直ぐに出来るものじゃないし」

「そうなの? てっきりもう夫婦かと思ってた」


 やけに結婚したような実感がないと思っていたらそもそもしていなかったのか。おかしいと思った。

 ……まだ、エド君の奥さんじゃなかったんだね。夫婦とか、名前を拘るつもりはないけど……エド君の唯一だって、形でも明らかになるなら嬉しかったのに。


 なんだぁ、とがっかりしてエド君の胸に顔を埋めると、エド君は半身を起こして私を腿の上に乗せる。


「じゃあ、どうやったら夫婦になるの? エド君の奥さんになれないの?」


 エド君に向き合うように跨がって、問い掛ける。

 エド君から婚姻を結びたい、と言ってきたのだ。エド君なら方法は知っているだろう。


 じー、と見上げると、エド君が眉をほんのりと下げて困ったような顔。

 そんなに難しい事なのだろうか。宣言するだけじゃ駄目なのかな。


 ねーねー、と頬を擦り擦りしながら窺うと、エド君は「……式と床入れを済ませるのが一般的なんだが、どう説明したものか」とぼやいている。


 なるほど、式。そういえば結婚式と言うのを町で見た事がある。あんな感じの事をすればいいのか。

 じゃあ床入れって何だろう。


「エド君、床入れって?」

「……式の夜に初めて夫婦が枕を共にするという事というか」

「いつもしてるじゃない」

「だから説明に困ってるんだ馬鹿。本当は分かって聞いてるんじゃないよなお前。そのもの自体は知ってたよな?」


 何で私が責められているのか。


「兎に角、分からないなら今はそれでいいから」

「じゃあその時になったらエド君教えてくれる?」

「……お、おう」


 何故か挙動不審になりかけのエド君は、それでも頷いてくれた。……そんなに教えたくない事なのか。

 まあ良いや、どっちにせよエド君がその時になったら何とかしてくれるだろう。


 じゃあ今は夫婦じゃなくて恋人とか婚約者という状態なんだなあ。それはそれで何だかくすぐったい響きだ。

 誰かと恋愛するなんて考えてなかったし、魔女が好きな人を作るとか思ってなかったから、初めての事だらけで、とても新鮮だなあ。


 ……私の特別。私の大切な人。私の、唯一。


 もう、離してあげないもん。私は離れる機会を与えたんだもん。それを蹴って私の側に居るのを選んだのは、エド君だから。

 ほんと、物好きだよねエド君。私より可愛くてスタイル良い人なんて、その辺に沢山居るのに。


 魔女が王子様と結ばれるのも珍しいのだけど、その王子様が魔女になるなんて前代未聞だろう。


「……そういえば、エド君のお父様に報告しなくていい?」


 びくり、と体を揺らしたから、分かりやすい。

 エド君はフィデリオを嫌っている訳ではないけど、どう接して良いか分かってないみたいだから。まあ、会った事が殆どないからそれも仕方ないだろうけど。


「お薬作ったら渡しに行くけど、エド君はどうする? 一緒に行く?」


 別に、私一人で行ってもいい。

 今のフィデリオは大分弱っているし、そんな姿を見てショックを受けないとも限らない。元気になってからまた会っても良い。私が元気にしてみせるもの。


 けどエド君は私の提案に首肯した。

 少しだけ、瞳に躊躇いを乗せて。


「……行くさ。俺の父親の事を、お前に任せきりにする訳にもいかない」

「そう。でもこれからは私の義父にもなるのだから、私も頑張るよ?」


 エド君と夫婦になれば、フィデリオの義娘になる訳だ。まあ今気付いたのだけど。

 ……一国の王様を義父に持つというのは中々に衝撃的だ。まあ、エド君はほぼ王族の権利を持っていないしそれも捨てて此処に居る訳で、別に大した事じゃないだろうけど。


「……ありがとう、リア」

「ううん、私がしたくてしてる事だもん。……それに」

「それに?」

「私、お父さんって存在が出来るの、初めてだから。ちょっと嬉しいの」


 これは個人的な事情なのだけど、家族って持った事がなかったから、嬉しい。師匠はあくまで師匠で保護者って感じで、家族と言えばうーんって悩む辺りだから。


 本当の両親なんて、私は知らない。

 気付いたら寒い外に捨てられていて、自分でもどうやって生きてきたのか疑問なくらいにひもじい思いをしてきたもの。


 生きる事に精一杯だった私は、私を生んで捨てた人達なんて顔も覚えていないし、興味もない。別に今幸せだし恨みもしてないから、本当にどうでもいいというか。


 けどまあ暖かい家族ってちょっと憧れはあったので、家族が出来るのは嬉しかったりするのだ。


 重い話をしたつもりではなかったのだけど、エド君は一気に表情を暗くしては私を抱き締めてくる。

 そんな顔させたかった訳じゃないんだけどな。今、温かくて幸せだから、良いのに。知らない他人に関心を抱く程暇でもないし、血縁上の親なんてどうでも良いもの。


「俺が家族になるから、寂しくなんかさせたりしない」

「うん。エド君は、私の大切な家族だよ」

「……そ、その内、家族も増えるだろうから」

「うん、エド君のお父様も家族になってくれるよね。アドルフィーネがどう反応するか分かんないけど」


 アドルフィーネは何処ほっつき歩いてるのか分からないから何とも言えない。……多分だけど、彼女は彼女なりにフィデリオの為に動いてる気もするんだけどなあ。

 まあ、また今度会ったら話を聞いてみよう。


 家族が増えるなあ、とちょっぴりほくほくした気分だったのだけど、エド君が一瞬微妙な表情をしていた。


「エド君は、いや?」

「そんな訳ないだろう。ただ……いやまあ、良い。結婚してから気長に考える」

「う、うん?」


 愛しげに抱き締められて頬におまじないされるのだけど、エド君は何が言いたかったのだろうか。

 ま、まあ良いか。エド君と一緒に居る事には違いないし。


 取り敢えず私もエド君に返して、エド君の胸に顔を埋めた。


 ……家族、かあ。

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